4-7-2 訳者解説:ホットパーティクル仮説と福島第一原発事故

事故後にICRPの日本委員連名の文書が公開され、ホットパーティクル仮説を全面否定しましたが、42年前に日本の原子力委員会が決定文書として公開している内容は、プルトニウムを吸入した場合、発がんリスクが高いというものでした。2013年には福島由来のセシウムの粒子を世界で初めて映像化した論文が『ネイチャー』のScientific Reportsに公表されましたし、2014年には名古屋で見つかったホットパーティクルも映像化されています。

訳者解説:ホットパーティクル仮説と福島第一原発事故

・2011年9月:「放射性物質による内部被ばくについて」と題する解説文が日本アイソトープ協会ホームページ上に公開されている。この文書の中で説明されているホットパーティクルは「難溶性の比放射能の高い粒子が、臓器・組織の一部のみを照射するときに出現する」粒子と説明されている。文書の後半では、「厳密な査読制度をもつ科学雑誌において、ホットパーティクル仮説が論文として発表された例はない。それは一重にこの仮説が厳密な検証に耐え得ないためである」と断定している。

 ホームページには、発信が「ICRP(国際放射線防護委員会)国内メンバー」と明記されている。そして、文書の冒頭に丹羽太貫・中村典・石榑信人・遠藤章・米倉義晴・甲斐倫明・本間俊充・酒井一夫諸氏の名前が明記されている。発表年月日が記されていないが、pdfのURLアドレスに201109とあるので、2011年9月時点の論と理解した。
日本アイソトープ協会ホームページからアクセス可。
http://www.jrias.or.jp/disaster/info.html

・ 2011年9月6日:「公開された資料で判明 報じられなかったプルトニウム『大量放出』の事実」『現代ビジネス』
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18245 
(『週間現代』2011年9月10日号より)

 2011年6月6日に原子力安全・保安院が記者会見で配布した資料に、「3号機が爆発した後の3月16日までに、どれだけの放射性物質が大気中に放出されたかの試算」があり、「プルトニウム239だけで合計32億ベクレルが大気中に放出された」という。しかし、記者会見に出席していた記者たちからは質問もなく、報道もされなかったと指摘されている。上記のICRP日本委員がことさらにホットパーティクルの危険性は証明されていないと発信したのは、プルトニウムの大量放出が前提になっているのだろうか。

・ 2013年8月:『ネイチャー』のネット・ジャーナルScientific Reportsに、世界で初めてセシウムの微粒子を発見したという画期的な論文(Kouji Adachi et al., “Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident”)が発表された。福島第一原発由来のセシウム粒子の映像化である。この発見により、その環境に長く留まっていた場合の健康への影響が正確に評価できるようになると期待される。この論文の存在について、北海道がんセンター名誉院長の西尾正道先生から、講演の中でご教示いただいた。
http://www.nature.com/srep/2013/130830/srep02554/full/srep02554.html

 日本語訳がブログ「#原子力発電_原爆の子」に掲載されている。
「2014年5月20日 論文資料 福島核事故の初期段階における球状セシウム含有粒子の放出」
http://besobernow-yuima.blogspot.jp/2014/05/nature.html

・ 2014年4月3日:「超高放射性粒子」The Hottest Particle
 事故直後に日本国内とアメリカに降ったホットパーティクルについて警告を発してきたエネルギー・コンサルタント会社フェアウィンズのアーニー・ガンダーセン氏が最重要のヴィデオ・メッセージとして、エンジニアのマルコ・カルトフェン氏の発見した福島事故由来のホットパーティクルについての調査結果を発表した。
オリジナル映像と日本語訳は以下。

http://www.fairewinds.org/hottest-particle/
日本語訳:http://ameblo.jp/mhyatt/entry-11866091534.html

 名古屋の家庭の掃除機ゴミ袋から検出されたホットパーティクルの映像で、このようなホットパーティクルが室内に浮遊している場合、外よりも屋内での被ばくが懸念されると警告している。

3.11以前は?

・2005年4月23日:対談「塵と放射能と私」の中で、元大阪府立放射線中央研究所次長・元日本アイソトープ協会理事の真室哲雄氏が、ホットパーティクルを映像に捉えた経緯を語っている。1961年9月から2ヶ月にわたってソ連がシベリヤで行った大型核爆発実験の影響が日本にもあるのではないかと思って、大気浮遊塵を吸引捕集する装置を制作し、集塵濾紙をX線フィルムに密着して現像(オートラジオグラフ)した。夜空の星のような写真が得られ「この写真は強放射性粒子の飛来を確認するものであった」という。このホットパーティクルの写真は『ネイチャー』に、顕微鏡下で単独分離されたホットパーティクルの写真は当時の『科学読売』や『中日新聞』にも掲載されたという。

  この対談は「安全安心科学アカデミー」サイトからアクセス可:
 http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/sub050725taidan_mamuro.html

 この対談記事については、南相馬市議の大山こういち氏のブログからご教示いただいた。
 http://mak55.exblog.jp/20832943/

・ 1994年:放射線医学総合研究所の小木曽洋一氏の論文「放射性粒子吸入による生体影響—プルトニウム微粒子の発癌性—」では「粒子径による線量—発癌率関係や、ラドンの場合には付着成分と非付着成分それぞれの寄与等、まだ検討されるべき課題は多いと思われる」とされている。
日本エアロゾル学会ホームページからアクセス可。
http://www.jaast.jp/nuclear/index.shtml

・ 1969年:「原子力委員会決定」(1969年11月13日)と題する文書に「原子力委員会月報14(12)プルトニウムに関するめやす線量について」が掲載されている。「プルトニウムが原子炉周辺の公衆と接触するのは、事故時に生じたエアロゾルが格納施設から漏れでて外界に放出されるとき」、「原子炉事故の場合に、最も多くの人が遭遇し、かつ、これらの人々が放射線障害を受ける危険性が最も大きいと考えられるのは、これらのエアゾロルを吸入することによってプルトニウムを体内に摂取する場合である」、「一般に粒子径が大きいものは鼻咽腔に、中位のものは気管、気管支に、更に微細なものは終末気管支および肺胞の部分にまで侵入して、そこに沈着する」、「肺臓は、その機能の重要度からしても、また放射線感受性という点からも重要視すべきであり、とくに吸入後初期には、線量率も肝臓、骨等に比べて著しく高く、また、PuO2の場合、肺胞のプルトニウムによる積算線量は肺淋巴節に次いで大きく、動物実験においても多数の肺癌が認められているので、肺臓は、めやす線量を考える場合に問題とすべき臓器の一つである」。

 42年も前に原子力委員会がこのように危険性を指摘しているのに、2011年のICRP日本委員の「危険だという証拠はない」式の文書は何を意味するのだろうか?

 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/ugoki/geppou/V14/N12/196901V14N12.html

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