6-9 市民との質疑応答(2)

市民の追及は、原発事故の際にどの程度の放射性物質が出されたのか市民は知らされないこと、放出された放射能が動植物によって濃縮され、人間の体内に入る経路が数千もあるのに放射線の規制や食品規制に考慮されないこと、フィルムバッジのデタラメさなどに及びます。


オーグスティン(男性):ボブ・オーグスティンと申します。「国家訴訟当事者」の職員リサーチャー(研究者)です。われわれは156の市民グループの連合です。今日の会議の範囲内でありながら、まだ触れられていないので、懸念している問題がいくつかあります。

 まず第一に、規制委員会の基準に関してですが、それはいわゆる「計画的放出」にだけ適用され、非計画的放出、つまり、事故とか放射能漏れとかには適用されていません。この非計画的放出で何キュリー(1キュリーは約370億ベクレル 注1)放出されたのか私たちには知らされていません。もし、それが計画的放出の数値に近いものであれば、その半分しかモニターしていないことになります。

 被認可者のモニタリング・プログラムは規制委員会のプログラムですが、これはカー・マックギー(Kerr-McGee 注2)では全くデタラメ、シッピングポート(6—3の訳者解説参照)でも全くデタラメ、これらの施設の抜き打ち検査プログラムの結果も公開されていません。この問題について、これからどうしたらいいのか、わかりません。わたしたちができることの一つは、多分、罰則を強化することです。規則を破った場合の罰則を見てみると、このような違法行為に対する抑止力としては十分じゃないと思います。

 原子力規制委員会の基準は、原子力発電所から放出された放射性物質を動物や植物が濃縮する能力を適切に考慮していません。動物や植物による濃縮に関する研究が行われていて、それが示していることは、動植物による濃縮は水中の濃縮度の数千倍から4万倍以上だということです。このことは規制委員会が基準を設定する時に考慮されませんでした。

 牛乳の経路に関する研究は少しありますが、原発から放出される放射能が人間の体内に入る経路(pathway)は実際に数千もあるのです。認可機関に保健物理学者がいないということは言語道断です。作業員防護のためのフィルム・バッジ(5—4の注を参照のこと)のプログラムも不適切で、これも言語道断です。

 あなたが作業員だとしたら、そしてヒビの入ったパイプの近くで作業していて、ガンマ放射線が流れてきて、それが胸に当たらなければ、バッジには示されませんから、がんが起きるまで分からないということです。モニタリングの適切性について、我々が知るべきことは、何がモニターされているのか、どの程度広範囲にモニターされているのか、各原発の周囲にモニターが何台設置されているのか、何をモニターしているのかです。私たちはこれら全てをチェックする必要があります。

 このモニタリング・システムを改善するには、どのぐらいのコストがかかるのでしょうか。誰がその費用を払うのでしょうか。さらに、ここに食品医薬品局(FDA)の方がいるので、伺いたいのですが、魚やその他の食品の放射能汚染が起きた時に、FDAがそれを検出することができると、私たちはどの程度自信を持てるのでしょうか(確証できる証拠を示せという婉曲的表現)。

モーガン:これらの質問全部には答えられないと思いますが、ロジャー、1分あげますから回答してください。

マットソン:簡単に全部の質問に答えます。計画的放出も非計画的放出も、すべて規制委員会に報告されます。

オーグスティン:それはモニターされていません。非計画的放出は、モニターがない所で起きます。

マットソン:もし、事故でない状況とか、運転中の異常な事象であれば、計画的放出が起きるのと同じ流出水流を通っておきます。事故などの非計画的放出に関しては、そのためのモニタリングの性能、緊急モニタリングの性能があります。

 罰金に関してですが、近年はより厳しい罰金の適用があることは歴史が示しています。原子力規制委員会ではちょっと違う形で行っているかもしれませんが、今日はそのことをお話しする準備がありません。あなたがおっしゃったことは今後考えるべきことかもしれません。

 いろいろな経路や魚による放射性核種の濃縮の問題は、わたしたちも考慮しています。計算モデルの中で考慮されています。数千の経路があるのに、私たちがそのうち2,3の経路しか扱っていないとおっしゃいました。基本的におっしゃったことは正しいのですが、私たちは2,3以上扱っていますから、あなたの批判は単純化しすぎています。

