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5-2 原発・核施設の作業員の被ばく

バックグラウンド放射線の被ばく以外で、要注意の被ばく対象者をあげていきますが、その過程で、核施設の作業員を対象とした疫学調査研究について詳細や問題点が明らかにされていきます。


アーチャー:放射線被ばくの対象になる特別サブ・グループについて、簡単に要約できると思います。バックグラウンド放射線に晒されている全人口は抜かし、原発から出る放射線被ばくと核実験のフォールアウトも無視すれば、職業被ばくを簡単に要約できます。

 放射線被ばくしている職業グループがいくつかあります。過去には非常に多くの過剰被ばくがありました。

・ 医療放射線医師・レントゲン技師・歯科医・歯科技師——このグループにはがんの過剰発生が見られるという研究がいくつかありますが、最近の放射線防護技術と規制で、私の感触では、現在過剰被ばくの人は少なくなったと思います。

・ ウラン鉱鉱夫——このグループも過去には過剰被ばくしていました。現在は鉱夫用の被ばく基準ができて、かなり防護になっていると思います。鉱山会社が今まで以上に被ばくを減らせるかは、全くわかりません。すべての放射線被ばくにある程度リスクがあるのと同様、ウラン鉱鉱夫のリスクはまだあると思います。

・ 蛍光塗料(時計)従事者——この人たちは、以前は時計の針にラジウムを塗っていたので、結果として多くの骨がんが発症しました。対処法の発達とトリチウムへのシフトによってこの問題はなくなりました。

・ 医療被ばく:過去には放射線に過剰被ばくした患者がいました。中でも有名なのは、いろいろな理由から、ラジウムやトリウムの溶液を注入された患者です。トリウムを含むトロトラストがX線造影剤として使われたのです。これらの放射性物質はもう使われていませんが、今でも、特に皮膚科の医者には、悪性腫瘍でない病気にX線治療をしている者がいます。このような治療は、患者のもともとの病気よりも悪い病気をもたらす結果になることもあります。私にはこの過剰被ばくは必要ないと思えます。

・ 胃腸症状を伴う結核:この患者は過去にはX線の過剰被ばくがありました。今は結核患者に対する過剰被ばくはあまりありません。

・ 胃腸症状:いくつかのタイプの胃腸症状には、今でも定期的にレントゲンを使うことが普通に行われています。今では、多くの場合、レントゲンは必要なくなっています。食道・胃・十二指腸・結腸の病気を探るのに、もっといい技術ができました。それは内視鏡です。

・ 結論:原子力産業で、今でも過剰被ばくしているのは、ウラン燃料の再処理工場の作業員です。

モーガン:記録のために、ウラン鉱夫の何人ぐらいが発がんケースか教えていただけますか。

アーチャー:私たちの研究対象のウラン鉱作業員なら申し上げられます。鉱夫が何人いるかわかりませんが、推定で、15,000から20,000人です。研究対象にしているのは4,000人です。このグループには170人の肺がんケースがあり、その半分以上が小細胞未分化がんタイプです。このタイプのがんが、他のグループの人々よりもウラン鉱夫に多いのです。

訳者注:この後、議事録原文37〜43ページにかけて、精錬尾鉱の作業員の被ばく、医療被ばくなどについての最新の調査結果の意見交換が続きますが、重要だと思われる点を箇条書きにします。

・ 超ウラン元素被ばく者国家登録(United States Transuranium Registry):ハンフォード核施設の作業員を含む長期の研究。超ウラン元素被ばく者国家登録はボランタリー・ベースで、志願率の高いハンフォードの場合、2367人の超ウラン作業員のうち、2174人の保健物理と医療記録の公開が得られている。この人数のうち、525人から、死後の解剖に対する生前同意を得ている。多くの人は検死の同意を生前にすることに対する偏見を持っている。

・ ロスアラモス研究所の疫学研究:超ウラン元素被ばく者国家登録よりも規模の大きいプルトニウム作業員の研究。259人から保健物理と医療記録の公開が得られていて、検死の同意はその半数の人数。

