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4-2 ペトカウ博士の新発見:低線量で細胞膜が破壊され、免疫システムに影響

ペトカウ博士の最新の研究(1972)によると、低線量で細胞膜が破壊され、免疫システムにも影響することがわかってきました。これは線量が高くなるにつれて影響も大きくなるという直線仮説と逆の結果です。


スターングラス:核燃料サイクルの放射線基準に関して最近行われたアメリカ環境保護庁(EPA Environmental Protection Agency)の公聴会で、私は証拠を提出しました。これは多くの人が論文として発表した中から得られた証拠で、今私たちが話し合っている非常に低い線量の生物学的影響についてです。高線量の影響とは違う生物学的メカニズムがはっきりと表れています。

ペトカウ博士の最近のデータでは、線量率が下がるにつれて、細胞膜を破壊するには少ない線量しか必要ないことが示されています。この証拠はBEIRレポート作成時にはまだ公表されていませんでした。

これが意味するところは、遺伝子ではなく、肉体にとって、我々は全く新たな問題に直面しているということです。つまり、間接的な化学的影響によって細胞膜が損傷した時、ペトカウ博士の細胞膜のデータと、最近のデータ、微生物とネズミのデータがはっきりと示しているのは、線量が低ければ低いほど、細胞膜を破壊する線量も低くなるということです。

つまり、低線量では非直線型影響になるという結果です。これは過去に予想していたことと正反対です。(中略)

最近の研究で、細胞膜が体の免疫システム機能に関係していることがわかりました。免疫システムの最も重要な点は、ウィルスやバクテリアから体を守るだけでなく、ここ2,3年の研究結果から、がん細胞をも見つけて制御する機能があるということです。つまり、低線量放射線でがんが誘発されるのは、細胞膜が損傷を受けることが主要な原因だろうという証拠です。

これが意味することは、今までわからなかったメカニズムがわかったので、核実験後に世界中で乳幼児の死亡率が大幅に増加しただけでなく、心臓病やがんの死亡率の変化を説明することができるようになったということです。ペトカウ博士のデータが発表されるまでは、これらのデータはありませんでした。低線量における動物実験結果も最近出てきています。

私は議長のモーガン博士に賛成です。低LET放射線でも高LET放射線でも、線量がゆっくりと長期間続く場合は、私たちが予想していたよりはるかに大きな損傷を与えるかもしれないという証拠が出たのです。

ここでペトカウ博士のデータをスライド(図2)でお見せします。線量率を右から左に見ていくと、細胞膜を破壊する線量が下がっているのがはっきりわかります。医療X線の短いパルスだと、細胞膜を破壊するのに3,500ラド(35,000mSv)必要ですが、1分間に1ミリレム(0.01mSv)だと、1ラド(10mSv)以下で破壊されています。ですから、バックグラウンド線量率に近づけば、もっと破壊されるということです。これはボンド博士がおっしゃったことと正反対の結果です。

図2  細胞膜を破壊する線量

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図2 細胞膜を破壊する線量 [1]
図2 細胞膜を破壊する線量

縦軸: 0.1ラド(1mSv) 〜 100ラド(1000mSv)
横軸: 線量率 0.001ラド(0.01mSv)/分 〜 1ラド(10mSv)/分
出典: ペトカウ博士のデータ(『保健物理学』22、239p, 1972年3月)

訳者解説:

ペトカウ博士(Abram Petkau: 1930-2011)

カナダ生まれの医師・科学者。カナダ原子力公社の研究員、医学生物物理学部長として勤務した後、1990年から亡くなる直前の2010年まで医師として治療にあたった。有名な「ペトカウ効果」を発見した論文はPetkau, A. “Effect of 22Na+ on a Phospholipid Membrane”, Health Physics, March 1972. 「ペトカウ効果」の詳細についてはラルフ・グロイブ/アーネスト・スターングラス、肥田舜太郎・竹野内真理(訳)『人間と環境への低レベル放射能の脅威』(あけび書房、2011)を参照のこと。

以下の簡単な説明はカナダ・オンタリオ州政府の飲料水諮問委員会(Ontario Drinking Water Advisory Council)の公聴会(2008)で発表した「カナダ予防原則」のベネット(Alexandra Bennett)のプレゼンテーションによる。プレゼン「トリチウム——オンタリオ州飲料水の現行基準は許容できるか——」(Tritium: Is the Current Ontario Drinking Water Standard for Tritium Acceptable?):「アブラム・ペトカウ博士は1分間に26ラド(260mSv)という高速線量率では、細胞膜を破壊するには総量3,500ラド(35,000mSv)必要となるが、1分間に0.001ラド(10μSv)という低速線量率の場合は、細胞膜を破壊するのに必要な線量はたった0.7ラド(7mSv)だということを発見した。低速線量率のメカニズムは、放射線の電離作用によって、酸素(負電荷を伴うO2)のフリー・ラジカル(活性酸素)が発生すること」(p.9)と解説している。

この他、バーテル博士の論も紹介し、BEIR7レポート(2005)では、15カ国の職業被ばくのがんリスク研究結果がICRPの基準よりも高いがんリスク率を示していることから、「放射線被ばくには安全なレベルというしきい値は存在せず、バックグラウンド放射線でもがんになり、その他、心臓病や脳卒中なども引き起こすと報告されている」と指摘する。

プレゼンの結論は、低線量でも人体に害があるという科学的証拠があるので、オンタリオ州の飲料水中のトリチウム許容量が高すぎること、現行の7,000BQ/Lから100BQ/Lに下げ、5年以内に20BQ/Lに下げるよう提言している。

出典:オンタリオ州政府飲料水諮問委員会HP「トリチウム公聴会 2008年3月26-27日」
http://www.odwac.gov.on.ca/standards_review/tritium/tritium_consultation.htm [2]

プレゼン:
http://www.odwac.gov.on.ca/standards_review/tritium/presentations/Alexandra_Bennett_Precautionary_Principle_Canada.pdf [3]

日本では、東京電力が福島第一原発から海に放出している汚染水に含まれるトリチウム濃度が上がり続けている上、2014年6月24日には地下水から4,700Bq/Lのトリチウムが検出されたと報道された(注1)。ところが、フリーランス・ジャーナリストのおしどりマコ氏の東電記者会見報告によると、1年前には2号機タービン建屋の観測孔から50万Bq/Lのトリチウムが検出されていたという(注2)。その濃度が地下水を汚染し、海もさらに汚すことになる。

注1:「福島第1原発:凍土遮水壁の工法変更」『毎日新聞』2014年6月24日:
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/p20140625k0000m040111000c.html [4]

注2:おしどりマコ「2号機タービン建屋の観測孔からトリチウムが50万Bq/L検出」、2013年6月19日、NO BORDER 国境なき記者団:
【東電からの連絡】福島第一原発、港湾内海水のトリチウム測定結果(おしどりマコ) [5]

一方、日本原子力学会は、トリチウムは除去することが難しいので、希釈放出すること、その際、地元や社会に対し「海中放出においては、自然界のBG[バックグラウンド]レベルに近いレベルになるように放出した場合、生物等による濃縮はなく、しかも大洋中での速やかな希釈効果が期待できる」と説明しないと、社会で受け入れられないだろうという主旨の提言書を出している。出典:「福島第一原子力発電所の汚染水の処理について」2013年8月21日 日本原子力学会「福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会」
http://www.aesj.or.jp/jikocho/documents/press20130821.pdf [6]