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7−3 不都合な研究結果を無視した放射線基準

健康と命を心配する科学者たちは、被ばく限度基準を設定する際に、少しの被ばくでも危険だという証拠を示す最新研究を考慮するよう求めますが、原子力推進側は形式論で反論しています。国家環境保護法では最新研究を考慮しなければいけないとされるのに、放射線基準設定機関は原発推進のために、法律違反を犯しているという含みの指摘に対し、市民から拍手が起こります。


ブロス:国立がん研究センター・ロスウェル・パーク記念研究所生物統計学部長
 この件では発言するつもりなかったんですが、フロアーのみなさんが今の議論で混乱していると思います。私なりの質問形式で要約してみます。今の議論は基準がどんな方法で設定されるか示しているのか。

 まず第一に、もし今までの議論のメッセージが伝わっていないとしたら、基準は10年から15年も時代遅れのデータをもとに設定されていることを申し上げます。2番目に、これでも、まだメッセージが通じないとしたら、更に時代遅れの直線仮説のような方法論を使って、基準が設定されているのです。

 データがどうやって出てきたかも面白いと思いますよ。引用されたデータをどうやって手に入れたのか。たとえば、女性たちが出産後の問題に対応するために、乳房に200ラド(2000mSv)当てられたことに関するデータを手に入れたわけですが、その理由は、放射線技術者は全く安全だと思っていたからです。放射線技師たちはこの線量を与え、10年か15年後に15%の女性たちが50歳前に乳がんになり、それでようやく危険だとわかったのです。

 これが基準を設定する一般的なプロセスです。時代遅れの方法で基準を設定するのです。昔の被害について私たちが立ち上がり、行動を起こす頃には、基準は新しいものに代わっています。今回はこの遅れが現在の全人口が絶えず危険な状態に晒されているという結果をもたらしています。

マットソン:原子力規制委員会
 ブロス博士は前にもこの意見を述べられましたが、勧告と基準と連邦政府の規則に関してちょっと混乱なさっているようです。

 確かに、放射線の許容レベルの最初の勧告は大分前に出されました。また、この勧告が出てから、勧告する委員会によって特定の問題や一般的問題について何度も検討を重ねられてきたのも事実です。これらの問題を検討する委員会がたくさんあり、折に触れて、この勧告の正当性を再確認しています。

 放射能に関する連邦政府の規則の大部分はこの勧告からきているのですが、毎年変化しています。私が担当している20の放射線基準は、私が参加してから、年に5回ぐらい変えていると思います。細かな点の変更ですが。放射能管理に使われる標識とか、放射能作業で使う手順とかです。

 放射線防護原則の応用に関して、これが15年も時代遅れで、変えて来なかったというのは違います。新しい知見が現れるたびに、時代にあうように変えられています。

ブロス:質問したいのですが、たとえば、5レム(50mSv)について議論していましたね。これは何年ぐらい実施されているんですか。

マットソン:相当長い間です。何度も再検討はされました。おっしゃっているのが5レムの基準なら、環境保護庁(EPA)の現在進行中の5レム基準の研究をあげることができます。

ブロス:私が言いたいことは、その研究は新たな証拠を採り入れずに、古い基準をただ再確認するだけだということです。まさに、これが何度もくり返されているのです。これは基準をアップデートするということではありません。

スターングラス:まさにその点について言いたいことがあります。

 検証されるべき情報のほとんどは、ほんのこの3,4年間に現れたものです。この問題を検討してほしいと環境保護庁がBEIR委員会に依頼したのは1970-1971年でした。サンダース博士の低線量に関する多くのデータや、自然ウランに被ばくした犬を研究したロチェスター、それにペトカウ博士のネズミの細胞膜に関する最近のデータなど、膨大なデータがこの2,3年の間に現れたのです。これらが基準設定システムに組み入れられるべきです。これが実現すれば、環境から受ける被ばくの許容線量を大幅に下げることになると思います。

訳者注:サンダース博士(B.S. Sanders)

引用論文は”Low-level radiation and cancer deaths”, Health Phys. 1975; 34: 521-538.だと思われる。この研究はハンフォードの作業員を1944年から1971年にかけて被ばくのモニターをしたもので、男性17,600人、女性3,900人が対象だった。
出典:Britton, J. Technical Report: The association between cancers and low level radiation, May 1993:
http://www.osti.gov/scitech/biblio/585064 [1]

リッチモンド:オークリッジ国立研究所生体医学環境部副部長
もっと最近の情報をお読みになりたければ、NCRP-43を推薦します。リスク推定の更新です。

スターングラス:NCRP-43は細胞膜損傷の研究を考慮していませんよ。

リッチモンド:お言葉ですが、NCRPは医学、法律など、ありとあらゆる分野を代表する70人の委員からなる委員会です。この中の誰か、あるいはグループが責任ある行動をすると思わなければなりません[やっていけません]。

 委員会憲章もあります。同じような国際機関があります。これ以上、個人に何ができるかわかりません。その問題に関して必要だと信じる情報があるなら、委員会がそれを使っていないと言いさえすればいいんじゃないですか。

