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8-5-10 原発事故によって起こる様々な病気

チェルノブイリ事故から5年目にチェルノブイリ法が制定され、更なる移住や補償・福祉制度が決まりました。それでも事故による健康被害が増加し、ロシア・ウクライナ政府は20年目の報告書の中で、健康被害の詳細を述べています。一方、日本では5年目に避難者を汚染地域に帰還させ、支援を打ち切ろうとしています。

ロシア政府20年目の反省

 ロシア政府は『チェルノブイリ事故の20年間—ロシアにおける被害除去の結果と問題 1986〜2006 ロシア政府報告書』(2006 注1 [1])で、事故発生当初の失敗・反省点を述べている。

「公衆と環境の防護策」(pp.12〜15)

● 政府の調査委員会は原子炉の対処と石棺建設などにかかりっきりで、遠い地域の住民の放射線防護まで手が回らなかったこと、地方機関は中央政府の指示なしに思い切った決断ができなかったため、安定ヨウ素剤の服用が遅れ、結果として大変多くの住民、特に子どもたちに甲状腺被ばくをさせてしまった。

● もう1点述べなければならない過ちは、30km圏内の除染を早急に行うという実現不可能な目標を立て、その達成のために前例のない膨大な数の人々を巻き込むことを、軍隊からの招集も含めて、決定してしまったことである。30km圏内の大規模な除染作業は、効果の出ない費用や環境への悪影響をもたらした。それだけでなく、膨大な数の作業員にその後長期間にわたる医学的社会的被害に直面させたことは、正当化できない。

ロシアとウクライナの政府報告書に掲載された健康被害

 ロシアとウクライナの政府報告書(2006)にはチェルノブイリ事故によって引き起こされた疾病が詳細に報告されている。8—5—8と8—5—9で紹介した作業員の間に広まった疾病や小児甲状腺がんを除いた疾病の報告を拾ってみる。留意点は政府報告書で認められている事故による被ばくで引き起こされた疾病であること、事故から20年以内の事例であることだ。ロシア政府報告書の疾病例については、初紹介なので、甲状腺がんなども含むことをお断りしておく。

ロシア:「事故の医学的影響」(pp.35〜44)

● 2005年3月1日現在、「ロシア医学・線量登録」(Russian State Medical and Dosimetry Register)に登録されているのは、作業員186,395人、避難者9,944人、汚染の最も酷い(185kBq/㎡以上)ブリャンスク・カルガ・トゥーラ・オリョール(Bryansk/Kaluga/Tula/Oryol)地域の住民367,850人、作業員の子どもたち35,552人、移住者15,146人である。このデータベースには1986〜2004年間の800万件の診断書が保存されている。

● チェルノブイリ事故の最も議論されている放射線問題、疫学問題は、汚染地域の甲状腺がん、作業員と住民の白血病、非腫瘍性疾患率(死亡率)と放射線影響との関係である。

● 甲状腺がん:ブリャンスク・カルガ・トゥーラ・オリョールの子どもとティーンエイジャーに10倍以上、成人に2,3倍の甲状腺がんが明らかになった。1991〜2003年にブリャンスク地域の子どもたち226人に甲状腺がんが発症し、そのうち122件(54%)は放射線の影響と考えられる。

● 甲状腺がん以外の甲状腺疾患:あらゆる年齢と男女共に(特に事故当時子ども・ティーンエージャーだった者)、甲状腺腫、甲状腺機能亢進症(自己免疫疾患を含む)などの罹患率と甲状腺被ばくとの関係が明らかにされた。「ロシア医学・線量登録」の専門家たちと日本の笹川財団は共同研究を行い、カルガとブリャンスク地域の子どもたち(2,457人)の甲状腺がん以外の甲状腺疾患の頻度を調べた。これらの子どもたちの甲状腺被ばく線量(1986年5〜6月)のデータが得られ、ヨウ素131の平均被ばく量は132mGyだった。びまん性甲状腺腫に発展する頻度が被ばく線量に依存している[被ばくの影響]ことが確定された。

● 白血病:放射線性悪性腫瘍のうち、放射線リスクの最も高いのが白血病で、潜伏期間が最も短い。2001年の政府報告書によると、145人の作業員が白血病を発症し、そのうち50例は放射線の影響とされる。

 150mGy以上被ばくした作業員の白血病リスクは放射線の影響だという研究結果が出た。事故後最初の10年間に発症した。150mGy以上被ばくした作業員は、150mGy以下の作業員より、2.2倍白血病を発症するリスクが高い。