・ ロッキー・フラッツ:超ウラン作業員は1772人で、1611人の記録の公開、173人が検死に生前同意している。

・ サバンナリバー国立研究所:この研究所は以前は登録プログラムに参加していなかったが、今は積極的に登録プログラムに参加している。現在登録されている作業員の数はわからない。

訳者解説:

超ウラン元素被ばく者国家登録(United States Transuranium Registry)

 ワシントン州ハンフォード核施設で働く作業員の職業被ばく防護の基礎作りと、病理学者に病因とプルトニウムの各臓器への蓄積との関係を知らせるために、作業員の検死解剖をし、各臓器の組織を分析する「ハンフォード検死解剖研究」が1949年に始まり、1970年に「米国超ウラン元素被ばく登録」に発展した。この目的はプルトニウム被ばくと健康被害との関係を調査することで、70年代は疫学調査だったが、やがて生体動力学と健康物理学へとシフトしていった。

出典:ワシントン州立大学薬学部、米国超ウラン元素・ウラン登録ホームページ「USTURの歴史」:
http://www.ustur.wsu.edu/History/history.html [1]

 なお、「米国超ウラン元素被ばく者国家登録」の名称は日本の原子力安全委員会の文書による:「燃料施設の立地評価上必要なプルトニウムに関するめやす線量について」原子力安全委員会決定 昭和58年5月26日、文部科学省HP掲載:
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/t19830526001/t19830526001.html [2]

ハンフォード・サイト(Hanford Site):

原爆製造などの核兵器施設としてマンハッタン計画時代から1987年まで活動を続けてきたが、現在は「地球上で最も汚染された場所」とされ、周辺地域での健康被害が深刻だという(注1)。この議会セミナーの5ヶ月後、1976年8月に作業員が爆発で大けがをし、被ばく量は職業被ばく限度の500倍だったという。爆発を起こした部屋はハンフォードで最も危険な部屋とされ、事故後初めて38年ぶりに開けられ、夏から除染作業に入ると、2014年7月3日に報道された(注2)。一方で、蓄積されている放射能量がチェルノブイリで放出された量の2倍で、貯蔵タンクからの漏れや地下水の汚染、連鎖反応や水素爆発の可能性などで、除染作業が危険すぎるとも評されている(注3)

注1;「アメリカの原子時限爆弾 ハンフォード核廃棄物は依然リスクが深刻」(“America’s Atomic Time Bomb: Hanford Nuclear Wastes Still Poses Serious Risks”, Spiegel, 03/24/2011:
http://www.spiegel.de/international/world/america-s-atomic-time-bomb-hanford-nuclear-waste-still-poses-serious-risks-a-752944.html [3]

注2:“Feds to Clean Site of 1976 ‘Atomic Man’ Accident”, Jul 2, 2014, AP/ABCNews:
http://abcnews.go.com/US/wireStory/energy-department-clean-nuclear-accident-site-24400189 [4]

注3:“Hanford Nuclear Waste Cleanup Plant May Be Too Dangerous”, May 9, 2013, Scientific Americans:
http://www.scientificamerican.com/article/hanford-nuclear-cleanup-problems/ [5]

ロッキー・フラッツ(Rocky Flats):

コロラド州デンバー近くに、1951年に建設された核兵器製造施設で、エネルギー省の管轄だった。1952年から1994年まで核兵器を製造した。環境問題から1989年に突然閉鎖されたが、施設はプルトニウムなどによって高濃度汚染され、エネルギー省はアメリカ史上最も困難な除染問題に直面している。

出典:米国エネルギー省ホームページ「ロッキー・フラッツ」:
http://www.lm.doe.gov/rocky_flats/Sites.aspx [6]

サバンナリバー(Savannah River Site):

エネルギー省のプルトニウムなどの核兵器製造施設。1988年に核兵器製造は停止になったが、宇宙開発用、医学、原子力産業用の研究は続けられている。2004年に核廃棄物、原子力施設の汚染除去の国立研究所に指定された。

出典:「サバンナリバー国立研究所原子力汚染除去サービス、『科学を作業に投じる』」
http://forumonenergy.com/tag/サバンナリバー国立研究所/?lang=ja [7]