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4-8 がん治療で使われる高線量放射線の影響と、低線量の慢性的被ばくの違い

マーテル博士は自分の実験から、非常に低い線量を慢性的に被ばくした場合のリスクは、若い人、子どもの方が早く出ること、ブロス博士はがんの放射線治療に使われるキロラドという高レベルと低レベルの放射線被ばくの違いを説明しています。


マーテル:カール・モーガン博士がおっしゃった直線仮説への批判についてコメントしたいと思います。博士は素晴らしいステートメントをなさったと思います。なぜ高LET放射線が、いくつかの理由から、非常に低い線量でより大きな影響を伴うかもしれないこと、また、なぜ、非常に低い線量への外挿が保守的ではないのかも示されたと思います[注] [1]

 この関連で、目下、私が他の研究機関2カ所と共同で行っている研究[章末文献6]が、不溶性アルファ放射体が喫煙者の肺に存在することを示しています。この少量のアルファ線の活動は、もし複数の変異過程が起これば、喫煙者のがんリスクを高めることにほかなりません。しかし、もし本当に複数の変異過程がかかわっているとしたら[原文強調]、直線仮説は全く間違っていることになります。アルファ線を放出する不溶性粒子の非常に小さな負荷に長期間被ばくすれば、非常に小さくても、リスクがより高まるかもしれません。

 これは、次のような事実によって起こるのです。複数の変異過程において、単一変異細胞の自己増殖が絶えず起こり、その結果、同じ細胞内で2回目の特殊な変化を起こすリスクが単一変異細胞の数に比例して起こります。そのうちの、いくつかだけが放射線に直接影響されて起こりますが、その一つ一つが被ばくした細胞の有糸分裂活性によって増殖します。

 みなさんご存知のように、有糸分裂活性は臓器によっては他より盛んで、子どもではさらに高いのです。ですから、がんリスクは慢性的被ばくの場合は非常に高い率で上がります。被ばくが始まる時期が若ければ、影響も若い人の方が早く出て、リスクも高くなるということです。

訳者注:「非常に低い線量への外挿」と訳した部分は ”to extrapolate to very low doses of radiation”となっています。普通は「推定」するという意味ですが、放射線影響を評価する場合に、この数学用語が使われるそうです。

 訳者の力量/理解不足で、マーテル博士のこの部分に誤訳があってはいけませんから、原文を以下に記します。専門家が読んでくださって、誤訳があれば、ご指摘いただければと思います。議事録の原文49ページ最下部から50ページです。

I would like to add a comment with respect to the critique of the linear hypothesis that Dr. Karl Morgan made. I think he has made an excellent statement to indicate why high LET radiation, for several reasons, may involve higher effects at very low levels and why it is not conservative to extrapolate to very low doses or radiation.

In this connection, a study that I have been carrying out, in cooperation with two other research groups, [6] shows that insoluble alpha emitters are present in cigarette smokers’ lungs.

And the small amount of alpha activity involved can only contribute to cancer induction in smokers if a multiple mutation process is involved. However, if a multiple mutation process is involved, the linear hypothesis would be seriously in error and we could have very much higher risks for longer exposures to very small burdens of insoluble alpha emitting particles.

This arises from the fact that, for a multiple mutation process, one has a self-proliferation of the singly mutated cells tacking place continuously, so that the risk of getting a second particular change in the same cell is proportional to that number of singly mutated cells only some of which have been directly induced by radiation, but each of which will have proliferated according to the mitotic activity of the cells being irradiated.

As we all know, the mitotic activity is higher for cells in some organs, and higher in the young. Therefore, the cancer risk will increase very significantly for the chronic exposure case, and the earlier such exposure begins, the earlier the effect and the higher the risk.

バーテル:ここで一つ付け加えたいのですが、「放射線は直線的影響をするか」という質問は、今私たちが議論していることに関してはあまりに単純化していて、誤解を招きやすいと思います。まず第一に、影響は複数あること、次に、私たちが議論すべきは、異なった生物メカニズムについてだと思います。この質問を精査して、「このメカニズムは直線的か」とか「この結果は直線的に現れているか」などにしない限り、公衆衛生の問題をあいまいにしてしまうと思います。

(中略)

ブロス:バーテル博士が指摘した点はすばらしいと思いますので、その点をはっきりさせたいと思います。お話ししたいのは、蓄積された遺伝子損傷と直線仮説との関係についてです。放射線が人間の細胞の遺伝物質、DNA、の繊細な生化学的構成に微小な損傷点を起こすことはご存知の通りです。人間のデータからもよくわかっています。放射線がキロラド(kilorad)のレベルでは複数の損傷を与えることが臨床研究からわかっています。この特殊な損傷は、細胞が効果的に再生されないので、すぐに目に見えてわかります。実際の再生をブロックするには、複数の放射線が当たる必要があります。たった2,3当たるだけで、被ばくした大人の細胞はがんになり、その人の子どもの細胞もがんになって、両方とも遺伝子変化を起こすのです。

 そして、別の状況になるわけです。ところで、キロラド線量の放射線ががん治療に使われるのはがん細胞を生きたままフライにするためではなく、重い遺伝子損傷を起こすためです。その損傷点は線量に比例します。しかし、低線量レベルでは、幸か不幸か、あらゆる損傷が次世代に現れるのです。一方、損傷がもっと重い場合は、損傷の一極集中が高い場合は、再生がブロックされるだけですから、その影響が現れることはありません。