 表「作業員の白血病の放射線リスク」(p.40)の主要点:1986〜1996年—平均被ばく線量と白血病罹患件数は、17mGyで8件、67mGyで4件、103mGyで5件、208mGyで19件、発症した;1997〜2001年—平均被ばく線量17mGyで4件、65mGyで3件、104mGyで3件、208mGyで5件発症。

● 作業員の死亡率と死因:作業員の被ばく線量と循環器系疾患による死亡率の関係が統計学的に有意にあると確定された。2003年末までに亡くなった登録作業員の総数は22,998人(登録者の12.3%)である。主要な死因は循環器系(34%)、怪我/中毒(29%)、悪性新生物(13%)である。

● 作業員の疾病率と種類:作業員の健康状態は低下し続け、現在(2006年、事故から20年後)78.4%の作業員が慢性疾患に苦しんでいる。疾病者の総数は2003年[事故の17年後]に66,000人で、登録されている作業員の三分の一にあたる。全人口に比べて、作業員の疾病登録数が超過しているのは、内分泌疾患・循環器系疾患・精神疾患・神経疾患・筋骨格系疾患・結合組織の疾患・消化器系疾患である。

 1986年のチェルノブイリ原発事故の30km圏内に6週間以内滞在した作業員の外部被ばく線量が150mGy以上の者が統計的有意に脳血管疾患の放射線リスクがあることが確定された。作業員の障害の内訳は、循環器系疾患39.2%、神経疾患28.9%、精神疾患9.3%、悪性新生物2%である。作業員の神経精神病による障害率は全人口に比べ、2倍以上の高さである。

● 汚染地域の住民:健康な者の数は過去5年間[事故から10年後の1998〜2003年]に減り続け、2003年末時点で17.8%である。基本的な傾向として、ロシアの汚染地域の子どもたちの疾病率が上昇している(怪我や中毒の他、消化器系疾患・泌尿生殖系疾患・皮膚病・皮下脂肪の疾患)。成人の疾患の特徴は、感染症や寄生虫感染症などの疫病率の増加と、循環器系疾患・消化器系疾患が増加している。

ウクライナ「医学的側面」(pp.68-88 注2 [1]

● 甲状腺がん:小児甲状腺がんの患者は術後の人生の質(quality of life)が低下する。甲状腺ホルモン補充療法を生涯続けなければならない。肉体的生理的適応能力が限定され、生殖能力にも影響するからである。すべての患者は将来にわたって国の医療支援を必要とする。

 放射性フォールアウトの汚染度が甲状腺がん増加と関係あることが、子どもだけでなく、成人の甲状腺がん増加によって初めて明らかになった。汚染地域に住み続ける成人の甲状腺がん発生率が1990〜2004年に1980〜1989年の4倍に、国全体の1.6倍に増加し、2005年以降も増加することが予想される。

● 白血病:仏独チェルノブイリ研究イニシアチブは汚染地域の住民たちに白血病の増加が見られなかったと報告したが、胎内被ばくした子どもたちの白血病データは反対の結果を示しているので、更なる調査が必要である。

● その他の悪性腫瘍:18年間の調査結果では作業員の間に明らかな増加が見られたが、その他の汚染地域のがん罹患率はウクライナ全土より低かった。しかし、被ばくから40年後までに悪性新生物の罹患率や死亡率の上昇がないとは断言できない。

 大阪の医学大学との分子遺伝学共同研究が調査した対象者のうち、低線量汚染地域の住民の96%に膀胱の尿路上皮に前がん病変が見られたが、14年間低線量に被ばくし続けたせいである。これは遺伝的不安定性を引き起こし、膀胱がんのうちでも圧倒的に浸潤性がんに進行する可能性がある。

● 遺伝子損傷:被ばくした住民の細胞遺伝学モニターを20年間行った結果、すべてのグループで抹消血液リンパ球の染色体異常率が事故前よりも有意に増えた。染色体異常の頻度が増加したのは、放射性ヨウ素131とセシウム137両方に被ばくした子どもたちで、特にヨウ素が欠乏している地域の子どもに見られた。

● 放射線白血病と眼科系疾患:作業員の間に、線量の上昇に伴って増加する白内障、網脈絡膜黄斑変性(choroid retinal central macular degeneration)、硝子体の病理が広く確かめられた。移住選択区域(年1〜5msv)の住民の間に、白内障、中心視覚ジストロフィー(central vision dystrophies)、網膜血管の病理が、汚染の少ない地域の住民より発症率が高いことが示された。

