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13 (5):発がん性化学物質と放射性物質の複合汚染(PBDEs, BPA, PHAHs)

「世界的に増加している甲状腺がん」で放射線被ばくと複合的に健康被害を及ぼす化学物質の名前が列挙されているので、それらがどんな製品に含まれ、どんな被害をもたらしているのかを調べてみました。ラップの成分ビスフェノールAは欧米では危険物質として警告されているのに、日本ではコンビニでも家庭でも危険な使われ方が続いています。

危険な化学物質:ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)

 「世界的に増加している甲状腺がん」で、「異常な甲状腺細胞の増殖を引き起こし、前がん状態」にすると注意喚起されているポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)はどんな製品に含まれ、どう防護したらいいのだろうか?

 「日本薬学会:環境・衛生部会」のホームページに「臭素系難燃剤について」(注1) [1]という解説が掲載されている。この物質は「難燃効果や経済性が高いために世界で多量に使用されており」「生物濃縮性が問題となって」いると指摘されている。家電製品・自動車・建材などに使用されるプラスチック・ゴム・木材・繊維などを燃えにくくするために使われ、「環境中に放出されたPBDEsは大気(室内空気)やハウスダスト、食品中にも存在し、(中略)動物実験で甲状腺ホルモンの撹乱作用が報告され」ているという。

 「スウェーデンの調査では母乳中のPBDEsのレベルが1972年から1997年の間に60倍に増加し」、北米の調査ではスウェーデンの母乳濃度の10〜100倍、日本人の母乳中のPBDEs濃度はスウェーデンと同レベルと述べられている。「循環型社会・廃棄物研究センター」のオンラインマガジンにはカーテンなどの繊維にも含まれ、「いったん揮発して周囲にあったダストに付着する、プラスチックの表面劣化で粒子としてダストに移行するなどで、モデルハウスにテレビ、パソコン、カーテン、ベッドを設置して実験したところ、設置する前はPBDEは検出されなかったのに、家電製品設置後はPBDEの濃度が上昇という結果になった」(注2) [1]と書かれている。カーテンからはヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)が検出されたという。

 PBDEsは2009年に「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」に登録されて、有害物質として国際的に規制されることになった(注3) [1]。しかし、リサイクルや再製品としては使用が許可されているため、資源回収されたPBDEs含有製品が再生製品化され流通する危険性が指摘されている。「たとえば、日本で回収されたテレビケースなど難燃剤含有プラスチックの多くが中国等に輸出されており、その一部は日本向け一般雑貨へリサイクルされている」という。そして「元来の使用用途よりもヒトへの暴露リスクを高める可能性」があるという。化学物質というのは、ハウスダストに付着したり、食品にも入り込んだり、放射性物質と同じ挙動をするのだと知ると、恐ろしい。

危険な化学物質:ビスフェノールA(BPA)

 プラスチックの食品容器や缶のコーティングなどに含まれ、感熱紙や玩具からもビスフェノールAにさらされる危険性があること、胎児や乳幼児に影響を及ぼすことなどから、フランス政府は2010年6月に「ビスフェノールAを含む哺乳瓶の製造、輸出入を禁止する法律を公布した」(注4) [1]。さらにフランス政府は欧州化学庁にビスフェノールAの危険度カテゴリーを2から1Bに上げるよう提言し、2014年3月にフランス案を採択した。そして、2015年1月から「食品に直接接触するビスフェノールAを含んだすべての食品の包装、容器、調理器具の製造、輸入、輸出、有償・無償によるすべての市場投入を(中略)停止する。同措置はフランスの国内法に基づくものであり、EUレベルでは耐容1日摂取量を体重1キロ当たり0.05mgから0.005mgまで下げることが提案されているものの、禁止措置はまだ取られていない」という。

