6-3 アメリカ原子力規制委員会の権限と業務内容

1970年代中頃のアメリカの原子力規制委員会の業務内容と権限が細かく説明され、日本の規制委員会と比べると、とても興味深いです。特に、原発から放出される放射線レベル、廃液のレベル、作業員の被ばくモニタリングを電力会社に任せるだけでなく、抜き打ち検査をして厳しくチェックすること、原発設置場所の州も独自に第三者機関に依頼して放出放射能レベルを絶えずチェックしていて、3重のチェック機能があることが示されています。


エレット:この課題の2番目の点、低レベル放射線の主たる放射源のモニタリングと点検の責任者は誰か、このモニタリングは適正かという質問です。いろいろな機関の代表者にこれらの責任担当者の数や予算を述べよということです。

・ 環境保護局(EPA)の責任:環境放射線レベルのデータを照合・分析・解釈することが執行命令によって公衆衛生局からEPAに移された責任です。
・ 原子力委員会(NRC)とエネルギー研究開発局(ERDA)がモニタリング・プログラムから得たデータをEPAが入手します。
・ EPAが各州からもいくつか情報を得て、出版します。
・ EPA自身もモニタリングのネットワークを持っています。これは環境放射線モニタリング・システム(Environmental Radiation Ambient Monitoring System)といって、環境放射線のレベルがどのくらいかを、実験室で調査するのですが、目的は州政府用やEPAの特別プロジェクト用です。このプロジェクトは規模は大きくないですが、EPAの放射線関係予算の中では主要なプログラムです。
・ 1977年度予算の放射線関係予算の約25%($760,000):バックグラウンド放射線のモニタリング・照合・出版に専従する職員40人のポスト
・ 環境モニタリング・システム:$760,000のうち$350,000があてられます。このシステムは各原発に設置するのではなく、環境全般の場所に設置します。たいてい原発に近い所に観測所を設けますが、このシステムは大都市も含みますから、地理的分布は広いです。
・ $500,000:今年、特別な現地調査を行う予算。環境問題のある地域に関するプログラムです。
・ $225,000:非電離放射線[紫外線や可視光線]用モニタリング費用。この国で唯一の非電離放射線規則のための連邦プログラムです。

モーガン:質問の最後の部分は「適正か」ですが、EPAではもっと予算を必要としていますか、それとも、適正なプログラムですか。

エレット:私は行政予算について議論する立場にありません。何が適正か、適正じゃないかは、このパネルと市民が決めることだと思います。

 現在、大気の放射能サンプルを採取する活動基地が20カ所あり、他の54カ所は活動していません。全国の大気中のプルトニウムとウランの粒子を観測する基地が20 カ所あり、クリプトンの観測基地が12カ所あります。

 私たちは地上水の水源55カ所と水道水源76カ所からサンプルを採取しています。また、各州と共に各州間の輸送システム、電車への給水なども検査しています。年に200サンプルですから、ものすごいプログラムには見えないでしょうが。

モーガン:後ほどパネリストの皆さんが適正かどうか意見をおっしゃると思います。放射線医学局と環境保護庁について聞きましたので、次は原子力規制委員会(NRC)のお話を聞きましょう。

マットソン:NRCは規則に関する権限を3つの法律によって与えられています。1954年の原子力エネルギー法、1969年の国家環境政策法(National Environmental Policy Act)、そして1974年のエネルギー再編成法(Energy Reorganization Act)です。我々の責任分野は非常に広く、また、とてもユニークです。連邦規則の中で、われわれに認められている権限は、原子力エネルギー法で定義されている、原料物質、副産物、特別核物質の使用者の監督です。この権限は以下のことも含まれます。

・ これらの物質を扱う施設の安全性
・ これらの施設の通常運転における公衆の被ばく
・ これらの施設内の作業員の被ばく
・ 核医学と核の産業応用における放射性同位体のような特別な核物質と副産物の使用

 この3つの物質に関する我々の権限はかなり広いので、他の機関の境界と重なることがあります。その点で、我々の規則は以下の機関の規則と矛盾しない、一致したものです。

・ 労働省の労働安全衛生管理
・ 運輸省の放射性物質の輸送機能
・ 米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)、環境保護庁、アメリカ軍