● 免疫系への影響:事故後20年間の研究によって、免疫システムが放射線に敏感ということから、クリティカル・システム(critical system 危機にさらされているシステム)であることが確認された。異なる線量に被ばくした人々の間にサイトメガロウイルス、C型B型肝炎ウイルス感染が顕著に広がっていることが判明した。15〜18年間に200〜350mSv被ばくした後に、放射線が引き起こした免疫障害の出現と持続のしきい値が確立された。免疫系と神経系の交互作用によって、免疫障害が悪化することもある。

● 腫瘍以外の疾患プリピャチと30km圏内から避難した成人住民の健康[この強調は政府報告書による]が悪化する傾向が確かめられた。1988〜2002年[2〜6年後]に検診した健康な成人の健康度が67.7%から22%に減少し、慢性疾患を抱える患者は31.5%から77%に上昇した。1991〜1992年以降、成人避難者の疾病率はウクライナの成人人口の疾病率を上回った。

 フォローアップ調査によって判明したことは、避難者の間で、汚染地域に住んでいる者の疾病率の方が非汚染地域に住んでいる避難者の疾病率より高いことである。1988〜1999年の間に汚染地域の住民の疾病率が2倍に上昇した。汚染地域の住民の疾病率は住んでいる場所に影響されている。汚染地の住民の特別調査から、甲状腺吸収線量が200cGy[2000mGy]を超えた人は30cGy[300mGy]以下の人に比べると、心血管疾患、特に脳血管疾患、同時に内分泌疾患と筋骨格系疾患を発症するリスクが比較的高いことがわかった。

● 心血管系疾患:被ばくした人々の心血管系疾患は被ばくと関係している。作業員における脳血管系疾患は被ばく量によることがわかった。吸収線量が0.1Gy以下の人に比べると、0.1〜1Gyの吸収線量の人の方がこれらの疾患を発症するリスクが高い。

● 神経精神障害:被ばくした人々の神経精神障害は今日重大な問題になっている。急性放射線障害の時期には、神経精神障害が自律神経循環器系失調症(vegetovascular and vegetovisceral disorders 注3 [1])から脳器質性疾患、身体症へと順に進行していくことが見られた。吸収線量が1Sv以上の患者の62%に、被爆後の器質性精神障害が見られた。

 神経心理学研究が明らかにしたのは、左側頭葉、大脳深部構造、そして主に左脳の前頭領域の損傷が被ばくの線量に依存することだった。仏独チェルノブイリ研究イニシアチブの枠組みで行われた作業員の精神医学面接の研究から、精神障害の発生率がウクライナ人口の20.5%に比べ、作業員は36%と増加していた。うつ病の発生率も全人口が9.1%なのに対し、作業員は24.5%と増加している(注4 [1])。事故から年数が経過した後の作業員の精神障害の特色は、様々な器質性人格障害である。0.3Sv以上全身被ばくすると、線量依存性の神経精神障害、神経心理障害、視覚障害が起こることが確認された。

● 気管支肺系:ウクライナ保健省のデータによると、慢性気管支炎、非特異性気管支炎、肺気腫がチェルノブイリ事故によって被ばくした成人と青少年に増え、1990年に10,000人に316.4人だったのが、2004年に528.47人に増えた。気管支ぜんそくも同じ時期に、10,000人に25.7人から55.44人に増えた。

 外部被ばくと放射線核種を吸入することで最も影響を受ける器官の一つが気管支肺系で、後年慢性閉塞性肺疾患に進行する。これは慢性閉塞性肺疾患の臨床形態学的研究の結果から証明されている。1987〜2005年に被ばくした2,736人の慢性閉塞性肺疾患患者と被ばくしていない309人の患者から得られた結果である。

● 消化器系疾患:事故後最初の数年の消化器系病変は、胃の分泌機能と胃の運動の栄養調節の障害が多かった。更にそれは胃と十二指腸のびらん性十二指腸炎や潰瘍性疾患をもたらすことになった。最初の10年間に作業員と汚染地域の住民の間の消化性潰瘍の発生率は全国民の率を上回った。これらの人々の消化性潰瘍の増加と症状の深刻性はチェルノブイリ事故によって引き起こされた。高汚染地から避難した人々の消化性潰瘍の臨床的形態学的研究が最近発見したのは、胃炎の進行がチェルノブイリ事故と同時期に起こったことと、[20年後の]現在それが消化性潰瘍として現れていることである。慢性肝炎と肝硬変への進行は直接ではないがチェルノブイリ事故の影響で、事故の最初の頃は、代償性肝硬変の特徴をもった肝臓のびまん性変化として認識された。