 アメリカではカリフォルニア州で2016年5月から、「缶入り、ボトル入り食品や飲料によるBPAへの経口曝露に対する警告表示を、販売時点で提供する緊急措置の通知」を公開した(注5) [1]。一方、日本の取り組みは2008年に厚生労働省が健康影響評価を食品安全委員会に依頼し、食品の「器具・容器包装専門調査会 生殖発生毒性等に関するワーキンググループ」が2010年5月に「ビスフェノールA (BPA)評価書(案)」を食品安全委員会に提出している。結論は「現時点において、BPAの低用量の曝露による影響を結論付けることは困難である」(注6) [1]というものだった。

 ところが、その何年も前に学校給食で使用されるプラスチック製食器やラップからビスフェノールAが溶け出して、特に熱を加えると溶出量が増えるという実験結果が東京都環境局の化学物質・土壌汚染対策ページに掲載されている(注7) [1]。学術雑誌『環境化学』に掲載された論文「食品包装用ラップフィルムからのノニルフェノール(NPs)およびビスフェノールA(BPA)の溶出」(2000,注8 [1])でも、詳細な実験結果の報告がされている。両方とも環境庁が内分泌かく乱化学物質として指定したものである。ラップ22種類の実験結果だが、残念ながら商品名が省かれているが、成分では「ポリ塩化ビニル製のラップフィルム6試料中5試料からNPsが、さらに、そのうち1試料からBPAが溶出」したこと、「他の材質のラップフィルムからはNPs、BPAとも溶出は認められなかった」という結果だった。包む食品の種類では、「NPsは油性食品に移行しやすい」こと、「食品に直接あるいは加熱によってラップ表面にできる水滴を介してNPsやBPAが食品に移行することが考えられる」とのことだ。

 食品安全委員会は2014年3月に「ラップフィルムから溶出する物質(概要)」(注9) [1]を発表し、その簡易版を季刊誌『食品安全』39号(2014年7月, 注10 [1])に掲載している。前出の論文を指しているのか、1999年にPVC製ラップフィルムから食品に溶出する化学物質として、ノニルフェノールが報告され、問題となったと述べた上で、「2009年には市販されている国産の家庭用及び業務用ラップフィルムからはNPが検出されなかったことが報告されています」という。それでも、上記論文にあったように、オーブンや電子レンジのオーブン機能で使わないよう、温める時に食品にラップフィルムが直接触れないよう、油性が強い食品には直接包まないよう等の注意が書かれている。まるで、「安全ですから販売禁止にはしませんが、危険ですから使い方に気をつけてください」と言っているようだ。

 ビスフェノールAの影響として、行動障害、生殖異常、心臓疾患、肥満に関連していることがわかっていたが、2013年に発表された論文では、胎児期に中枢神経の発達を阻害することが判明したという(注11) [1]。日本では家庭でもコンビニでも、「危険な使い方」を続けているのではないだろうか。特にコンビニでは食品に直接触れる形でラップに包まれたお弁当を電子レンジで温めるサービスを続けているため、日本全国でこの化学物質による疾病・障害、ひいては死亡が増加しても不思議ではない状態が放置され続けているのではないだろうか。特に放射線被ばくした人にとって、危険度が増すことは今まで見てきた通りだ。

危険な化学物質:ポリハロゲン芳香族炭化水素(PHAHs)

 「世界的に増加している甲状腺がん—最新疫学とリスク要因—」の中であげられている化学物質のうち、ポリ塩化ビフェニル(PCB)に関しては、日本で1972年に製造が禁止され、その後は処理体制が整うまで廃棄物の保管が義務付けられ、その処理期間が2027年まで延長されたという(注12) [1]

 2012年〜2017年の研究助成金が与えられているイェール大学の研究グループが、「過去数十年間に世界中で原因不明の甲状腺がん(乳頭がん)が増加しているが、徐々に明らかになったのは、ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDEs)、ポリハロゲン芳香族炭化水素(PHAHs)、ポリ塩化ビフェニル(PCB)や有機塩素系農薬・殺虫剤が甲状腺ホルモンのホメオスタシス(恒常性)を変化させ、甲状腺機能障害を引き起こすことである。これが甲状腺の腫瘍化につながると考えられ、PHAHsと甲状腺がんリスクの関係は動物実験によって確かなものとなっている。しかし、人間がPBDEs やPHAHsに曝露すると乳頭がんが増加するという研究はまだない」(注13) [1]と述べている。そのため、このグループはアメリカ軍の兵士を対象に大規模な研究を行うという。

