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5-4 市民の声:プルトニウム再処理と増殖炉は危険

市民との質疑応答の中で、プルトニウム産業の作業員の被ばく限度(年50mSv)が過剰被ばくだという指摘、作業員の健康調査がなければ、線量測定しても意味はないという指摘、プルトニウム再処理工場と増殖炉が経済的だという論は危険、原発周辺の小規模調査をすべきだという意見が出されました。


モーガン:聴衆の方からの質問を受けたいと思います。コメントをなさりたい方はお名前と所属をお願いします。

市民(男性):チョーンシー・ケプフォード(Chauncy Kepford)です。ペンシルベニア州ヨークに住んでいます。先ほど、管理された放射線被ばくの対象となる人体実験はないとおっしゃいましたが、賛成できません。数千人の作業員がプルトニウム産業で働いています。また、1954年か55年の原爆実験直後に、アメリカ軍の1部隊全部が放射能に汚染された地上を行進しました。

 この人たち全員の健康記録はどこにあるんですか? 追跡調査されたのでしょうか? 現在、プルトニウム産業界では、昔の原子力委員会の記録を見れば、少なくとも1968年から73年にかけての1,2,4,5,6号までを見れば、作業員が放射線に過剰に被ばくしているケースが極端に増えていることがわかります。年におよそ5レム(50mSv)です。

 私の質問は、この人たちの追跡調査はどこにあるのかという点です。外部被ばくを記録するフィルム・バッジを私たちが持っていることが一つですが、放射線被ばくした人たちの健康データが続けられなければ、そもそも被ばく線量を記録する意味はほとんどなくなりますよね。

訳者注:

フィルム・バッジ(film badge)

 日本の原子力規制委員会の説明によると、個人の外部被ばく線量を測定するための「写真乳剤の感光作用を利用した個人線量計」。写真も掲載されている。
出典:http://www.nsr.go.jp/archive/nisa/word/28/0832.html [1]

モーガン:バー博士、回答を短くお願いできますか。

バー(Burr):作業員の健康と死亡率の研究はあります。のちほど、ERDA(アーダ:米国エネルギー開発研究局Energy Research Development Administration)のプログラムについてお話しようと思っていますが、私たちは入手可能な情報を利用しようと努めてきました。超ウラン元素被ばく者国家登録に言及している他の研究もあります。これはプルトニウム作業員のフォローアップですが、それは後で述べます。今のところ、この説明で十分だと考えます。

バーテル:バー博士にお答えいただけるかと思いますが、慢性疾患のデータを集めていらっしゃるのでなければ、被ばくのデータを分析する時、何を期待していらっしゃるのでしょうか。この業界には、作業員の医療記録が子どもの記録も示している所はあるのでしょうか。つまり、もし子どもに遺伝的損傷が表れたら、それは記録されるのかという点です。それが記録されていれば、分析できるわけですが、核産業の中で記録している所はあるのですか。

バー:2番目の質問からお答えします。ないと思います。もちろん、日本の研究に関連した遺伝的研究はあります。この中にはF1世代[遺伝学用語で、第一代目の子]の研究も含まれています。しかし、私の知る限り、あなたがおっしゃったことに相当するものはないと思います。

 1番目の質問は慢性疾患についてですね。これに関する情報のいくつかは、健康と死亡率の研究から入手可能だと思いますが、現時点で、分析された形であるとは申せません。

市民(女性):ヴィラストリゴ(Villastrigo)と申します。「平和を求める女性のストライキ」(the Women’s Strike for Peace)のメンバーです。カルディコット博士が非常に重要なステートメントをなさいました。ですからパネルはこれからの2,3時間、もっと注意してこの問題に対応すべきだと思います。博士がおっしゃったのは、私たちが「プルトニウム・エコノミー」[訳者解説を参照]の時代に入ったこと、それが始まったばかりだということです。