● 造血系:事故の影響を受けた人々のモニターを20年間続けた結果、一部の人の抹消血球数に偏差が見られた。最初の1,2年に作業員の25%に抹消白血球減少症の証拠があり、9.5%の作業員の抹消血中に赤血球とヘモグロビン・レベルの増加が見られ、12%に白血球数、9%に血小板減少症、10.5%に好酸球数の増加、14.5%にリンパ球、10.5%に単球(monocytes)の増加が見られた。以下の不安定な偏差は事故から大分たってから登録された。白血球増加症(24%)白血球減少症(19.7%)、血小板減少症(7.6%)、血小板増加症(2.4%)である。事故の影響を受けた人々の15%は、複合的症状が見られた。たとえば、白血球減少症と血小板減少症、白血球減少症と貧血症と血小板減少症というような複合的症状である。フォローアップの全期間で、顆粒球・リンパ球・赤血球の核と細胞質に質的特徴的障害が見られた。巨核球の中には、≪古い≫[強調は報告書のまま]細胞の数が増加し、血小板の巨大な形の存在と多形性粒度をもつ細胞の存在が登録された。ある人々には血小板凝集と、マイクロ・マクロ形の集合が見られた。

 チェルノブイリ事故の影響を受け、すべての造血プロセスの要素において異なる質的量的障害を持つ人々は、腫瘍血液学的な病気を発症するリスク・グループである。このリスク・グループの4,200人が46,000人の被害を蒙った子どもから選ばれて、血液専門家が検査した結果、現在までに11件の白血病が見つかっている。

● 非がん性甲状腺疾患:慢性的な甲状腺炎と非がん性甲状腺疾患がすべての被害者グループにとって緊急の問題である。

● 子どもの健康状態:チェルノブイリ事故の被害は、子どもの健康問題の悪化が続いていることにも現れている。事故によって苦しめられている子ども(0〜14歳)の医学的統計によると、1987年の疾病率が455.4‰[パーミル455.4/1,000]から2003年の1,367.2‰へと増加を続けている。非腫瘍性疾患も同じく上昇を続けている。現在、子どもの疾患の主要なものは、呼吸器系、神経系、消化器系疾患、皮膚と皮下組織の疾患、感染症と寄生虫病、血液と造血器官の病気である。

 被ばくした子どものうち健康な子どもの割合は減り続け(1986-1987年に27.5%から2003年に7.2%)、一方、被ばくした子どもたちの慢性疾患率が上がり続けている(1986〜1987年に8.4%、2003年[事故から17年後]に77.8%)。この子どもたちのうち、障害者になった子どもの数はウクライナの平均人口の4倍に増えている。最も影響を受けたのは、甲状腺に高線量の被ばくを受けた青少年と、子宮内で被ばくした青少年である。顕著な変化は、消化器官の病気(1988年の23.9%から2003年の72.5%への増加)と、消化管の複合的関与の増加率、およびこれが就学前の子どもにも見られることである。肉体的病理の顕著な特徴は、放射線の影響が複数器官に及ぶことと、治療に対する耐性が高まることによる再発である。汚染地域に住み続ける青少年の放射線リスク評価が示したことは、92.8%の被ばく影響が甲状腺への被ばくによるもの、4.8%がガンマ線への外部被ばく、2.3%がセシウム137の内部被ばく、0.1%がストロンチウム90への被ばくである。

 チェルノブイリ原発事故は子どもの免疫系に大きな影響を及ぼし、82.5%の子どもたちが免疫不安定による、アレルギー性皮膚病、耳鼻咽喉系病気、気管支肺の病気、および免疫不全状態に苦しんでいる。

● 胎内被ばく:胎内被ばくした子どもたちの大規模なフォローアップ調査が示したのは、チェルノブイリ事故の特徴的な被ばく線量を胎児の免疫システムの中枢器官と甲状腺に被ばくしたことによって引き起こされる影響が、誕生後の成長障害、染色体装置の安定的関与の上昇率[increasing rate of stable involvement of the chromosome apparatus]、免疫システムの機能障害、多因子病理の上昇率などに現れていることである。

