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12-2:補遺(2)

補遺の最後の2人からの提言は対照的です。バーテル博士の提言は3.11以後の私たちにぴったり当てはまる提言です。最後のコーエン博士の手紙は原子力推進専門家集団がICRP, UNSCEARだということなど、1970年代から変わっていないことを悟らせてくれます。

補遺3:ロザリー・バーテル博士提出の提言書

 電離放射線が線量と線量率および被ばくした人の感受性によって、生物学的影響が異なることを、私たちは今まで認めることを怠ってきたこと、この間違いが、環境中の放射線公害の長期的影響をあまりに過小評価してきた原因であることに対して、私は以下を提案します。

核分裂炉の建物の即時モラトリアム(原文はすべて大文字で強調)。

増殖炉の研究に当てられているお金を、もっと実行可能なエネルギー技術の研究に再分配する。

現在の原子炉を漸次、各地域生産の人間の命にやさしい再生可能エネルギーに代えること。

原子力/核技術の輸出を拒否すること、外国のために核燃料の再処理を行って、アメリカ合衆国の環境を更に汚染することを拒否すること。

原子力産業によって既に生み出された放射性廃棄物貯蔵の長期的問題に即刻対応すること。

現在の放射線許容線量限度値を少なくとも10倍下げること、現在の甲状腺への被ばく許容レベルを少なくとも30倍下げること。

 現在の健康に関するデータ収集方法は放射線従事者と一般公衆を環境公害による長期慢性疾患や致死的影響から守るには不十分なので、以下を提案する。

被雇用者の健康記録は最低40年間保存すること、職場変更の場合は被雇用者とともに健康記録を移動すること。

被雇用者の健康記録は非消耗性慢性疾患(発病の期日と共に)と、その子どもの医療記録も含むこと。

作業員の補償法は、被ばくから4〜40年後までに発症した長期慢性疾患(白血病、その他のがん)、および職業被ばくが原因によるその子どもの疾患と怪我を補償するように法改正すること。これは、病気が「労働関連」の可能性に応じた一部支払い基準(a partial payment basis)で可能な筈です。

一般公衆の医療X線および歯科X線被ばくのすべての累積記録を義務化すること。

医療・診療X線被ばくを50%下げる国家的努力をすること。X線義務化政策と、集団X線スクリーニング・プログラムを廃止すること。医療過誤訴訟のためにX線に対するプレッシャーを削減すること。X線が必要な明確な理由と、患者へのインフォームド・コンセントを必要とさせること。

職業疾患の全国データバンクを設立すること。

環境疾患の全国データバンクを設立すること。

立法者[国会議員]が科学的アドバイスを求める際の、利益相反を認識すること。たとえば、問題が放射線の場合、公衆衛生問題について、ユニオンカーバイド・オークリッジ核研究所からアドバイスを求めるのは不適切。

 原子力産業と政府機関が原子力産業を促進するための宣伝テクニック使用は科学的問題を混乱させてきて、公衆をミスリードして(誤解させ、欺いて)きたので、以下を提案する。

原子力産業は「クリーン、安全、効率的なエネルギー源」と主張することを控えること。

政府機関と原子力産業による広報は科学的事実に従うこと、たとえば、あらゆるレベルの電離放射線被ばくは人間に害があるというのは世界的に認められているにもかかわらず、原子力発電所から敷地外に異常に放射性物質を放出することは周辺の人には危険を及ぼさないと報道されること。

 上記のすべての問題が、人類の発展よりも経済的利益を、健康や安全よりも富と権力を求める私たちの基本的な姿勢から来ているようなので、以下のことを提案する。

意味ある仕事と、仕事への満足度と、人間を機械にとって代えるようにという高まる圧力のバランスを取り戻す試みをすること。複雑なテクノロジーが要求するスキルを高め、製品に使われる高度の毒性のために従業員数を制限すること。

思考によって生活水準を改良することができる人間独特の能力を探る研究と、気違いじみた(エネルギー消費)ライフ・スタイルを鎮める研究を推進すること。

ピーク時のエネルギー消費を下げ、創造的な[エネルギー]保全方法を探ること。

便益の多くが技術的経済的なもので、コストが人間のストレスと健康/安全の場合は、コスト・ベネフィットで問題解決をしないこと。

人間を技術的進歩のために犠牲にできる消耗可能な生物資源とみなす最近の傾向に反対すること。

市民団体と原子力産業協会(Atomic Industrial Forum)の間の力の差を縮めるために、助成金のない市民団体が立法者[国会議員]に会う機会を与え、ロビー活動を援助すること。

補遺4:バーナード・コーエン博士から提出された文書(手紙形式)

リチャード・オッティンガー議員[宛]

