6-7 プルトニウムはマラリアや天然痘より危険

プルトニウムを扱う作業員が吸入する危険性について、プルトニウムを積んだトラックが国内を行き交う際の危険性など、カルディコット博士が訴えます。マラリアや天然痘より遥かに危険だから、原発や増殖炉を止めるように政府に要望し、市民が拍手して賛同を示します。


カルディコット:終末期疾患の人がプルトニウムを注射されたという研究はありますか。

マットソン:私が答えてもいいですか。

 プルトニウムのような内部被ばくの点で危険な放射性物質を扱う労働者は、日常の作業がこれらの内部放射体の完全な閉じ込めの環境で働いています。メンテナンスや事故や事象などの異常な状況の場合だけ、内部放射体が作業環境の空中に放出されることがあります。

 そのような場合、作業員は呼吸マスクを付けます。そして、医療関係者によって非常に綿密にモニターされます。たとえば、粘液を綿棒で除去したり、内部被ばく測定が行われます。

カルディコット:呼吸マスクを使っても、プルトニウム粒子を取り除くことも、気管支スワッビング(綿棒で除去する)でも、気管支洗浄でも取れません。少しは取れるでしょうけれど、すべては無理です。

 連邦政府と州政府の公衆保護の責任について注意喚起したいと思います。プルトニウム・エコノミーを始めようとしているようですが、今すぐじゃなくても、何万年も先の世代にとって。2020年には、30,000トンのプルトニウムを生産することになります。予想では、アメリカ国内の高速道路に年間100,000ものプルトニウムを積んだ車が行き交うことになります。プルトニウムは私たちが知っている物の中で、最も毒性の強い、発がん物質で、100万分の1グラムのプルトニウムががんを引き起こすのです。

 ご提案したいのですが、連邦政府と州政府の責任は規制/規則を算定し、すぐに報告することです。しかし、将来の世代や社会がこのプルトニウムをどうするか、そしてこのプルトニウムに何が起こるか、子どもたちの将来世代に何が起こるか予想することはできません。しかも、これは2020年についてだけで、私たちが原子力を使い続けたら、2050年にどうなっているか、3000年にはどうなっているのかは予測もつきません。

 小児科医として申し上げますが、この問題は私たちの経験の中で最大の健康被害で、マラリアや天然痘より危険が大きいのです。なぜなら、生命の遺伝子を構成する単位に対する損傷の可能性が莫大なのです。連邦政府と州政府の責任として、原子力発電所とプルトニウムを作ることを止めることを提案します。私たちは既にプルトニウムに汚染されています。私たちみんなです。核実験によるフォールアウトから汚染されているのです。その危険性がどの程度のものか、私たちはまだわかっていません。

 大規模な疫学調査研究が必要です。将来世代に対する危険性がわかりませんから、危険だと証明するのは私たちの役割です。あるいは、原子力産業は原子力が安全だと証明するために原子力を続けたいというのですか。

(拍手かっさい)
 
モーガン:議長としては、パネルにはこの提案について答えるよう求めません。適切に答えるためには今週全部かかるのは確実ですから。

訳者解説:

日本のプルトニウム・エコノミー問題(2)

 1976年のアメリカ議会セミナーの1年後、アメリカが核燃料再処理や高速増殖炉開発から撤退したことは5—5「日本のプルトニウム・エコノミー問題」で紹介した。

 核先進国の国々が技術的にも経済的にも難しいとしている増殖炉について、日本では、事故やトラブル続きの増殖炉もんじゅに対して、維持費として2014年度に199億円つぎこみ、その「研究計画」を規制庁が妥当としたことも見てきた通りだ。その後の動きから、政府・原子力ムラがプルトニウム・エコノミーを進めようとしている事例をいくつか紹介する。

日本はプルトニウム・エコノミーに向かって走っている

 2014年8月30日の『東京新聞』報道によると、経済産業省は2015年度概算要求に、14年度より多い額を要求し、「原発への依存度を可能な限り引き下げる」というエネルギー基本計画に逆行する要求をしたという(注1)。このニュースと連動しているのかと思わせる動きが原子力ムラであるようだ。

