5-3 現行の原発作業員に対する線量限度が高すぎる

過去のものとなった「ラジウム・ダイヤル・ペインター」(時計の針にラジウムで蛍光塗装する労働者)の年間線量と、現在の原発作業員の線量限度が同じだという指摘に対し、高線量でも被害は出ていないという応酬があります。


バーテル:これまでの議論で、いくつかのことが明らかになりました。たとえば、時計の針をラジウムで塗装する人たちのような、過去の問題はもう存在しないということ。放射医学局(Bureau of Radiological Health)が発行している冊子には、ラジウム塗装の人たちが受けた被ばく量は年12.1ラド(121mSv)、外部被ばくで全身線量だと推定されています(章末文献2)。

 これは悲惨な状況でしたが、原子力産業の作業員用の現在の規制を見れば、一般的には5ラド(50mSv)以下ですが、今でも年に12ラドまでいいという例外を設けています。正当化できる状況下では許されているのです。指摘しておきたいのですが、この12ラドが原子力産業の作業員にある状況下では許されているということは、過去のラジウム塗装の人たちの悲劇的な被曝量と全く同じだということです。

訳者解説:

日本の放射線業務従事者の線量限度

 3.11前は、1年間50mSv, 5年間で100mSvと法律で定められていた。2011年3月14日に250mSvに引き上げられ(注1)、2011年12月16日にこの特例が廃止されたが、「緊急作業に欠くことのできない高度な知識及び経験を有するもので、後任者を容易に得ることができないもの」には、特例が2012年4月30日まで「効力を有する」とされた(注2)

注1:官報(号外特第12号)平成23年3月15日
出典:http://kanpoo.jp/page.cgi/20110315/t00012/0001.pdf?q=
平成二十三年東北地方太平洋沖地震に起因して生じた事態に対応するための電離放射線障害防止規則の特例に関する省令(厚生労働二三)

注2:厚生労働省ホームページ「東電福島第一原発緊急作業員の被ばく限度250ミリシーベルトの特定を廃止しました」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001yeem.html

エレット:ラドとレムの違いを整理していただけないでしょうか。ラジウム塗装の労働者たちは12レム受けていたのか、12ラドなのか。

モーガン:ラジウム塗装労働者の被ばく推定量が何ラドかレムかわかりませんが、年12レム(120mSv)近辺だったと思います。

バーテル:そうです。ガンマ線の外部被ばくの場合、ラドもレムも基本的に同じです。原子力産業の外部被ばくが12ラドまで許されていて、それがラジウム塗装労働者が受けていた12レムに相当するのです。

エレット:ラジウム労働者のアルファ線内部被ばくですか?

バーテル:レムの点では、同じ12レムです。

エレット:ラジウム労働者の線量はレムで表すと思ってました。彼らの被ばくは最初から大きく変わらず、12ラドのラジウム、アルファ線は、120レムです。12レムではありません。

モーガン:BEIRレポートについてジャブロンさんがコメントしてましたね。

ジャブロン:ラジウム塗装労働者の実効線量がどのぐらいだったかについて問題があるようですが、BEIRレポートではローランド(Rowland)の研究を引用しています。「平均骨線量の蓄積総量が500ラド以下では肉腫やがん腫は見られない」と言っています。注意しておきますが、アルファ線の放射体の場合、500ラドというのは5000レムに相当します。

バーテル:議事録のために、明確にしておきたいのですが、ラジウム塗装労働者に関する議論で、私が最初に申し上げたのは、年間の被ばく量で、私は原発作業員の年間被ばく量と比べたのです。

スターングラス:捕捉したいのですが、原発から放出される1ミリレム(10マイクロシーベルト)のほんのわずかが公衆に許容される線量だと広く信じられています。ここにニューヨーク州保健省のレポートがあります。「ニューヨーク州の核施設の放射線の環境への影響」というレポートですが、インディアン・ポイント原発の1号機はハロゲン核種と微粒子だけで、1972年の年間線量は敷地境界線で62ミリレム(620マイクロシーベルト)だったんです。他の原発でも、10〜50ミリレムのレベルの所がたくさんあります。ハロゲン核種のせいです。

 ですから、原発から50マイルから60マイル(80〜96km)離れているし、放出量はわずか1ミリレム(10μSv)のほんの1部なのだから、安全だと信じてはいけません。

訳者解説:

ラジウム・ダイヤル・ペインター(Radium Dial Painter)

 時計の針にラジウムを塗ると暗闇で光ることから、蛍光塗料としての利用価値が認められ、アメリカに1917年に入ってきた。時計の針を光らせる目的でラジウムを塗る作業を若い女性達が担うことになって「ラジウム・ダイヤル(針)・ペインター(塗る人)」と呼ばれる。筆先に少量のラジウムをつけ、舌で湿らせて塗ったために、1920年代にはこの女性たちが若くして死んでいくこと、様々な病気、特に顎の変形を伴うがんが多かったという。医師の中には、ラジウムと女性達の病気とを関連付ける者もいたが、統計的にはっきりした人数はわかっていない。記録されているのは、200〜300人だが、「ラジウム・ダイヤル・ペインター」は相当数いたと考えられるので、ラジウムによる死者数は相当にのぼっていたと推測されている。

 この作業をしていたのが若い女性だったため、「ラジウム・ガールズ」とも呼ばれる。Radium Dial Painterでネット検索すると、写真と共に症例などのサイトが多数ある。

上記の情報は『アメリカ疫学ジャーナル』に掲載された書評「死の輝き:ラジウム・ダイヤル労働者の悲劇」による。

出典:Warren Winkelstein, Jr. (2002) “Deadly Glow: The Radium Dial Worker Tragedy by Ross Mullner”, Am. J. Epidemiol. 155 (3): 290-291.
http://aje.oxfordjournals.org/content/155/3/290.2.full

訳者解説:

インディアン・ポイント原子力発電所

 ニューヨーク州にあり、3基のうち1号機はスターングラス博士が問題を指摘した時点ではすでに運転停止(1974年)になっていた。緊急冷却システムの不備によるとされたが、使用済み燃料プールから地下水への汚染(ストロンチウム90とトリチウム)が発見された。

出典:米国原子力規制委員会:「インディアン・ポイント1号機」
http://www.nrc.gov/info-finder/decommissioning/power-reactor/indian-point-unit-1.html

 残りの2号機3号機の廃炉を求める市民運動が2012年に激しくなったのは、福島原子力発電所事故の影響と、人口2,000万人を抱えるニューヨーク市から80kmに位置するため、避難は無理とされていることが大きい。

出典:「2000万人避難場所どこに 立地場所NY市から50キロ」『東京新聞』2012年6月14日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/nuchamon/list/CK2012061402000187.html

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