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13 (3):世界的に増加している甲状腺がんとその原因

2013年に発表された論文によると、甲状腺がんが世界的に増加していて、主な原因は医療被ばくと化学物質の吸入/摂取だろうと結論付けています。甲状腺がんの増加はスクリーニングによる過剰診断のせいだと主張する論に対して、ていねいに否定の根拠をあげています。

世界的に増加している甲状腺がん

 13 (2) [1]で紹介したGLOBOCAN2012の算出方法についての論文で、日本に適用した罹患率算出方法は「死亡者数の少ない甲状腺がん(男性)」などには過小評価になり信頼度に欠ける」と述べていたが、2013年に発表された論文(注) [2]では、甲状腺がんが世界的に増加し、死亡率も上昇していると報告されている。この論文の題名に期待して読んでみて、いろいろな点で衝撃を受けた。「世界的に増加している甲状腺がん—最新疫学とリスク要因—」という題名には、疫学の論文に珍しく、原因にまで踏み込んでいる。そして、リスク要因の最初に挙げられたのが、「放射線」だ。ただし、医療被ばくが原因ではないかという。以下に抄訳する。

甲状腺がんの増加と甲状腺がんによる死亡率の増加は過剰診断のせいではない

 甲状腺がんは内分泌がんの最も普通のがんである(アメリカでは毎年新たに診断されるがんの1〜1.5%)。世界中で過去30年間に増え続けている。アフリカ以外の大陸で見られる傾向で、アフリカでは発見が不十分なのだろう。アメリカでは1980年〜1997年に2.4%だったのが、1997年〜2009年に6.6%に上昇した。最近のデータでは、甲状腺がんは女性に多いがんの5番目で、イタリアでは45歳以下の女性のがん罹患率の2番目にあがっている。

 罹患率が上昇しているにもかかわらず、甲状腺がんによる死亡率は10万人に0.5例だと報告されてきた。しかし、過去20年間の乳がん・大腸がん・肺がん・前立腺がんによる死亡率が減少しているのに、甲状腺がんによる死亡率はわずかながら上昇している。アメリカ国立がん研究所のSEER(監視疫学最終結果プログラム)の報告によると、1988〜2009年の間に、主に男性の間に甲状腺がんによる死亡率の有意な増加が見られた。この死亡率の増加は早期発見や高リスクの甲状腺がんの治療にかかわらず起こっているのである。

 世界的に甲状腺がんが増加していることの説明は論争の的となる。ある専門家は、新たな件数が増えているのは診断精度が上がったためだと言い、ある専門家は環境やライフスタイルの変化のせいかもしれないという。問題は医学、社会経済に関わることである。過剰診断は患者の健康や生存に影響しない病気を見つけることだ。[この後、過剰診断の問題点が列挙される] しかし、リスク層別化は、病気の再発だけでなく、転移や致命的な進行などの不確かさという余地を残す臨床的特徴に基づいている。確率は非常に低いが、この可能性は医師と患者を難しいディレンマに陥れる。実際に微小がんだけを見ても、節外拡大、リンパ節転移、そして/または甲状腺皮膜外浸潤が15%から30%発見されている。遠隔転移も1%〜3%ほどある。これらの特徴はがんの再発や死亡率の予測材料である。また考慮すべきことは、微小がん患者の大多数(78%)が、手術をせずに経過観察を勧められると、即刻手術を選んでいることである。

甲状腺がんの増加は本当に起こっている

 スクリーニングの効果が上がって甲状腺がんが増えていると主張するために、収入・教育の高レベル、その他の社会経済的要因がヘルスケアにアクセスすることと密接に関係しているという人がいる。しかし、この要因はその他の腫瘍も増加していると見つけるはずなのに、罹患率が増加していない腫瘍もある。

 小さな腫瘍を早期発見している唯一の原因がスクリーニング効果なら、大きな進行度の高い腫瘍は少なくなるはずだ。小さな腫瘍と並んで、あらゆるサイズの腫瘍があらゆる進行段階で見つかっていることは、スクリーニング効果だけが増加の原因ではないことを示している。最近はあらゆる段階の甲状腺がん(限局性がん、局所がん、遠隔転移)が増加していることが確認されている。

甲状腺がん罹患率増加のリスク要因の第一は医療被ばく

 電離放射線ががんのリスク要因だというのは十分に立証されている[訳者による強調]。アメリカでは過去25年間に個人の被ばくが2倍に上昇した。1980年の年間3mSvから2006年の年間6mSvへ上昇したのは、主に診断用のX線やCTスキャンによる。CTスキャンの3分の1は頭と首で、甲状腺が特に被ばくする。その上、ヨード造影剤は甲状腺に取り込まれる放射線の量を35%上昇させる。なぜなら、放射性ヨウ素はフォトンをブロックし、局部的放射線エネルギー量を上昇させるからである。