 5—5で紹介した「原子力科学技術委員会もんじゅ研究計画作業部会」(2013年9月25日開催)の直前に、日本エネルギー経済研究所特別顧問の田中伸男氏が、日本はプルトニウム・エコノミー「に向かって走っている」と述べている。「日本のエネルギー安全保障を考える(下)」と題した意見(「日本エネルギー会議」というサイトに2013年9月3日付けで掲載)の中で述べたものだが、田中伸男氏の主張点は、原発再稼働とプルトニウム・エコノミーである。

・「原発再稼働はアベノミクスの”第4の矢”である」:再稼働は元の基準で判断して進めるべき、
 原発の安全レベルは事業者[電力会社]に任せるべき

・ 「使用済み燃料の再処理と高速炉の開発・利用は、どうしても原子力を利用するには必要な技術」(注2)

日本のプルトニウム保有に問題あり

 一方、2013年4月には原子力委員会委員長代理の鈴木達治朗氏がアメリカ国務省次官補から「六ヶ所再処理施設を稼働することは、米国にとって大きな懸念となりうる」と指摘されたと原子力委員会で報告している(注3)

 その1年後、2014年6月に、IAEAに対するプルトニウム保有量の報告に漏れがあったことが発覚したという。640キロ少なく報告し、その量は「単純計算で核爆弾5500発分以上に相当する」とされている。この報告漏れに気づいたのはウェブサイト「核情報」だというから、民間アナリストがウォッチングしなければ、担当の原子力委員会も事務局も核管理の専門家集団として機能しないということだろう。上記の鈴木達治朗氏が「委員会が気付かなかったのは反省材料」とコメントしたと報道された(注4)。ちなみに、日本のプルトニウム保有量は、ロシア、英国、アメリカ、フランスに次いで世界4番目に高い44.2トンである(注4)

統合型高速炉(IFRインテグラル・ファースト・リアクター)のセールスマン

 田中伸男氏は上記の「オピニオン」で、高速増殖炉「もんじゅ」がうまくいってないので、「新しい燃料サイクルメカニズムが必要」と述べ、統合型高速炉(IFRインテグラル・ファースト・リアクター)が答だと主張している。

 そして、これを推進する映画『パンドラの約束』(Pandora’s Promise, 2013年アメリカ製作)の広告塔を「日本エネルギー会議」が行っていることがホームページから窺える。特別試写会を主催し、紹介記事、講演会+上映会のお知らせなど、頻繁に広告を行っている。田中伸男氏自身も広告塔の役割を担い、「日本に対する非常に重要なメッセージがある」「原子力の平和利用国家である日本が、一体どうすればこれから原子力を進めることができるかという非常に重要な問題を提起している」(「新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望」主催:一橋大学・独立行政法人経済産業研究所、2014年3月10日 注5)と映画の紹介と評価を述べている。

 2014年5月28日には東京大学の「社会構想マネジメントを先導するグローバルリーダー養成プログラムGSDM」のセミナー「原子力の平和、安全な利用と統合型高速炉」が開催され(注6)、田中伸男氏、鈴木達治朗氏、前原子力委員長の藤家洋一氏、2014年9月から原子力規制委員になる田中知東大工学部教授などが主要メンバーとして名前を連ねているが、全員IFRの推進者ということだろう。田中知氏については委員就任前から原子力事業者や関連団体からの寄付、報酬の受け取りが報道されている(注7)

統合型高速炉(IFRインテグラル・ファースト・リアクター)の危険性

 CNNがこの映画の評価記事を掲載しているので、一部紹介したい。

・ 新しい映画『パンドラの約束』は原子力へのラブ・ソングだ。しかし、プラス面を誇張し、マイナス面を軽視している。

・ この映画は原子力が地球温暖化への唯一の解決策だとしている。アメリカの原発事業者で、今日、原発の新設を政府の巨額の支援なしに考えているものは一つもない。アメリカの主要な環境団体で、化石燃料による気候変動の解決策として原子力を推奨しているものは一つもない。

