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8-5-13 チェルノブイリ法に基づく数々の補償・福祉政策(2)

チェルノブイリ事故から20年目のベラルーシ政府報告書には被災者に対する様々な補償・社会福祉項目があげられています。

ベラルーシ政府の対応

「チェルノブイリの影響の軽減のための対応策の成果と、解消されない問題」(pp.64〜65 注)

● すべての被害者の社会保障システムが実行され、汚染地域における医療ケアの改善のための複雑な対応策が講じられた結果、100万を超す人々が毎年高度な健康検査を受けている。
● 138,000人が最も汚染された地域から移住し、彼らの雇用も事実上完了した。
● 放射線管理とモニタリングのシステムはうまく作動している。

ベラルーシ法「チェルノブイリ原子力発電所惨事によって苦しめられている市民の社会保障」(On Social Protection of Citizens Who Suffered from the Chernobyl Nuclear Power Plant Disaster)は以下の市民の権利を守る。

● チェルノブイリ原発内で作業する人々
● 放射線汚染地域から避難/移住した人々
● 汚染地域に住み続けている人々
● 民間および軍の原子力施設の事故によって影響を受けた人々と除染作業を行った人々
● 核実験、核兵器を含む各施設の活動やトレーニングによって影響を受けた人々

ベラルーシ法「チェルノブイリ原子力発電所惨事の結果、放射能汚染によって影響を受けた地域の法的地位」(On the Legal Status of the Territories Affected by Radioactive Contamination as a Result of the Chernobyl Nuclear Power Plant Disaster)は以下の項目のために制定された[以下、抜粋]。

● 被害者と環境の放射線影響を下げるため。
● 防護・改善対策を実行するため。
● 自然・経済・科学的リソースを有効に活用するため。

 汚染地域区分は、平均実効線量、セシウム・ストロンチウム・プルトニウムの汚染濃度のいずれか1点の上昇で行われる。汚染地域のリストは少なくとも5年に1回、ベラルーシ共和国大臣委員会で、住民の年間実効線量をもとに見直している。

ベラルーシ政府報告書中の汚染地域区分

区分 年間実効線量 セシウム137 ストロンチウム90 プルトニウム238, 239, 240
放射線定期管理区域 1mSv/年以下 37,000~185,000Bq/㎡ 5,550~18,500Bq/㎡ 370~740Bq/㎡
移住の権利区域 1~5mSv/年 185,000~555,000Bq /㎡ 18,500~74,000Bq/㎡ 740~1,850Bq/㎡
移住義務区域(追加移住区域) 5mSv/年以上 555,000~1,480,000Bq/㎡ 74,000~111,000Bq/㎡ 1,850~3,700Bq/㎡
初期移住区域 5mSv/年以上 1,480,000Bq/㎡以上 111,000Bq/㎡以上 3,700Bq/㎡以上
避難区域(立ち入り禁止) チェルノブイリ原子力発電所周辺地域で、1986年に避難した地域

*日本で流通している表記を採用し、()内にベラルーシ政府報告書の表記の翻訳を入れています

「チェルノブイリ事故による放射線被ばくした人々のベラルーシ国家登録」(pp.72〜74)
 ベラルーシ法「チェルノブイリ原子力発電所惨事によって苦しめられている市民の社会保障」(1993)に基づいて、惨事の医学的生物学的データを収集し、治療とリハビリテーションの対応策などを整備するために「チェルノブイリ事故による放射線被ばくした人々のベラルーシ国家登録」が成立した。2005年時点で総数168,970人のデータが登録されている。

生徒と学生に対する無償給食
 チェルノブイリ事故の被害を減少するために、ベラルーシ共和国大臣会議で「汚染地の学校と教育機関の生徒・学生たちに対する無償給食の取り決めについて」(2004)が決定された。汚染度と子どもの年齢によって、支給される食事回数が異なるが、すべて国庫負担である。表7.7(p.73):2000〜2001年の受給総数268,500人、2005〜2006年の受給者総数203,300人だ。

サナトリウム治療とリハビリテーション
 ベラルーシ法「チェルノブイリ原子力発電所惨事によって苦しめられている市民の社会保障」によると、31万1000人がサナトリウムでの治療とリハビリテーションを無償で受ける権利を持つ。このうち、25万8500人(84%)が子どもで、その内訳は、チェルノブイリ事故によって病気になった子ども1,429人、追加移住地域に住み続けている子ども903人、移住の権利区域に住み続けている子ども42,200人、放射線定期管理区域の子ども22万4,900人、汚染地域から移住した子ども5,700人である。

 土壌汚染度が5Ci/㎢ [185kBq/㎡]以上の汚染地域に住む子どもたちは年2か月無償のサナトリウム治療を受ける権利がある。就学前の子どもと子どもの病人には親一人の同伴が認められ、学校生徒は教師の引率で集団で滞在することができる。この法律を実行するためには、年48万2000人分の無償サナトリウム施設を提供しなければならない。国家予算でまかなえるのは、その60%、27万人分だけである。

 表7.8(p.73):2001年482,493人分必要だったが、提供できたのは272,998人分。2005年必要数329,570人、提供数199,000人(予定)。チェルノブイリ事故の影響を受けた子どもたちは90以上の施設を利用している。そのうち、子どもサナトリウム9施設(9,800人)、子どもリハビリ・センター9施設(35,200人)、子どもサナトリウム・リハビリテーション総合施設3カ所(7,500人)、成人用サナトリウム11施設(17,000人の子ども収容)、サナトリウム予防施設38カ所(62,000人の子ども収容)、子どもサマーキャンプ13カ所(32,900人)、その他12施設(20,200人)である。親同伴の子どもは3カ所のサナトリウムで受け入れている。

