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4-9 訳者解説:キロラド/キログレイって何?

4—8節でブロス博士ががんの放射線治療に使われる「キロラド」という放射線量の単位について触れていたので、「キロラド」が何に使われるのか調べてみました。現在はキログレイですが、このアメリカ議会セミナーと同時期に、日本でも60キロラド照射されたジャガイモを食べたラットの実験結果が国会で問題にされていました。

訳者解説:キロラド/キログレイ

・ 1977年: 土井たか子衆議院議員(社会党)が「照射食品に関する質問主意書」を提出し、「60キロラド」照射された馬鈴しょを食べたラットに体重減少、卵巣重量の減少などが見られたという実験から、食品照射の安全性について質問したのである。

 政府の答弁は「照射馬鈴しょの長期投与による悪影響は無いものと判断」としている。それぞれ衆議院ホームページからアクセスできる。

衆議院「照射食品に関する質問主意書 昭和五十二年三月二十九日 提出者 土井たか子」
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/a080013.htm [1]

「衆議院議員土井たか子君提出照射食品に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する」
http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_shitsumona.nsf/html/shitsumon/b080013.htm [2]
 
・ 2006〜2009年:「原子力委員会市民参加懇談会」が全国で開かれた。その目的は、1995年に起こった高速増殖炉もんじゅの「2次ナトリウム漏えい事故を契機に高まった原子力政策に対する国民の不安感等に応え、国民的合意の形成に資するため」とされている。開催場所は刈羽・東京・青森・敦賀・埼玉・福島ふたば・福岡・御前崎・姫路・札幌・松江・横浜・富山・京都・鹿児島の順であった。

 そのうち「市民参加懇談会in姫路 『21世紀の放射線利用について』〜知りたい情報は届いていますか〜」(2006年3月11日)の議事録に興味深い議論があった。原発については全く議論されていないが、食品照射や医療被ばくについて、危険とする市民団体代表と、費用対効果を考えるべきという推進派専門家の議論である。

 この30年近く前に土井たか子議員が質問した食品照射の影響に対する政府答弁と同じやり取りが繰り返されている。食政策センタービジョン21の主催者・安田節子氏が、唯一照射が認められているジャガイモの安全性について、子孫への影響があるのではないかと懸念を示したのに対し、多田幹郎氏(開催時:岡山大学大学院自然科学研究科教授)が「ありませんので、ご心配なく」と明言した。同時に、動物実験についてはラットの「全えさの中の20%だとか40%をタマネギにして実験したんです。そうしますと、放射線当ててないタマネギも当ててるタマネギも両方ともそれこそバタバタと倒れ出したということなんです。そこで(中略)慌てて人間が食べるであろう、我々が食べるものの10倍ぐらいのものになるんですが、1%から4%までの濃度にして(中略)、その結果、何ともなかったよということなんです」と述べている。この懇談会の結論は、放射能の有用性をアピールするためには教育が大事で、小学・中学校で放射線の有用性について教えるべきだとされた。
議事録:
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/simin/sankon/siryo/himeji/gijiroku.pdf [3]

・ 2009年:オーストラリアのペットの猫90匹ほどが、キャット・フードを食べて脳障害を起こし、死ぬケースが多発した。輸入キャット・フードをオーストラリア上陸時に放射線照射した結果だと考えられ、政府はすぐにキャット・フードの放射線照射を中止した。犬は被害を受けていないようなので、ドッグフードへの照射は禁止されなかった。

出典:「ペット理論が証明され、キャット・フード照射が禁止」『シドニー・モーニング・ヘラルド』2009年5月30日
(”Cat-food irradiation banned as pet theory proved”, Sydney Morning Herald, May 30, 2009)
http://www.smh.com.au/national/catfood-irradiation-banned-as-pet-theory-proved-20090529-bq8h.html [4]

 オーストラリアの事件について、照射食品反対連絡会の2010年7月17日声明「照射キャットフード事件は人類への警告である」からご教示いただいた。
 http://sites.google.com/site/noshousha/activity/10717 [5]

・ 2010年:「食品安全委員会」文書「食品の放射線照射について」には、「食品衛生法に基づく規格基準で認められている吸収線量は150Gy(=0.15kGy)であり、世界保険機関(WHO)が食品に照射しても安全性に問題がないとしている吸収線量10kGyより低いレベルに抑えられています」と書かれている。
出典:内閣府食品安全委員会:
 http://www.fsc.go.jp/fsciis/questionAndAnswer/show/mob07018000043 [6]

・ 2012年:「レバ刺し殺菌で再び注目 食品に放射線 原発推進派動く」『中日メディカルサイト』(2012年8月21日)によると、多田幹郎氏が「食品照射は日本でも国家プロジェクトとして20年研究され、世界で採用されている技術をいつまでも採用しないのはいかがなものだろうか」と三菱重工のホームページ上で述べているという。2006年の「原子力委員会市民参加懇談会」で食品照射は安全だと言った専門家である。

 この原子力/放射能推進の動きに警鐘を鳴らす「健康情報研究センター」代表の里見宏氏は国立予防衛生研究所で照射食品の検知法の研究に携わり、その後市民団体を立ち上げて、30年にわたって照射食品の危険性を訴えている。

出典:http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20120822141525707 [7]

・ 2013年:「一日も早く、照射で安全を確保した[牛]レバーを提供できるようにすべき」と、日本原子力研究開発機構・量子ビーム応用研究部門研究主席の小林康彦氏が訴えている。

出典:「牛レバーの生食再開いつ? 放射線照射で殺菌可能」『産経ニュース』2013年12月11日:
http://sankei.jp.msn.com/life/news/131211/trd13121111300006-n1.htm [8]

生き物の内部被ばく

・ 2014年5月15日:3.11後の日本の蝶(ヤマトシジミ)の内部被ばくの影響を「定量的に論じた世界的に希少な論文」がに世界的なジャーナル『ネイチャー』のScientific Reportsに掲載された。結果は「低線量で影響が急激に増大する」と、1976年にスターングラスらが強調していた低線量被ばくの危険性を実証したものになっている。

 論文の詳細は研究チームの琉球大学大瀧研究室のサイトから:
http://w3.u-ryukyu.ac.jp/bcphunit/papers.html [9]

・ 2014年5月24日:「小型渡り鳥、尾羽根の異常が急増 2011年秋から」:オオジュリンという渡り鳥を東北から九州まで17地点を調査した結果、「2012年3月までに調べた5541羽のうち13.8%」に異常が見られ、その97.3%は2011年生まれの幼鳥だったという。

出典:『朝日新聞』デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASG5N56HZG5NUGTB00V.html [10]