・ まだ実現化していない統合型高速炉(IFR)とフランス国家がこの映画の本当のスターだ。1994年にクリントン政権はIFRを否決した。なぜなら、プルトニウムがテロリストや非核武装国家によって[核兵器に]転換される可能性があるからだ。ところが、映画はIFRをモデルにした「第4世代」原発は最初の3世代原発が生み出した核のゴミを燃やし、核廃棄物の長期間処分という大問題を「解決する」と締めくくる。

・ 核のゴミを第4世代原発で燃やすというのは、プルトニウムを燃料とする原発が、何百基も何千基も、何百年間も稼働するということで、結果として、IFRと燃料加工施設がつくり出す燃料、つまり放射能が環境中に放出され、その量が増加することを意味するが、映画はこのことについて触れていない。

・ 映画はまた、反原発活動家たちが放射能のリスクを誇張しすぎると主張している。映画製作者たちが原子力を推進する映画の題名にパンドラを選んだことを覚えておこう。ギリシャ神話に登場するパンドラは、開けずにそっとしておくべきだった災厄の箱を開けたために、悪魔が解き放たれたのである(注8)

安倍政権・経産省・文部科学省・原子力ムラは広がる放射能被害を切り捨て?

 1980年代後半にアメリカが日本のプルトニウム保有や、英仏から日本へのプルトニウム輸送について、事故が起こった場合の放射能汚染を含め大きな懸念を表明していた時、交渉にあたった主要人物の一人が、当時の通産省国際原子力企画官だった田中伸男氏だったという(注9)

 この田中氏が評議員を務めている「日本エネルギー会議」の発起人の筆頭にあげられている奈良林直北海道大学教授は、事故直後にプルトニウムが原発敷地内で検出され、誰もが心配していた時に、プルトニウムの「毒性は塩と変わらない」とテレビで発言したことで、有名になった(注10)

 その他の発起人、山名元氏(京都大学原子炉研究所教授)は経産省の「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」(2013年10月16日開催)で「急激に原子力依存度を下げることは代替エネルギーの確保に必要な時間や投資を考えると危険。新増設は避けて通れない」と主張した(注11)

 安倍首相は2014年1月28日の衆院本会議で「化石燃料の依存度が高くなっている現実を考えると、そう簡単に『原発はやめる』と言うわけにはいかなくなる」と答弁した(注12)

 温暖化ガス削減のためにも原発がクリーンだという論は推進派の誰もが口にするが、子どもたちに甲状腺がんが急増(2014年8月の発表で103人に増加)している上、その多くが肺やリンパ節に転移していること(注13)、急性心筋梗塞の死亡者増加とセシウム汚染度の相関関係が明らかになりつつあり(注14)、170キロ離れた茨城県つくば市で原発事故による溶融燃料ウランが検出されたと公表されている(注15)今、原発は「クリーン」でも「安全」でもないことは明白だ。

欧米の核専門家のエネルギー論

 最後に、福島第一原発事故後に欧米の専門家がユネスコ・ニュースレター『科学の世界』に事故後の原発・エネルギー問題にどう対応すべきか述べているので、紹介したい。

・ IAEAはウランの埋蔵量が630万トンあるから、現存する原子力発電所の燃料として今後100年間は十分と予測しているが、現在と未来のウラン鉱に関するデータすべてが示しているように、今後10〜15年間に採掘できるウランの量を6万トン以上増やすことは基本的に不可能だ。

・ 原発の燃料になるウラン235は、天然ウランの0.71%にしかすぎないから、濃縮プロセスが必要で、このプロセスはエネルギーを多量消費する。その結果得られたウラン235の3〜4%が原発に使われ、90%以上が核兵器に、残るのが劣化ウランである。

・ 核燃料再処理プロセスは膨大なエネルギーの無駄を意味する。

・ 開発が始まった「国際熱核融合実験炉」が核分裂に代わる、究極のエネルギー問題解決策とされているが、とんでもなく高くつき、持続的な核融合を達成するには大きな問題が山ほどある。仮に魔法によって、これらの問題が解決したとしても、運転できるのは2050年だ。