 今日のセミナーの議論にとって一番重要なのは、核燃料サイクル、ウランから得る電気の産物を規制するという我々の責任です。この件の責任体系は非常に明確です。ウランが鉱山を出た瞬間から我々の規制下に置かれ、その使用、再処理、廃棄物として処分するところまで我々の規制下にあります。ウランが鉱山を出た時から、この物質を規制する責任があるのです。

 我々の責任のいくつかは州に委任しています。原子力規制委員会(NRC)の規則で言及している州のプログラムの協定書に基づいています。合衆国のおよそ半数の州がこの協定書に参加しています。州に委任している権限というのは、臨界質量以下の原料物質と副産物に係るものです。特殊な核物質は連邦政府の権限のままです。
 州が提案するプログラムをNRCが認めた場合、この規制権限が州にいくというわけです。そのプログラムの最低必要条件の一つは、連邦政府の規則と適合性があるということです。

さきほど触れられましたが、特殊な核物質、原料、副産物の放射線基準設定は連邦政府に優先権があります。

 NRCのシステムについてですが、規制システムは4つの機能分野に分けられます。

・ 規則という形で基準を書きます。連邦規則コードの第10章(Title 10 of the Code of Federal Regulations)にNRC規則が含まれています。
・ 各原子力発電所/核施設がこれらの規則に分類されると、認可を与えます。新しい原発、処理施設、ウラン工場などをケース・バイ・ケースで審査します。
・ 我々は認可した原発や核施設の運転が連邦政府との契約として明記されている条件通りかを点検します。「契約」というのは正しい表現ではないので、説明いたします。

 認可の条件は法律のもとで強制力がある法律事項です。認可の条件の中には、認可を受けた人がモニターするための基本的要件が含まれています。つまり、連邦政府が一つ一つの原発をケース・バイ・ケースでモニターするのではなく、認可を受けた者がモニターするよう、各原発に認可の一部として義務付けているのです。廃液モニタリング、環境モニタリング、施設内で働く人々のモニタリングを義務付けています。これらのモニタリングはすべてNRCの規則の厳しい線にそって明記されています。

 その上、認可を受けた者が認可の条件通りにモニタリングしているか、各原発、核施設を点検します。それに、各施設がモニターした線量を確認するために、独自の線量調査もします。施設全部で、いつもするというわけではありませんが、抜き打ち検査をするのです。
 
 このモニタリングは非常に成功しています。申し添えたいことは、かなりの数の州では、原発によるモニタリングとNRCによるモニタリングに加え、第三者機関にモニタリングを依頼しています。これらの州政府が言うには、さまざまな核燃料サイクル施設から出る放射物を記録しておきたいからだそうです。実を言うと、我々NRCもそれを勧めています。そのプログラムを支援する連邦政府の財源も少しですが、あるのです。過去には非常にうまくいきました。25年前、シッピングポート原発(訳者解説)にまで遡ります。

 予算の問題を要約すると、1976年の会計年度の総予算は$218万で、NRCには2,200人います。予算についてご質問がなければ、これぐらいにしておきます。
 確認調査のことを言い忘れました。NRCでは確認のための研究を行っています。

モーガン:NRCのプログラムは適切だと思いますか。

マットソン:今のところ、そう思います。

訳者解説:

シッピングポート原子力発電所

 アイゼンハワー大統領のAtoms for Peace(原子力の平和利用)プログラム発表後にアメリカで1957年に建設されたアメリカ初の商業用原子力発電所。ペンシルベニア州のオハイオ川沿いに建てられた。その20年後に、増殖炉に変えられたが、予想されたほど経済的ではないことがわかり、1982年に廃炉作業が開始された。

出典:ペンシルベニア州ホームページ「ペンシルベニア州の原子力平和利用」:
http://www.portal.state.pa.us/portal/server.pt/community/history/4569/_atoms_for_peace_in_pennsylvania/471309
現在、上記のペンシルベニア州サイトが更新作業中のため、ページが閲覧できない。下記で参照。
シッピングボート原子力発電所(wiki)

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