拝啓

 5月4日の会議に出席できず、まことに申し訳ありません。ウィルスにやられて高熱で倒れてしまいました。実は今でも快復していません。私からのメッセージが届けられ、私の欠席によってご迷惑をおかけしなかったことを願っています。

 出席できなかったために、ここに文書でお伝えしたいことが1点あります。会議全体に関して最も重要なことです。それは、あなたが選んだ「エキスパート」グループのほとんどがエキスパートではないということです。つまり、あなたが権威ある情報を求めていたなら、ふさわしくないグループです。

 幸いにも放射線の生物学的影響を研究する一流のグループがいます―ICRP, NCRP(アメリカ放射線防護委員会), 国連委員会[UNSCEARアンスケアのことだろう]、国立科学アカデミー委員会(the National Academy of Sciences Committee), 英国医学研究審議会(British Medical Research Council)などです。真のエキスパートはこれらの委員会メンバーです。これらの委員会すべてがこの問題について同意しています。あなたの見地からは、彼らの間の違いはほとんどありません。

 しかし、5月4日の会議のあなたの「エキスパート」グループはこれらのグループの代表ではありませんでした。NCRPは約70人メンバーがいます。過去のメンバーも含めると、150人のグループになり、彼らこそが真のエキスパートです。ところが、あなたのパネル・メンバーのわずか4分の1ほどしか、この150人の仲間ではないのです。低線量放射線の影響は主に動物実験から計算されていますが、あなたのパネルの一人として、このような動物研究をしたことがありません。

 したがって、この会議から得られたどの情報も[信憑性が]酷く疑われると信じます。あなたが本当に情報を得たいなら、本当の専門家を呼ぶべきです。

敬具

1976年5月10日       
バーナード・コーエン  

訳者解説

 コーエン博士の手紙は二重三重の意味で、興味深い。どんな人物か、「保健物理学会」のホームページ掲載の追悼記事を紹介する。

 Bernard L. Cohen(1924〜2012)がこの手紙を書いたのは52歳の時というので、「天命を知る」年齢の人がこんな内容を書き、後世に残したことに驚く。1976年当時、ピッツバーグ大学のスカイフ核物理学研究所(Scaife Nuclear Physics Laboratory)の所長をしていた。「1970年代初頭に彼は放射線廃棄物のリスク基準を提案した。放射線廃棄物をどの程度の水で薄めれば飲料水としての基準になるか? これが一般人の放射性廃棄物理解を助けた」という。

 この追悼記事によると、ピッツバーグ大学にはスターングラス博士のような反原発派の学者から、「並外れた原発擁護者のバーニー(バーナードの愛称)・コーエンまでいて、バーニー・コーエンとアーネスト・スターングラスが一緒に登場すると、『アーニーとバーニー』ショーが忘れられないものになった」そうだ。スターングラス博士は「保健物理学科」の理事会によって唯一不信任決議された2人のうちの1人だと、わざわざコーエン氏の追悼記事に書いているので、「保健物理学会」の立ち位置が明確にされていてわかりやすい。

 1980年代にコーエン氏は低線量被ばくはむしろ体によいという論を発表したが、彼の論はアメリカ科学アカデミーもNCRPもICRPも受け入れなかったとも書かれている。「バーニーは紳士だった、相手への敬意をもって議論した」と結ばれているが、この手紙の内容と表現方法が「保健物理学会」の「紳士」の基準というのは興味深い。

 この手紙の貴重な点は、2011年以降私たちが知ったICRP, UNSCEARなどの組織が1970年代から同じ体質で、原子力推進の仲間内で団結している組織だと教えてくれた点である。1980年代以降、原子力産業界がコーエン氏に数々の賞を授与していること、それを誇らしげに「保健物理学会」が記述していることなども貴重な情報である。

出典:Don Strom, “In Memoriam: Bernard L. Cohen”, 13 August 2014
http://hps.org/aboutthesociety/people/inmemoriam/BernardLCohen.html [1]

訳者コメント:

 この記事をもって「1976年アメリカ議会セミナー」の翻訳を完了いたしました。本サイトの最初に議事録オリジナルのpdfをお知らせしましたが、インターネット・アーカイブ掲載の議事録の方が鮮明なので、以下のURLからアクセスし、画面上をスクロールしながら読んでみてください。
https://archive.org/details/profcon00unit [2]

 素人市民が必死で調べ、訳してきた2年間でしたが、放射線被ばくの問題点が少しはわかってきたように思います。何よりも1970年代に、このようなセミナーが議会主導で開かれ、真摯な議論が繰り広げられていたこと、しかも、通常運転の原発の危険性を心配する人道的専門家たちを国会議員が集めてセミナーを開催したことを知って、過酷事故後に増々命軽視になっている政治家・官僚・専門家たちが跋扈する日本と比べて羨ましい限りです。