 チェルノブイリで見られたように、甲状腺はその他の体の部分よりも500〜1000倍も高く線量を取り込む。チェルノブイリでは4,000件の甲状腺がんが報告されている。CTスキャンが子どもたちにがんのリスクを増やすことは証明されている。白血病と脳腫瘍を3倍も増やした。子どもの時にCTスキャンを多数受けることによって、100万人につき390人の甲状腺がんが増えるという仮説もある。アメリカで2007年に行われたCTスキャンによって、将来甲状腺がんが1000件増えると予測されている。

 さらに、最近の研究が示すように、歯科レントゲンで成人の間にも甲状腺がんが増える可能性がある。その結果、アメリカ甲状腺学会は最近歯科レントゲンの際には子どもも大人も甲状腺防護の遮蔽物を使用するよう勧告した。甲状腺被ばくのこの他の原因は甲状腺関連の病気の診断に使われるヨウ素131である。1973年に放射線による医療検査の13%が甲状腺スキャンだったが、次第に減って現在の1%以下にまで下がり、ヨウ素131の代わりに危険度が低いテクネチウム99mTcを使っている。しかし、甲状腺機能亢進症の治療には今もヨウ素131が使われ、減るどころか増えていて、成人患者の間に甲状腺がんがわずかだが増えている。頭と首の悪性腫瘍の放射線治療も甲状腺被ばくの原因となる。小児がんの生存者の再発悪性腫瘍の7.5%は甲状腺がんだった。したがって、放射線被ばくの増加は甲状腺がんの増加に寄与している可能性がある。

 過去数十年の間に、血中の甲状腺ホルモン濃度が増えたという証拠はないが、西欧化した社会で初期の甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因である慢性自己免疫性甲状腺炎・橋本病が過去20年間で増えており、それはヨウ素摂取の増加と並行している。

 甲状腺がんの増加が甲状腺の単一結節か多結節性甲状腺腫で異なるかは不明なままである。単一結節の悪性腫瘍の頻度は5%とされている。最近のメタ分析(複数の研究結果の分析)は、甲状腺がんでは、単一結節よりも多結節性甲状腺腫の方が少ないという推論を支持している。しかし、この発見は主にアメリカ以外のヨウ素が不足している国で言えることのようである。

放射線以外のリスク要因:環境汚染

 アブラナ科の野菜が甲状腺がんリスクに影響しているという研究もあるが、この可能性は証明されていない。水道中の硝酸塩などの食品汚染は甲状腺機能を破壊し、発がん性物質として振る舞う可能性がある。硝酸塩は農業地域の水道水に多量に含まれ、野菜や加工食品にも高いレベルで含まれることがある。水道水の硝酸塩レベルが高いと、甲状腺がんのリスクが増加する。

 過去数十年間、アスベストス・ベンゼン・ホルムアルデヒド・農薬・殺虫剤・ビスフェノールA(BPA)・ポリ塩化ビフェニル(PCB)・ポリハロゲン芳香族炭化水素(PHAHs)、遺伝毒性物質として、または非遺伝毒性の発がん性物質として作用する全ての化合物などの環境汚染物質に全人口がより一層さらされてきた。特にポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)は異常な甲状腺細胞の増殖を引き起こし、前がん状態になる可能性がある。

 現在、アメリカの市場に出ている製品の中に8万の化学物質が含まれているが、それらの発がん性に関しては200〜300程度しか検査されていない。これらの化学物質の混合によって、発がん性物質が無限に提供されることになる。これらの製品のうち、甲状腺に直接に影響を与えたり、内分泌撹乱物質として作用する可能性があるものがある。
 火山環境も甲状腺がんの増加に関連しているという証拠がある。エトナ火山地域では、シシリー島の他の地域に比べて、甲状腺がん罹患率が2倍以上増えている。増えているのは乳頭がんのみである。

結論:甲状腺がんの世界的増加の理由はまだはっきりしていない。多分、原因は多因性だろう。放射線被ばくが増えていることが最も多い寄与因子だろうが、その他の環境発がん物質も寄与しているだろう。まだ発見されていない環境中の発がん性物質が甲状腺がん増加の原因だという可能性も除外してはならない。特に胎児期や幼児期に化学物質に暴露すると、エピジェニック(後成的)変化を伴って、甲状腺細胞の突然変異を誘発するかもしれない。甲状腺がんの増加を抑え、予防方法を見つけるために、発がん性物質を発見し、そのメカニズムに関するさらなる研究が保証されなければならない。

 この論文であげられている化学物質とその健康被害については、13 (4)以降で紹介します。

注:Gabriella Pellegriti et al., “Worldwide Increasing of Thyroid Cancer: Update on Epidemiology and Risk Factors”, Journal of Cancer Epidemiology, vol.2013, Article ID 965212,
http://www.hindawi.com/journals/jce/2013/965212/ [3]