・ 世界的に、化石燃料もウランも全く持続性がないので、再生可能エネルギーしかないが、現在のエネルギー需要レベルには追いつかない。したがって、エネルギー節約しか方法はない。この事実を直視して、エネルギーの浪費を下げるなどの準備を始めなければならない(注16)

(注1)「もんじゅ増額要求 原発予算 エネ計画に逆行」『東京新聞』2014年8月30日
http://noimmediatedanger.net/archive/tokyo20140830.pdf

(注2)「日本のエネルギー安全保障を考える(下)」(2013年9月3日)
http://enercon.jp/topics/6009/?list=contribution

(注3)「第14回原子力委員会臨時会議資料 鈴木原子力委員会委員長代理の海外出張報告」(平成25年4月22日)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2013/siryo14/index.htm
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2013/siryo14/siryo2.pdf

(注4)「「福島事故後 未使用640キロ プルトニウム報告漏れ IAEAに政府 不透明さ問題視」『東京新聞』2014年6月8日、朝刊1面。

(注5)「新たなエネルギー基本計画の強力な実行と将来展望」主催:一橋大学・独立行政法人経済産業研究所、2014年3月10日、議事録より:
http://www.rieti.go.jp/jp/events/14031001/proceedings.html

(注6)「第15回GSDMプラットフォームセミナー「原子力の平和、安全な利用と統合型高速炉」:
http://gsdm.u-tokyo.ac.jp/?p=440

(注7)浜田健太郎・斎藤真理・宮崎大「原子力規制委員候補の田中東大教授、事業者などから760万円受領」ロイター、2014年6月9日:
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0ON1L420140609

(注8)Ralph Cavanagh and Tom Cochran, “Nuclear energy film overstates positives, underplays negatives”(原子力エネルギー映画はプラス面を誇張し、マイナス面を軽視), November 6, 2013.
http://edition.cnn.com/2013/11/06/opinion/pandora-nuclear-energy-opinion-cavanagh-cochran/

(注9)中日新聞社会部(編)『日米同盟と原発—隠された核の戦後史—』東京新聞, 2013, p.183.

(注10)奈良林直氏に関するプルトニウム発言や、東電から氏への「カネの流れ」については以下の記事が詳しい。「『プルトニウムと塩は大差ない』の教授へのカネ、そして政官財の強硬姿勢の背後に何が? まだあったテレビ学者への“原子力村マネー”流入! 『推進派の巻き返し』が着々と進んでいる」SAPIO, 2011年8月3日号掲載、2011年8月22日配信
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/sapio-20110822-01/1.htm

(注11)「『原発の新増設を』 経産省がエネルギー基本計画会合」『日経新聞』2013年10月16日:
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS16033_W3A011C1EE8000/

(注12)「原発の新増設、電力会社が推進求める、国内に3基建設中、安倍政権は政治判断先送りか」JCASTニュース、2014年2月10日:
http://www.j-cast.com/2014/02/10196060.html?p=all

(注13)「甲状腺がんの子供『原発影響考えにくい』 福島の検査で学会」(共同)『日本経済新聞』2014年8月28日:
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG2803U_Y4A820C1CR8000/

(注14)明石昇二郎+月刊『宝島』取材班「福島県で急増する『死の病』の正体を追う!〜セシウム汚染と『急性心筋梗塞』多発地帯の因果関係〜【第1回】」『月刊宝島』2014年10月号:
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140826-00010000-takaraj-soci

(注15)「茨城のちりからウラン検出 原発事故の溶融燃料」『東京新聞』2014年8月27日:
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014082701001722.html

(注16)Michael Dittmar, “What does the future hold for nuclear power?”, A World of Science, Vol.9, No.3, July-September 2011, pp.14-16.(マイケル・ディットマー「原子力の未来は?」、ユネスコニュースレター『科学の世界』、ディットマー氏はスイス連邦工科大学と欧州原子核共同研究所の物理学者:
http://unesdoc.unesco.org/images/0019/001938/193840e.pdf

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