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3-2 低線量危険派vs無害派 論争 1:[訳者解説]

次に反論がセイモア・ジャブロン氏から出されました。1976年当時、ジャブロン氏は米国学術研究会議(National Research council)の副会長で、バーテル博士との応酬が続きます。議事録では、他のパネリストはDrと呼ばれていますが、ジャブロン氏はMrと呼ばれています。ジャブロン氏の意見は、それまでの3人の意見と真っ向から対立しています。

訳者解説:次に反論がセイモア・ジャブロン氏から出されました。1976年当時、ジャブロン氏は米国学術研究会議(National Research council)の副会長で、バーテル博士との応酬が続きます。議事録では、他のパネリストはDrと呼ばれていますが、ジャブロン氏はMrと呼ばれています。

セイモア・ジャブロン氏(Seymour Jablon: 1918-2012)

 広島の放射線影響研究所の追悼文によると、放射線影響研究所の産みの親と称されている。日本には1955年に派遣されて、放射線影響研究所の前身、ABCC(原爆傷害調査委員会)の疫学部長を1960-63, 1968-71年の間務めた(注1)

 バーテル博士によると、ブロス教授とバーテル博士の「白血病3州調査」の研究をジャブロン氏は「既成事実に反するもの」と研究費申請を却下したという。それに対してバーテル博士は「すでにわかっていることしか研究しないと言っている」と批判している。国立がん研究所はこの研究の継続を却下したが、「研究内容を変えるなら、喜んで考慮します」と書いてきた。研究費がなくなり、バーテル博士はロスウェル・パーク研究所での職を失った(注2)

注1:”In memoriam: Mr. Seymour Jablon”, http://www.rerf.or.jp/news/pdf/jablon_e.pdf
注2:Freeman前掲書、pp.42-44.

 最初のジャブロン氏の反論コメントは、大きなデータは広島・長崎の生存者対象で、高線量で急性被ばくだが、心血管疾患は見られないというものでした。これに対しバーテル博士が以下のように反論しています。

バーテル:ジャブロンさんがおっしゃったデータは私も注意深く見ました。広島の急性被ばくの線量を参照なさいましたが、私の理解するところ、200ラド(2000mSv)以上です。私は低線量被ばくの影響に関心がありますし、この会議もそうだと思います。低線量被ばくの影響が顕著に現れるのは、糖尿病や心血管系の病気です。

 広島のデータには最初から組み込まれた予想があります。つまり、低線量で現れるものは、高線量で酷く見られるという予想ですが、これは生物学的に誤った見方です。私の理解する限り、広島のケースは過剰殺戮能力(overkill)についてです。細胞が破壊されると、体の中で生き続けることができず、誤った情報をつくり出して、それを体の中で再生産するのです。低線量被ばくの影響は高線量被ばくの影響とは違います。

ジャブロン:2つの点で答えたいと思います。さきほどモーガンさんが低線量被ばくの影響は確かだとおっしゃいましたが、推論にすぎません。低線量被ばくでがんが起きるなど、いまだかつて誰も証明していません。高線量被ばくの影響から低線量被ばくの影響がどう現れるか推測するのが妥当だと思います。シスター・バーテルが首を振って、反論あるようですが、とにかく、低線量被ばくで心血管システムに影響するが、高線量では起きないというのは、それを証明するには、人間のデータ以外で出来るかにかかっています。私たちは今あるものについて、独自の見解を持つことができる筈です。

訳者注:議長を含め他のパネリストがバーテル博士と呼ぶのに対し、ジャブロン氏が「シスター」と呼ぶことは、科学者としてのバーテル博士を認めないという意思表示のようで、バーテル博士も原子力ムラが彼女を貶めるときに「シスター」と呼ぶと述べています。

バーテル:放射線の影響について、ファジーな(おおまかな)考え方が3つあります。1番目はあらゆる被ばくは害があるというもの、2番目は遺伝的損傷は観察可能だがある特定の病気に結びつけることはできないという考え方、3番目は老化のような、非特定的全般的な影響があるというものです。私は他に呼びようがないので、老化現象的影響と名付けていますが、この現象を測ることで放射線の影響を指摘したいと思います。人間の体には生体制御システムがあります。言い換えれば、環境の変化に対応するためのある種の化学作用があるということです。

 年をとるにつれて、環境の変化に対応する能力は失われていきます。ホメオスタシス調整能力(恒常性維持能力とされ、生体内の環境——体温、体液量等を一定に保とうとする能力)で対応することができにくくなるのです。「白血病3州調査」で行った計測によって、放射線から比較できる影響を見つけることができます。つまり、被ばくすると起こることが、自然バックグラウンド放射線とか他のものに1年ぐらい晒されると起こることに相当するということです。

 私たちがここで扱うことは、人口全体が被ばくすると2,3人ががんになるという問題ではありません。誰もが影響を受けるということです。人間の体に損傷を与えるもので、年齢、性別などを問わず、誰にも起こることです。がんや白血病、その他多くの病気のリスクが増え、そこに偶発的要素が入り込むわけですが、これは二次的な影響です。このいくつかは明らかで、証明することができます。このことは、更なる研究の必要性を示しています。私たちがどんなに長い間研究を続け、データを見つめ続けても、方向性の正しい疑問を持たない限り、答に辿りつけません。私がこの会議で提案したいことは、すべての疑問に答えることではなく、新たな技術を手に入れたのですから、この技術を持っているデータに応用して、適切な質問をすることです。