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8-4 アメリカ国立がん研究所は放射線の健康影響の研究をもっとすべき

国立がん研究所が放射線関連の研究をする気がないようだというコメントがあり、議論の末に、放射線の健康への影響に関する研究は、公衆の健康を守ることを使命とする機関が一括して行うよう、アメリカ議会に提言すべきだという提案が出されます。


モーガン:パネルの方々で直接質問したいという方がいるかもしれませんね。環境研究会議(Environmental Study Conference)のマイルズさん(Mr Myles)がここでコメントしたいそうです。

マイルズ:私がコメントしたいのは、アメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute)に対して、放射線の健康影響に関する研究は現在どんなものが行われているか、我々が質問したということです。

 回答をマーヴィン・シュナイダーマン博士(Dr. Marvin Schneidermann)と、国立がん研究所の臨床疫学部門(Clinical Epidemiological Branch)部長のロバート・ミラー博士(Dr. Robert Miller)から得ました。二人とも基本的に同じ回答で、何も行っていない、少なくとも放射線の健康影響に関して新たな研究は何もしていないということでした。

 ミラー博士が追加情報として次のようなことを提供してくれました。放射線影響研究所[広島]に対して研究費支援を継続して行っている。あそこの原爆[英語原文でthat atomic bomb]で胎児被曝した子どもたちの頭囲(head circumference)の研究です。米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)への資金援助、米国学術研究会議(National Research Council)には診断用X線に被ばくした胎児と小児がんとの関連に関する研究を支援しています。また、臨床疫学部門は月刊ニュースレターを1973年から発行しています。

 以上のことから、国立がん研究所は放射線の健康影響の研究をもっとすべきだと考える人もいると思います。

ブロス(国立がん研究センターのロスウェル・パーク記念研究所生物統計学部長):
(3—1「訳者解説」参照) [1]
 そのリストから私が除外されていることを申し上げたいと思います。

その理由は、われわれの研究が生物測定であり、がん疫学、そして一般方法論で、放射線被害に特化していないからです。われわれがその分野で資金援助を求めようとしたら、研究費支援は受けられなかったでしょう。[訳者注:文脈から、放射線影響の研究に特化する研究課題では研究助成金は得られないという意味か]

 国立がん研究所では他にも研究があると思います。記録のために、我々の助成金申請Grant Number CA11531から読み上げたいと思います。この中の研究者たちは名前が記録されることを望んでいます。

エドソール(Dr. John Edsall):会議の冒頭でパネリストとして紹介された。ハーバード大学生物学名誉教授、第6回国際生化学会議議長

 国立衛生研究所(National Institute of Health)であなたが相談した人たちは、この分野にそんなに少しの研究プログラムしか採用しないという決定の根拠を示しましたか。

マイルズ:いいえ、その気もありませんでしたね。私が言える限りでは、なぜ予算がないのか、研究費が注がれないのかの説明をする努力はありませんでした。

エドソール:この分野の多くの機関で研究が行われているから、国立がん研究所ではこの研究をする必要がないと考えたのかもしれません。

 それでも、がんの分野では多くの研究がされているのに、この分野ではほぼ皆無というのは、国立衛生研究所も、国立がん研究所も、プログラムが非常に偏っていると私には思えます。

アーチャー:(公衆衛生局、国立労働安全衛生研究所医学部長)国立がん研究所が行った二つの研究が最近出版されましたが、この議論にぴったりの研究です。

 一つはコロラド州メサ(Mesa, Colorado)の住民の死亡率の分析研究です。グランド・ジャンクション(訳者注) [2]がある郡です。特に肺がん[の増加]を見つけようとしたのですが、見つかりませんでした。また、今朝私がお話ししたような研究、がんとバックグラウンド放射線の関係に関する研究もしました。この結果は2年前に発表されたと思いますが、影響はないという結果でした。

 今朝の話にありましたが、国立がん研究所の研究は間違った推論にしたがってなされたと思います。

ジャブロン(学術研究会議副会長):
 私はここで国立がん研究所の弁護に立ち上がる立場ではありませんが、研究所の人たちと話していて、二つのことが明らかになりました。彼らの思いは、他の機関、特にERDA(エネルギー研究開発局)が最も関心を持っているのが放射線影響だから、国立がん研究所が[ERDAと]競争する理由は全くないというものです。

 二番目に、国立がん研究所はがんに関心があるということです。ですから、彼らの関心にあうような、たとえば、がんの疫学調査などの契約提案書やプロジェクトを持って行けば、[今までは]前向きに検討していました。それに、すでに言及されたように、旧ABCC、現在の放射線影響研究所に対して、原子力委員会が必要な資金を見つけることが難しい時には、国立がん研究所がかなりの資金援助を投入していました。ですから、国立がん研究所はちゃんと対応していたと思います。

