- ただちに危険はありません - https://noimmediatedanger.net -

6-10 市民との質疑応答(3)

市民からの質問は鋭く、放射性廃棄物の輸送中のモニタリングはしているのか、責任者は誰かを追及し、その結果、輸送中のモニタリングがされていないこと、責任の所在が不明なことがわかります。また、このセミナーのパネリスト[オークリッジ国立研究所生体医学環境部副部長]が伝える内容は、事実をねじまげていると証拠を示して批判しています。


モーガン:他に質問はありますか。

アレン(女性):ジュディ・アレンと申します。ヴァージニア州から来ました。私が特に心配していることは、州と連邦政府の責任転嫁についてです。これは[放射能]防護について、幻想があるということかもしれません。

 マットソン博士に伺いたいのですが、核燃料サイクルに与えられているとおっしゃっているトータルなケアについてです。シャーロッツヴィル議会の人が放射性廃棄物の輸送について問い合わせをしたいと思って、ヴァージニア州に連絡したところ、放射性廃棄物輸送車は原子力規制委員会と運輸省がモニターしていると言われました。

 それで私たちは規制委員会に連絡しました。すると規制委員会の責任は事業者の施設の境界線までで、輸送には責任を持っておらず、したがってモニターもしていないと言われました。実は、運輸省では「9m落下容器」(30-foot drop container, 訳注1 [1])の基準を定めているが、モニタリングはしていないと言われました。

 規制委員会と運輸省がモニターしていないのに、州政府ではしていると思っているようですから、[放射性廃棄物の]輸送中に、私たち市民がどんな防護を与えられているのか教えていただけますか。

マットソン:運輸省が言ったことは正しいです。運輸省は[放射性廃棄物]の輸送車の認可をし、その認可基準は運輸省の規則にあります。

 原子力規制委員会も正しいことを言いました。放射性廃棄物がいったん原子力施設を出たら、われわれの管轄外になります。だからといって、その間、誰も監視しないというわけではありません。事業所の認可に関する限り、申請者は規制委員会に「放射性廃棄物は毎年生じるので、〜が事業者として放射性廃棄物の取扱方法で、以下の鉄道、高速道路を使って輸送し、以下の再処理工場で受け取られます」等と報告しなければなりません。この認可申請者の報告書は原子力規制委員会で、安全性と環境の点から審査されます。

 規制委員会による、輸送のモニタリングは輸送物が事業所を出る時に行われ、それは多分事業所の所有者や運転者[例:電力会社]の認可条件のもとで行われるのだと思いますが、輸送物が規制委員会が認可した別の事業所に受け取られた時にまたモニタリングされます。これが通常行われることです。

カルディコット:お尋ねしたいのですが、超ウランの作業員の検死解剖シリーズが3回あったと思うのですが、最初の30人は報告されています。他の人たちの検死結果は報告されていますか。もし報告されていないなら、この情報をどうやったら入手できるでしょうか。今日の議論に関係していると思うので、お尋ねします。

バー:私たちの所[ERDA エネルギー研究開発局]の病理学者、マークス(Marks)博士によると、50人分は報告されているそうです。他の人たちについて知りたいなら、もちろん、報告されると思います。ご希望なら、休憩時間にマークス博士があなたに説明すると思います。

モーガン:フロアーからもう一人だけ質問を受け付けます。

ミ ハード(男性):ウィリアム・ミ ハード(William Mi Herd)と言います。公益科学センター(Center for Science in the Public Interest)所属です。

 午後の部で、ホット・パーティクル論争についてもっと議論されるのかわかりませんが、もしされないとしたら、リッチモンド博士[オークリッジ国立研究所生体医学環境部副部長]のコメントがこの論争の記録として残されるのは非常に残念です。

 特に、天然資源保護協議会(NRDC, Natural Resources Defense Council)の立ち位置についての生物物理学会(Biophysical Society)のコメントに関する博士の評価のことです。原子力委員会(AEC)とエネルギー研究開発局(ERDA)は生物物理学会が、基準は変更するべきでないという自分たちの立場に賛成していると誤った評価をしています。実際のところは、生物物理学会の6人の審査員のうち、たった1人がそう言っただけで、4人は基準を下げるべきだという証拠があると賛成しているのです。そのうちの2人は実際に基準は下げるべきだと言ったのです。他の2人は基準を下げるべきだとして、別の計算法で推定値を出し、天然資源保護協議会の10倍下げるべきだという要求は大袈裟かもしれないという点だけに賛成したのです。しかし、1人の計算方法では、基準を10倍下げることを示唆しているのです。

 ところが、今朝の議論は、ホット・パーティクル論争を非常に間違って評価していると思います。ここには論争の当事者であるリッチモンド博士を含めて、多くの方々がいるので、この問題がもう一度出てきたら、もっと十分な議論がされてしかるべきだと思います(訳注2) [1]

モーガン:ランチ・タイムがとっくに過ぎているので、ランチの後、課題の順番をちょっと変えたいと思います。もちろん、独立系科学コミュニティーの役割について議論し、議会の公聴会と議会が実行すべきことを視野に入れた提言をどんなものにするかも議論します。

訳注1:30-foot drop containerの意味は、30フィート(約9m)落下させても壊れない耐久性テストに合格した容器ということのようで、この衝撃はキャスク(放射性核燃料輸送容器)が時速60マイル(96km)で走行中の電車にぶつかったのと同じとされている。アメリカ原子力規制委員会は、放射性廃棄物の輸送用容器に対し、このテストを含めた各種テストの合格を条件付けている。
出典:アメリカ原子力エネルギー協会(Nuclear Energy Institute)ホームページ
http://www.nei.org/Master-Document-Folder/Backgrounders/Fact-Sheets/Experience,-Testing-Confirm-Transportation-of-Used [2]

訳注2:ミ ハード氏が言及しているのは、4—7—1「訳者解説:ホットパーティクル仮説をめぐる論争」 [3]で紹介した、リッチモンド博士の報告書「プルトニウムのホットパーティクル問題の現状」で書かれている内容と、リッチモンド博士がこの議会セミナーで述べた内容についてで、それについての異議申し立てである。

 4—7—1の1974年12月の項目にあるように、ミ ハード氏が所属する公益科学センターは、生物物理学会に依頼されて、ホットパーティクル用の放射線基準についてのレポートをまとめた。そのレポートの内容について、リッチモンド博士は、生物物理学会は「要求されている許容線量の減量は極端で、証拠がないと結論付けた」と述べた。

 ミ ハード氏は公益科学センターのレポートの背景事実を知っていたので、リッチモンド博士の評価が間違っていると、根拠をあげて指摘し、リッチモンド博士の見解がこの議会セミナーの見解として記録に残るのはおかしいと警鐘を鳴らしたわけである。

 これは大きな問題提起である。数多くある論争点を要約紹介する人物の立ち位置によって、事実が歪められることもあり得るということだ。この指摘がなければ、生物物理学会も放射線リスクを過小評価する学会だと信じてしまう。本訳者自身もリッチモンド博士のレポートを読んで、アメリカの学会でさえも原発推進のためにリスクを過小評価する専門家団体だと信じてしまった。全く同じことが現在の日本にも当てはまる。政府省庁が推薦する専門家の報告や発言が事実だと信じてしまうことは多々あるだろう。ところが、内実は、その専門家の立ち位置によって、事実が歪められていることの方が多いのかもしれない。