 プルトニウム・エコノミーの問題はここでまだ話し合われていませんが、この国のいたる所で、核兵器の製造が行われていることです。これらの地域周辺の人びとは放射線被ばくを受け続けています。ネヴァダの核実験場もそうです。特に指摘したいのは、最近、まさにこのプルトニウム・エコノミーに被ばくしている多くの人がロッキー・フラッツ地域にいるということです。ロジャー・ラパポート(Roger Rappaport)が『偉大なアメリカの爆弾マシーン』(The Great American Bomb Machine)という本で、この武器製造地域は低線量の放射線のために、危険すぎて住むことができないと書いています。

 私が知りたいのは、この地域に住んでいる人びとに関する研究がなされたのか、被ばくのレベル、そして、私たちがこのことについて情報を得ることが可能なのかです。

エレット:私がちょっとお答えしたいと思います。EPA(Environmental Protection Agency環境保護局)がロッキー・フラッツのプルトニウムのサンプルに関して特別な研究を行っています。また、周辺でと殺された牛にも特別な調査をしています。というのは、牛は人間よりも高線量の被ばくをしていると考えられるからです。地面近くに鼻をつけて呼吸しているわけですから。この研究から期待できるのは、ロッキー・フラッツの空間線量以上のデータです。この地域の人間と動物の体内に入ったもののデータです。

市民(男性):マーク・スワン(Mark Swann)と申します。ペンシルベニア州の原発の近くに住んでいます。個別の原発立地周辺の小規模疫学調査をするのは可能でしょうか。私たちは大きなプログラムや原発事故に巻き込まれることはないと思いますが、問題が起こる前の自分たちを計測できないかと。放射線による損傷のメカニズムを理解するために税金を費やすのは無駄だと思うのです。それより何が起こっているのかを見つけるべきだと思います。

 試験区域が必要でしょうし、そのようなプログラムの費用は少なくとも原子力産業に負担してもらうのはフェアでしょうか。結局のところ、原子力産業は稼いでいるわけですから。ブロス博士にお答え願いたい。

ブロス:実現可能な調査だと思います。私たちはずっと、そのような調査をヨークとか、いろいろな所でしようと努力してきました。このような調査に対する関心は大きかったのですが、費用の段になると、関心も急に消えてしまいました。

 巨額のお金が原発や増殖炉や高エネルギー物理学などのプログラムにつぎ込まれていくことはご存知でしょう。そのわずかな額でこのような健康サーベイランスのシステムができるのですが、誰も興味を示しません。

訳者解説:

プルトニウム・エコノミー(Plutonium economy)

 1960年代から70年代前半にかけて、プルトニウム核燃料を消費しながら、同時に生成するという増殖炉に注目し、効率よく、経済的だということから「プルトニウム・エコノミー(経済)」という名称が生まれたようで、増殖炉そのものにも、経済的なプルトニウムという意味でも使われた。しかし、実際にはコストの高さ、技術の難しさ、何よりも武器に転用される危険性とその破壊力などから、1974年に見直しが始まり(注1)、1976年にフォード大統領が「核政策に関する声明」(注2)を出して、アメリカはプルトニウム再処理と増殖炉を使うべきでないと、全世界にも訴えた。翌年就任したカーター大統領もその路線を踏襲し、プルトニウムの再処理とリサイクルを無期限に延期するという声明を、就任後の最初の仕事の一つとして出した。しかし、日本はプルトニウムを捨てることを「猛烈に拒否し」、「成功する見込みの全くない増殖炉プログラムに莫大な資金をつぎ込んだ」と批判されている(注3)

注1:Frank N. von Hippel, “Plutonium and Reprocessing of Spent Nuclear Fuel”, Science, vol.293, No.5539, 28 Sept. 2001, pp.2397-2398.

注2:フォード大統領声明”President Ford: Statement on Nuclear Policy, October 28, 1976”:
http://www.presidency.ucsb.edu/ws/?pid=6561 [2]

注3:PBSテレビ FRONTLINE, Sprugeon M. Keeny, Jr, “Plutonium Reprocessing Twenty Years Experience (1977- 1997)” (スパージョン・キーニーJr「プルトニウム再処理の20年間の経験(1977−1997)」):
キーニーJr.(1924-2012)はトルーマン・アイゼンハワー・ケネディー・ジョンション・ニクソン・カーター政権で核実験禁止、核拡散防止条約などのアドバイザーを務めた。
http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/reaction/readings/keeny.html [3]