ここで議長が5分の休憩を宣言した。

モーガン:バーテル博士が休憩前のディスカッションについてコメントしたいそうです。

バーテル:(国立がん研究センターのロスウェル・パーク記念研究所研究助手)
 私たちは研究の適切性について話しあってきて、いくつかの側面、たとえば生物学的メカニズムをどう理解するかについては既に話しました。もう一度指摘しますが、みなさんがメカニズムをどう理解するかが、データをどう見て、どう報告するかに影響するのです。

 データ収集について、その不足について話し合いました。まだ話し合われていない大きな分野があります。それはデータの数学的分析方法です。これこそ最新化しなければいけない重要な分野です。この種のデータを扱うために、私は方法論の最新化と、非常にあいまいなもの、たとえば、[早期]老化の影響の計測法を最新化する努力を多くしてきました。これはどう扱うのか難しい問題です。この方法論の分野の最新化をする意思がない限り、研究は不適切だと思います。

ブロス:たぶん、我々はアメリカ議会に提言するために話し合っているのですから、そして、最後に研究費という問題が出たわけですから、この時点で政策を申し上げたいと思います。

 国立がん研究所がこの分野には多くの研究費援助を基本的にはしていない理由が、他の機関に依存しているからと聞いたわけです。研究責任が拡散すれば、このようなことが起こります。政策として私が提言したいのは、健康に関する研究は公衆の健康を守ることが使命の機関が行うことです。他の使命を持つ機関ではなく。

訳者注:

グランド・ジャンクション(Grand Junction)

 コロラド州グランド・ジャンクションに1899年から砂糖工場としてあったものを、1950年にクライマックス・ウラン会社(Climax Uranium Company)がウランとバナジウム(vanadium)工場に構築しなおし、1970年までに220万トンの放射性テーリング(radioactive tailing精錬かす)を出した。主に砂状の物質である。

 1950〜1966年の間、このテーリングは市民や土建業者に提供され、コンクリートやモルタルに使用された。この放射性テーリングはグランド・ジャンクション地域の4,000の住宅や商業施設に使われた。1966年に、このテーリングによる健康影響の懸念が起こり、コロラド州保健省はすぐにテーリングのラドン222を調べた結果、放射線量が高いことがわかった。クライマックス社は工場からテーリングを放出することは中止したが、その頃までに既に、ウラン娘核種を含む放射性物質が30万トンも外部に運ばれた。

 1970〜1971年にクライマックス・ウラン社は12の工場施設のうち、8施設を取り壊した。除染された可能性のある機械は売られ、除染されていないものは建物のがれきと共に埋められた。残りの建物は1989年に取り壊しが完了した。1980年代中頃に地表の除染と、住民の汚染された住居、商業施設の除染が始まった。エネルギー省(DOE)はこの地域すべての放射線測定を行い、工場関連のラジウム226やラドンのレベルが高い所は除染を行った。

 1990年にグランド・ジャンクション処分場の建設が、グランド・ジャンクションの南東18マイル(約29km)の所で始まり、1994年末までに旧ウラン工場と周辺地域の汚染物質はこの処分場に移動された。エネルギー省がこの地を処分場に選んだ理由は、遠隔地、地下水が少ない、地下にマンコス・シェール(けつ岩)の厚い不浸透層があることなどだった。この処分場は1000年効力を持つように設計されているが、達成可能な年数は200年である。

 工場跡地の所有権はコロラド州からグランド・ジャンクション市に移された。権利書には、「州とエネルギー省が認めない限り、いかなる目的でもここの地下水を使用してはいけないこと、井戸を掘らないこと、地下水をいかなる方法でも地表にさらしてはいけないこと」を市が同意すると記されている。市では地下水を飲料水として使用することを禁じているが、灌漑や家畜用には認められている。
出典:U.S. Department of Energy, Legacy Management, “Grand Junction, Colorado, Processing Site and Disposal Site”, 2011年12月15日

エネルギー省HP “Grand Junction, Colorado, Disposal Site”上の「Key Documents」の「Fact Sheet」をクリックするとpdfにアクセスできます。
http://www.lm.doe.gov/Grand_Junction_DP/Disposal/Documents.aspx [3]

グランド・ジャンクションの市民たち

 2009年時点で、まだ様々な問題が存在している。放射能汚染について知らされずに土地や家を買った市民がいること;70年代と80年代に除染された家や土地は、現時点の基準にあわない(除染が足りない)という問題;コロラド州が放射線汚染物質を住民の土地から移動させる補助金を出さないこと;ウラン工場に関する情報を知らない住民がまだいること;不動産業者は放射能問題について周知させなければいけないことになっているが、575社のうちわずか2,3社しか情報請求していないこと;土地建物を売る場合に事実を伝えない所有者の問題等々。
出典:シャロン・サリバン(フリー・プレス)「放射性テーリングはまだ問題」
(Radioactive mill tailings still an issue)、2009年12月3日
http://www.postindependent.com/article/20091204/COMMUNITY_NEWS/912039976 [4]