- ただちに危険はありません - https://noimmediatedanger.net -

4-1 線量反応関係、直線仮説か非直線仮説か?

議長のモーガン博士が直線仮説では最近の研究結果を説明できないと、いくつかの研究結果をもとに述べています。最近(1970年代)の研究結果は、低線量をゆっくり長期間被曝すると、がんのリスクが高まることを示していますが、3.11後の日本の専門家は真逆のメッセージを発信している例を最後にご紹介します。

第4章:線量反応関係、直線仮説か非直線仮説か?

モーガン:次の課題にいきましょう。

課題: 今話し合っている影響は線量が上がるにつれて直線的に増えるのか?

さまざまなデータが、がんのリスクは簡単な方法で表せると示していると思います。R(リスク)イコールC(定数)かけるD(蓄積線量)のN乗です。つまり、
R=CD^N
 X線やガンマ線、ベータ線のような低LET(線エネルギー付与)放射線の場合、蓄積線量Dは長期間の損傷の修復分を修正しなければなりません。そうなると、ボンド博士がご指摘になったように、ほとんどの場合、Nは1かそれ以上になり、それは、複数攻撃の効率がより大きいことを意味します。

 ところが、アルファ線や高速の中性子のような高LET放射線の場合は、修復は少ないか、全くないと考えられるので、Nが1以下の時に最適線が得られます。また、1レム(10mSv)あたりの損傷は低線量の方が大きいことを示しています。

 バウム博士(J. Baum, Health Physics Society, 1974)(注1) [1]や他の多くの研究者が示していますが、ラジウム被ばくした人間の場合、がんの発症を示す最適線はNが2分の1の時です。従って、プルトニウム239のような高LET 放射線に関しては、直線仮説はリスクを過小評価するのです。

 私の最近の論文(注2) [1]の中で、現在適用されている直線仮説がなぜ過小評価しているかの理由を5つあげています。要約すると、以下のようになります。

1.動物と人間に対する影響はゼロとされる推論が多く、それは時には過剰殺戮(overkill)があると思われる高線量の放物曲線の下降線部分から推論しています。

2.寿命の短い動物の被ばくから推定されており、BEIRレポートでも指摘されているように、人間のわずか20年ほどの長さからの推定です。もちろん、人間の寿命の残り年数のデータはこの曲線の傾斜を増やすか、1レム毎のリスクを増やすかしなければならないでしょう。

3.ブロス博士が指摘しているように、均一人口というのは、たいてい年齢分布や病気のパターンをあまり考慮しないで想定されています。

4.高線量では細胞が殺されますから、その線量から推論するのはちょっと危険だと思います。低線量のリスクを過小評価するからです。

5.非常に重要なことは、メーズ・シュピース博士たちの最近のデータ、プルトニウムや他のアクチノイド元素のように、ラジウム224によって骨肉腫が起こるという事実は、線量がゆっくりと長期間続く[被ばくする]にしたがって、がんのリスクが高まることを示しています。これは低LET放射線から私たちが観察してきたことと全く逆なのです。

(中略)

私の意見はみなさんを挑発したと思いますから、どんどんご意見をお願いします。

注1: 言及された論文は議事録には記載がないので、年代と内容から推測される論文をあげておきます。「電磁放射線の108パルスに被ばくしたネズミの生物学的影響」Skidmore, W.D.; Baum, S.J. Biological Effects in Rodents Exposed to 108 Pulses of Electromagnetic Radiation, Health Physics, May 1974:以下のサイトからアブストラクトが見られます。
http://link.springer.com/chapter/10.1007/978-94-009-9728-8_22 [2]
注2: 4 章最後にあげられている文献1

訳者解説:モーガン博士の理由5で「線量がゆっくりと長時間続く」と述べているのは、原文ではprotraction of the doseとなっています。専門用語で「遷延被ばく」と言うそうですが、この評価について、3.11後の日本の専門家はモーガン博士たちと逆のことを言っています。

 2011年10月14日に「放射線と健康をテーマにした『医療ルネサンス小山フォーラム』」が開催され、放射線病理学の専門家である国際医療福祉大学教授兼国際医療福祉大学クリニック院長の鈴木元氏が「リスクは、遷延被曝のほうが小さくなる」ことを強調していて、1976年アメリカ議会セミナーの低線量被ばく危険派の専門家と逆のメッセージを送っています。

出典:「基調講演(1)健康への影響のとらえ方・・・国際医療福祉大学教授・鈴木元さん」『読売新聞』2011年11月28日:http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=50838 [3]