スターングラス:その通りです。だからこそ、私は環境保護庁の最近の公聴会で提言したのです。環境保護庁はこのような新しい知見を考慮しなければならないと法律で定められているんだと。NCRPやICRP、あるいは誰でも、ある特定のデータを考慮してはいけないという法的しばりがない限りは。

 残念ながら、国家環境保護法によって、環境保護庁はすべての最新データを考慮しなければいけない、運転中の[原子力]産業を維持するために、都合のいいデータだけを選んではいけないと決められています。

(拍手)

リッチモンド:あなたのご指摘はいいと思います。一つだけご注意申し上げます。

 [使われた]言葉は「合理的なものはすべて」(any reasonable)とかなんとかのような文言だと思います。私が指摘したいのは、これは侮辱的な意味では決してないのですが、建設的な意味で申し上げます。私たちを悩ませる問題は本当にたくさんあります。その一つ一つを徹底的に掘り下げる作業をどうやって始められるのか。

 規制機関と一般大衆の意識と一般大衆のインプット[情報提供の意味か?]と併せて、正しい決断を下す専門家集団の機関があるとみなさなければなりません。そう信じなければ、このシステムの運営方法も信じられないことになります。

スターングラス:もちろん、システムの運営方法を受け入れます。しかし、将来このシステムは過去にしてきたよりずっと詳細な点で、一般大衆の監視のもとに運営されなければなりません。今まで、あらゆることが秘密裏に行われてきました。決定が下される基になった資料のすべてに誰もアクセスできないままでした。

ボンド:ブルックリン国立研究所生命科学部副部長
 再度言わせていただきます。BEIR委員会のレポートが作成される過程で、委員会の活動が進行中であることは広範囲に周知されました。個人からもグループからもデータを寄せてほしいと広報しました。提供されたデータはすべて審議され、しかも詳細に審議されたのです。スターングラス博士が提供なさったデータも含まれています。これらすべてのデータが審議されました。委員会が勧告と結論を出すにあたって必要と思われる程度まで審議しました。

カルディコット:プルトニウムが実際に生殖腺に行くと思ったなら、そして、それを示すデータがあるのですから、この国だけでなく、世界中の人の生殖腺を汚染するプルトニウムを生産する産業を、政府の規制委員会はどうして支援するのですか。これはアメリカだけの問題ではありません。世界中の原発の拡散の問題です。

モーガン:課題7にいった方がいいと思います。この会議で課題6に完全に答えることはできないと思います。もし1週間時間があるなら、もっとよくこの課題に取り組むことができると思います。

エレット:環境保護庁
 さきほどのかなり挑発的なステートメントに答えたいと思います。この国では放射能をどうするかについて議会が決定を下しました。ロジャー・マットソンが指摘したように原子力産業をつけたり消したりするのは、規制委員会の責任ではありません。

 プルトニウムに関する決定はかなりの部分が金によって決められつつあります。議会が増殖炉用に支出を認めた金額です。私の考えでは、間違った方向のエネルギーだと思います。どんな健康被害が出るかという狭い文脈でこのプログラムを検証するには、本当に間違ったエネルギーです。この問題に関連して、コストと利益を考える上で、非常に大きな問題だと思います。

グッドマン:原子力エネルギー安全コンサルタント
 問題は政府機関が議会に全部を知らせていないことです。特に隠蔽され、修正されたWASH 740レポートですが、もともとの草稿では最近政府機関がMIT(マサチューセッツ工科大学)から購入したものとは大きく違う結論があったのです。ですから、政府機関が議会に誤った情報を流し続ける限り、議会が下した決定を頼ることは不可能です。

マットソン:今おっしゃったWASH 740レポートは10年前のものです。それを作成した政府機関はもう存在しません。低線量の問題に戻るべきだと思います。

グッドマン:そのレポートでは低線量を議論していました。しかし、そのレポートは受け入れられるヴァージョンでなく、隠蔽されたのです。

訳者注:WASH-740

 ブルックヘヴン・レポート(the Brookhaven Report)としても知られている。題名は「大規模原子力発電所における大規模事故の理論的結果と可能性——理論的に起こると予想されるが、ほとんど起こりそうもない事故が起こった場合の起こり得る結果の研究——」(Theoretical Possibilities of Major Accidents in Large Nuclear Power Plants: A Study of Possible Consequences if Certain Assumed Accidents, Theoretically Possible but Highly Improbable, Were to Occur in Large Nuclear Power Plants)。発行者:米国原子力委員会。発行年:1957年3月。
デジタル版にアクセス可能:
http://www.environmentandsociety.org/tools/keywords [2]
上記のアドレスで「WASH-740」を入力して検索するとドキュメントへのアクセスが可能。

議事録記載の参考文献
U.S. National Council on Radiation Protection and Measurements. Review of the Current state of radiation protection philosophy. Washington, D.C. Jan. 15, 1975. 50p. (NCRP Report No. 43).