 中心的な経路を選ぶために、放射線核種が原発から出て、人間に届くまでに、実際に数千の経路があることは研究されています。エネルギー研究開発庁(ERDA)で行われている研究のいつくかは、この問題を扱い続けています。規制委員会でも経路の問題を確証する研究を続けています。

 保健物理学者の欠如については、すべての核燃料サイクルの施設、まさに規制委員会が認可した全ての核施設における保健物理学者の資格に関して、最近、規制の手引書を変えたところです。

モーガン:原子力発電所だけに該当するわけじゃないのですね。再処理工場にも適用するのですね。

マットソン:その通りです。

 フィルム・バッジが不適切だという点については、放射医学局(Bureau of Radiological Health)がここに加わりたいのではないかと思いますが、われわれ[規制委員会]はフィルム・バッジ資格テストについて市民集会を開くところです。これは実施しなければならないものでした。市民は何年もこの必要性を感じていました。いくつかのルートを試してきましたが、最も最近は6年ほど前です。現在のデータは決定版です。フィルム・バッジは思ったほどうまくいきません。今われわれが話していることは、放射線医学局と米国標準局(National Bureau of Standards)と共に活動するある種の独立系資格研究所[を設立すること]です。

 モニタリングについてあなたがおっしゃったこと、放射線核種など、すべてモニターされています。そのすべてを書いて、持ってきませんでしたから、ここでくり返すことはできませんが、あなたが読み上げた時、同じものだとわかりました。原発の排水モニタリングと環境モニタリングに関するガイドラインの決定版があります。燃料処理工場に関する同じようなガイドラインは目下作成中です。この国では現在のところ、民間の再処理工場で稼働中のものはありません。しかし、このような施設およびその他の燃料サイクル施設のモニタリング・データと報告データの収集に関して、最近われわれの規制を変更したところです。これがあなたが指摘なさったことかどうかわかりませんが。

注1:日本の場合、福島第一原発事故による汚染レベルが次々と塗り替えられ、最新のニュースによると、地上タンクからの漏えい汚染水にストロンチウム90などベータ線を出す放射性物質濃度が1リットルあたり4億1千万ベクレルだったという。しかも、これは1年前の発表の2倍以上の数値で、東京電力が過小評価していたという。
出典:「汚染水濃度は4億1千万ベクレル 東電、タンク漏えいで修正」『産経ニュース』2014年6月22日
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/140620/dst14062022400009-n1.htm

 一方、貯蔵タンクの汚染水にはトリチウムが817兆ベクレルあり、原発1基当たりの年間放出量の国の基準(3.7兆ベクレル)の200倍になるという報道もあった。
出典:「福島原発:トリチウム800兆ベクレル 貯蔵タンク汚染水」『毎日新聞』2014年1月15日
http://mainichi.jp/feature/20110311/news/20140116k0000m040085000c.html

注2:カー・マックギー(Kerr-McGee)は1965年から1975年まで、オクラホマ州シマロン(Cimarron)でウラン燃料製造を行っていた会社。1976年から廃炉作業が始まったが、地下水の汚染が酷く、汚染問題はいまだに解決されていない。
出典:アメリカ原子力規制委員会:
http://www.nrc.gov/info-finder/decommissioning/complex/kerr-mcgee-cimarron-corporation-former-fuel-fabrication-facility.html

 2014年4月5日付け『ワシントンポスト』が「カー・マックギーが汚染した地域の恐ろしい地図」という題名の記事を報道して、その中で以下のように述べている。「ほとんどのアメリカ人はカー・マックギーという名前を聞いたことがないだろうが、映画『シルクウッド』は知っているのではないだろうか。この会社の職員、カレン・シルクウッドの事件で、彼女はこの会社のウラン再処理工場で働いている間、致死量の放射線に被ばくしたとされている」。
出典:Juliet Eilperin, “A frightening map of where Kerr-McGee polluted”, The Washington Post, April 5, 2014,
http://www.washingtonpost.com/blogs/the-fix/wp/2014/04/05/where-did-kerr-mcgee-pollute-almost-every-state-in-the-lower-48/

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