 仏独チェルノブイリ研究イニシアティブは、胎内被ばくした子どもに高い率で神経系疾患と精神障害が現れること、胎児期に被ばくしていない同年代に比べ、言語性IQが低いために全体のIQレベルが低く、非調和的知力(disharmonic intellect)の率が高いことを発見した。出生前に被ばくした子どもたちの非調和性が25ポイント超えると、胎児期の被ばく量と関係があることがわかった。この子どもたちの母親には、この言語使用/理解能力の矛盾は見られなかった。

 放射線神経発生学的影響が認められたのは、子どもの非調和的知力の発達という形において、妊娠8週〜15週目に胎児が20mSv以上(>20mSv)被ばくすることと、子宮内で300mSv以上(>300mSv )を甲状腺に被ばくすると、主に優性大脳半球(左脳)の皮質—大脳辺縁系(corticallimbic system)の機能障害を起こすことによるという事実だ。比較的低線量の放射線核種、ヨウ素を環境中に放出する原子力事故の場合、被ばくによる脳損傷が脳の発達に最重要な時期(妊娠8〜15週目)に起こること、そして胎児の甲状腺吸収線量が最も高くなる妊娠後期に起こりえることが証明された。

 被ばくした両親の子どもの健康も悪くなる。この事実は高い疾病率によって確認されている。過去5年間、この子どもたちの疾病率は1,134.9〜1,367.2‰の間(ウクライナ全体は960.0〜1,200.3‰)である。詳細調査のデータによると、これらの子どもたちのうち、健康な子どもは2.6〜9.2%(対照グループでは18.6〜24.6%)である。この子どもたちの特徴は、環境に適応する能力の減少、生物学的年齢が暦年齢にくらべ遅れていること、そして、1986〜1987年の作業員で25cSv [250mSv]以上被ばくした者の子どもに最も顕著に現れているのが免疫異常である。被ばくした両親に生まれる子どもはゲノム不安定性の現象が現れる。

● 死亡率の上昇は事故後、全国的に見られたが、最も高かったのが汚染地域2(Zone 2:被ばく許容制限値が年間5mSv以上)とZone 3(年1〜5mSv)だった。主たる死因は心臓血管系疾患だ。腫瘍による死亡率では汚染地域が目立って高い。被ばくした子どもの死亡率が減少傾向にあるのは、放射線管理、社会的医学的ケアを全国的に行ってきた成果である。しかし、中年と老年の死亡率が顕著に上昇しているのは懸念すべき徴候である。彼らは子ども・青少年の時に被ばくしているからだ。この年代は出産可能年齢に達するまでずっと被ばくし続けて、次世代の親になる。

● 慢性被ばく[汚染地域に住み続けること]が死亡率をより高くすることが示された。汚染地域の人口損失の原因は原発事故であると認められた。20年後でも、事故の影響は完全に除去できたわけではない。したがって、医学的状況と人口状況、影響を被っている人々の健康状態を改善することを目指す方法は、環境から事故による放射線を除去することに基づいて行わなければならない。

● 次の10年間(2007〜2017)に眼病の増加、白内障と血管障害の増加が予想され、白内障手術件数は4〜5倍増加すると予想される。子どもの健康調査を強化しなければならない。特に作業員の子ども、高線量汚染地域の子ども、胎児期に被ばくした子どもの調査である。外部内部被ばくの線量を減らす努力が必要だ。

注1:Ministry of the Russian Federation for Civil Defense, Emergencies, and Elimination of Consequences of Natural Disasters & Ministry of Health and Social Development of the Russian Federation (2006), S.K. Shoigu and L.A. Bolshov (eds), TWENTY YEARS OF THE CHERNOBYL ACCIDENT: Results and Problems in Eliminating Consequences in Russia 1986-2006 Russian National Report
http://chernobyl.undp.org/english/docs/rus_natrep_2006_eng.pdf [2]

注2:ウクライナ緊急事態省(2006)『ウクライナ政府報告—チェルノブイリから20年—未来への展望』Ministry of Ukraine of Emergencies and Affairs of population protection from the consequences of Chornobyl Catastrophe (2006), 20 years after Chornobyl Catastrophe: Future Outlook,
http://chernobyl.undp.org/russian/docs/ukr_report_2006.pdf [3]

注3: この病名はスラブ語圏独特の病名で、『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』によると決まった和訳がないため、「自律神経循環器系失調症」を当てたというので、採用させていただいた。また、この病名は事故直後にソ連当局が作業員の罹病データ改ざんの際に使った病名だという。出典:アレクセイ・ヤブロコフ他、星川淳(監訳)『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』、岩波書店、2013, pp.28, 293.

注4:この研究結果の報告は『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』(p.104)と同じ論文を引用している。