注1:鳥羽陽「臭素系難燃剤について」日本薬学会 環境・衛生部会
http://bukai.pharm.or.jp/bukai_kanei/topics/topics05.html [2]

注2:小瀬知洋「家庭製品中の難燃剤の室内環境への影響」資源循環・廃棄物研究センターオンラインマガジン、2009年4月20日号
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine2/kenkyu/20090420.htm [3]

注3:梶原夏子「POPs条約におけるPBDEsの位置づけ」資源循環・廃棄物研究センターオンラインマガジン、2011年12月号 
http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201112.html [4]

注4:奥山直子「ビスフェノールAを含む食品容器が2015年1月から禁止に—内分泌かく乱物質の規制強化—」JETRO「世界のビジネスニュース」2014年12月25日
https://www.jetro.go.jp/biznews/2014/12/5497c48d86c40.html [5]

注5:「米国:カリフォルニア州、ビスフェノールA (BPA)への曝露に関する規制を発行」「テュフズードジャパン」(日本の医療機器の登録認定機関)、April 2016
http://www.tuv-sud.jp/jp-jp/resource-centre/publications/e-ssentials-newsletter/consumer-products-retail/e-ssentials-4-2016/usa-california-published-regulations-for-exposures-to-bisphenol-a-bpa [6]

注6:この資料は内閣府食品安全委員会の「第9回器具・容器包装専門調査会 生殖発生毒性等に関するワーキンググループ」(2010年5月26日開催)会議資料詳細ページからアクセスできる。資料1である。
http://www.fsc.go.jp/fsciis/meetingMaterial/show/kai20100526ky1 [7]

注7:東京都環境局の化学物質・土壌汚染対策「食器等から溶出する物質等に関する調査」
http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/chemical/conference/endocrine/09th_tableware.html [8]

注8:川中洋平他「食品包装用ラップフィルムからのノニルフェノールおよびビスフェノールAの溶出」『環境化学』Vol.10, No.1, pp.73-78, 2000
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec1991/10/1/10_1_73/_pdf [9]

注9:内閣府食品安全委員会「食品用ラップフィルムから溶出する物質について」食品安全委員会季刊誌『食品安全』39, 2014年7月 https://www.fsc.go.jp/sonota/kikansi/39gou/39gou.pdf [10]

注10:内閣府食品安全委員会「ラップフィルムから溶出する物質(概要)」平成26年3月31日
http://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/factsheets_wrapfilm_140331.pdf [11]

注11:簡単な紹介は以下のサイト「QLifePro医療ニュース」から、論文はオープンアクセスで読める。「ビスフェノールAが脳の発達を妨げる 米研究」2013年3月5日
http://www.qlifepro.com/news/20130305/us-study-of-bisphenol-a-interfere-with-brain-development.html [12]

Micheie Yeo et al., “Bisphenol A delays the perinatal chloride shift in cortical neurons by epigenetic effects on the Kcc2 promoter”, PNAS (Proceedings of the National Academy of Sciences), March 2013 
http://www.pnas.org/content/110/11/4315.abstract [13]
http://www.pnas.org/content/110/11/4315.full.pdf [14]

注12:日本産業廃棄物処理振興センター「産廃知識 PCB廃棄物」
http://www.jwnet.or.jp/waste/knowledge/pcb.html [15]

注13:National Institute of Environmental Health Sciencesがイェール大学に授与する研究助成金の申請内容, “PHAHs and Thyroid Cancer Risk in DoDSR Cohort”
http://tools.niehs.nih.gov/portfolio/index.cfm/portfolio/grantDetail/grant_number/R01ES020361 [16]