 子どもリハビリ・センターはチェルノブイリ委員会によって始められ、サナトリウムでの治療とリハビリテーションの設備や教育設備、社会心理リハビリテーション設備、レジャー(スポーツを含む)設備を備えた特別子ども施設のモデルとして機能している。子どもリハビリ・センターは年間を通した活動をするサナトリウムの設備を備え、就学前の子どもの親も、教師の引率による全学年の子どもグループも受け入れている。

 2005年には子どもリハビリ・センター9カ所が35,000人の子ども(リハビリが必要な全子どもの19%)にサナトリウム治療の全課程を提供した。2006年には子どもリハビリ/センターの数は3,240になり、年間42,000人の子どもにサナトリウム治療を提供する。健康リハビリテーション分野で、海外からの支援も重要である。ベラルーシの子どもたち5万人以上が海外で保養している。

 チェルノブイリ事故の被害にあった子どもたちを守る取組として、2001〜2005年に「ベラルーシの子どもたち」プログラムが実行された。子どもたちの医学的防護、社会心理健康リハビリテーション、健康対策の向上、子どもたちの治療予防設備の建設等が行われた。

「社会保障」(pp.67〜71)
 ベラルーシ法「チェルノブイリ原子力発電所惨事によって苦しめられている市民の社会保障」に基づいて2005年1月時点で登録されている市民は以下である。
● チェルノブイリ事故の放射線影響によって病気になったり、病人になった者—10,848人
● 1986〜1987年にチェルノブイリ原発内および避難区域[ベラルーシ法の区域区分では、ウクライナ法の「避難区域」が「初期移住区域」とされ、「避難(立ち入り禁止)区域」は5番目になっている]で作業をした者—68,676人
● 1988〜1989年にチェルノブイリ原発サイトおよび「初期移住区域」、「追加移住地域」で作業をした者—38,382人
● 汚染地域と認定された地域に住み続ける者—約133万3000人
● 汚染地域から自主避難/移住した者—13万7000人以上

 最も被害者が多いグループは、チェルノブイリ事故の結果、病気になった者で、このグループには造血系障害(急性白血病)、甲状腺異常(腺腫、がん)、悪性腫瘍の子どもを含む。子どもの病人は第一級病人とされている。これらの人々は健康被害の補償と、リハビリテーションのための年間特別支給を受けている。「チェルノブイリ病人」(Chernobyl invalids)は医療費と義歯費が無料、退職後あるいは雇用場所を変えた後でも医療フォローアップを受けた医療施設を使うことができる。自宅介護費用も払い戻される。毎年療養所での治療が無料で、年間14日の休暇を好きな時に取ることが保証されている。

 病人に対する経済支援:所得税優遇措置、公共住宅の無料民営化(free privatization of state housing)、水道・ガス・電気費用の50%支援、健康検査のための交通費無料化、公共交通の無料化、年1回の旅費(目的地自由)、住居の改築と増築支援、家の新築や購入のローンの権利(50%が国家から支払われる)、高校・専門学校・大学への入学の権利(入試免除 out-of-competition)、勉学期間中の寄宿舎の確保、50%高い奨学金受給。「チェルノブイリ病人」の子どもは幼稚園が提供され、サマーキャンプとサナトリウムが無料提供される。

 この法律は避難区域(立ち入り禁止)、初期移住区域、追加移住区域から避難/移住した者も、また、汚染地域から自主避難した者にも同等の権利を保証する(訳者による強調)。これらの人々は移住の際に労働契約をキャンセルする権利を有し、移住先で即座に再就職支援を受ける権利を持つ。損害賠償には、移住のための労働契約キャンセル時に、平均給与の4倍を退職手当とすること、移住の際に特別損失金として月給分を家族一人一人に支払うことが含まれる。

 資産の移動による損失の損害賠償:不動産や農場など、移住地に持って行けないもの、殺処分しなければいけない保険をかけている家畜、果樹や植物、土地造成費用など。移住費用と資産の移動費用は全額支払われる。汚染地域から移住した人々は新たな土地で家(アパート)を私有財産として提供される。この場合は損害賠償金は支払われない。もし家の損害賠償額が提供された私有財産用の家やアパートの額を超える場合は、その差額が支払われる。

 その他の特権:農村地域に移住した場合、3年間土地課税が免除される;サナトリウムでの治療が即座に提供される;幼稚園の入園確保;子どもの特別医療施設;サマーキャンプ;14日間の休暇。

 避難区域、初期移住区域、追加移住区域、移住の権利区域に以前住んでいた子どもと青少年は移住先でサナトリウムでの治療とリハビリテーションが無料で受けられ、薬も無料である。子どもが病院治療やサナトリウムでの治療が必要だと判断され、同伴者が必要な場合、同伴者の旅費と治療期間中の滞在費と病気休暇が提供される。

注:『チェルノブイリ惨事から20年—ベラルーシ共和国における影響とその克服—政府報告書』V.E. Shevchuk, V.L. Gurachevsky (eds), 20 Years after the Chernobyl Catastrophe: the consequences in the Republic of Belarus and their Overcoming, National Report, Committee on the Consequences of the Catastrophe at the Chernobyl NPP under the Belarusian Council of Ministers, 2006.
http://www.iaea.org/inis/collection/NCLCollectionStore/_Public/37/055/37055000.pdf [1]