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4-10 低線量被ばくの最大の影響は免疫システムの低下

スターングラス博士が日本とアメリカの子どもの死亡率を示して、核実験の影響によって、子どもの死亡率が増加していること、免疫力低下による肺炎やインフルエンザの死亡率が、核実験によって上昇したことを示しています。結論として、低線量被ばくの最大の問題は免疫システムの低下だと警鐘を鳴らしています。


スターングラス:日本で白血病が劇的に増加した理由を示したいと思います。胎児の初期にどんな損傷を受け、この時期が最も敏感な時期だとは皆さん同意なさると思いますが、細胞分裂の最も重要な時期に被ばくすると何が起こるか図8でお見せします。これは瀬木博士のデータで、日本の白血病と全がんの死亡率ですが、1940年から1965年にかけて、5歳から9歳の子どもたち、10万人につき何人死亡したかのグラフです。

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図8 全日本がん死亡率(5〜9歳男子) [1]
図8 全日本がん死亡率(5〜9歳男子)

縦軸(左側):5〜9歳児のがん死亡率/100,000人
横軸:年(1936〜43年は年平均41件)
縦軸(右側):フォールアウト前との比較 増加率
事件(左側下から):1回目原爆(5年遅れ)、1回目ソ連原爆実験、1回目水爆実験
  (右側:219件)、2回目水爆実験(右側:219件、277件)
出典:瀬木他、日本対がん協会

原爆の前、1935年から1940年までの小児白血病とがん死は上昇が見られず、むしろ少し減少しています。この5歳から9歳という年齢は瀬木博士がデータで示したのですが、スチュアート博士がイギリスの大規模な疫学調査で行ったのと同じ年齢です。彼女が発見したのは、妊娠中で、X線に最も敏感な時期ということです。

 ご覧いただいてわかるように、わずか2,3年、あるいは、5年の間に突然にがん死がものすごく増加しています。治療用X線を妊娠中に受けた場合で見たものと同じです。1950年から始まって最初の2年半に、200%増加しています。

 低空の原爆実験の数が横ばいになって、上空の水爆実験が始まると、がんの死亡率も横ばいになりました。その後、2回目の核実験シリーズの後、典型的なことですが、およそ5,6年たつと、がん死のピークがもう一度起こりました。最近のデータによると、がん死がまた下がり始めています。これもまったく予想通りです。ですから、これも私たちがフォールアウトの影響をいかに過小評価してきたかを示す証拠です。被ばくが、胎児が最も敏感な時に起こるということです。

 しかし、がん死が増えるだけではありません。感染と戦う能力にも変化が起こっています。これも放射線の影響だとわかっています。図9は胎児の時期に被ばくした子どもたちの肺炎とインフルエンザによる死亡率です。

図9 アメリカの肺炎・インフルエンザ死亡率(0〜1歳) [2]
図9 アメリカの肺炎・インフルエンザ死亡率(0〜1歳)

縦軸(左):死亡率/1000出生  (右)死亡者数概算/年
横軸:年
曲線下の解説:1938〜47年 傾向(指数関数フィット)
事件:フランス8、中国核実験(French 8, Chinese Tests)、ネヴァダ核実験(Nevada Tests)、太平洋原爆実験(Pacific A-Tests)、水爆実験(H-Tests)、核実験モラトリアム(Test Moratorium)、アメリカ・ソ連 核実験禁止条約(U.S—U.S.S.R. Test Ban Treaty)
出典:アメリカ人口動態統計

 この図から、1940年から1975年にかけて、死亡率が最初は1945〜1950年まで急激に減少し、その後減少が止まり、1956年から57年にかけての最大のフォールアウトの時に上昇し始めたことがわかります。最後に、核実験が終了した頃に再び死亡率が下がったことは、胎児の時に膨大な量の内部被ばくをするようなことさえなかったらと思わずにいられません。

 50年代に年間9,000から1万の乳幼児の死と向き合っています。これは統計的に小さな変化ではない筈です。この死亡率はまた下がり始めていますから、50年代に可能な最低レベルに達したわけではありません。

 これがペニシリンや他の薬で下がったとは言えません。過去2,3年に肺炎とインフルエンザはまた急激な減少になっていますから。つまり、総数の点からは、低線量被ばくの最も深刻な被害はがんの発症ではなく、人間の免疫システムへの影響の方が深刻なのです。

議事録掲載の参考文献リスト
1. Morgan, Karl Z. Suggested reduction of permissible exposure to Plutonium and other transuranium elements. American Industrial Hygiene Association Journal, v.36, August 1975: 567-575.

2. Petkau, A. Effect of 22Na+ on a Phospholipid Membrane, Health Physics, v.22, March 1972: 239-244.

3. Little, J.B., et al. Lung Cancer Induced in Hamsters by Low Doses of Alpha Radiation From Polonium-210. Science, v.188, May 16, 1975: 737-738.(議事録にはPlutonium-210とされているが、正しくはPolonium-210)

4. Yulish, Charles B, et al. Low Level Radiation: A Summary of Responses to Ten Years of Allegations by Ernest Sternglass in Proceedings of the Fifth International Conference on Science and Society. Herceg-Novi, Yugoslavia. Charles Yulish Assoc. New York. July 9, 1973.

5. United Nations Scientific Committee on the Effect of Atomic Radiation. Report of the General Assembly: Ionizing Radiation: Levels and Effects. Vols. I and II. New York, United Nations Publications. 1972.

6. Radford, E.P. and E.A. Martell, “Polonium-210: lead-210 ratios as an index of residence times of insoluble particles times from cigarette smoke in bronchial epithelium”, Proceedings of the Fourth International Symposium on Inhaled Particles and Vapours, Edinburgh, 22-26 September 1975, Pergamon press, Ltd., and Martell, E.A., “Tobacco radioactivity and cancer in smokers”, American Scientist, 63, 404-412, July-August 1975.