課題7:放射線の健康被害
どの分野のデータ収集と研究が必要とされ、資金援助が必要か?
モーガン:皮肉なことですが、私たちは他のどの環境要因よりも、電離放射線の害についてよく知っていると思います。しかし、知れば知るほど、もっと知るべきことが出てきます。低線量被ばくによる遺伝的リスクは20年前考えられていたより少ないのかもしれませんが、肉体上のリスクや特に放射線によって起こるあるゆるタイプのがんは、昔考えていたより桁違いに大きいのです。
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必要な研究・データ
- プルトニウムと超ウラン元素による低線量被ばくに関する研究
- 大規模な動物と人間の慢性被ばくのデータ
- 骨・肺・肝臓へのマイクロドシメトリー(微量線量測定)、数十年に渡る影響の研究
- これらの元素の環境における挙動に関する情報
- 人間のエコシステム(生態系)における[放射性物質の]移動に関する情報
- 特に、同時に起こる人間への損傷から発がんすることについての情報
- たとえば、糖尿病、呼吸器疾患、喫煙、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素、食品添加物、薬物、放射線など
スターングラス:議長のご提案に100%賛同します。おっしゃった分野がまさに今、注意を要するものです。特にあげられたものの相乗効果について知り始めたので、極めて重要です。
たとえば、ウラン鉱作業員の場合、もしラドン・ガスを吸い込んだ鉱夫でタバコを吸わない人は喫煙者より10から20倍がんの発生率が少ないことがわかっています。ですから、あらゆる種類の放射線低線量による影響の研究を奨励する方法を見つけなければなりません。
プルトニウムが、喫煙の健康被害の重要な要素だという可能性に関して、サンダース博士やJ.B. リトル博士がハーバード大学で現在行っているような動物実験だけでなく、世界中で[核実験の]放射性降下物に被ばくした多くの人の長期被ばくの研究もする必要があります。この集団を現在可能な高度な統計学技術で検証する必要があります。なぜなら、このレベルの低線量に被ばくした集団は他にいないからです。医療被ばくの線量では、同じような証拠になりません。
ですから、世界の異なる地域で、放射性降下物を異なる時空間で異なる線量の被ばくをした人びとを調べる研究に資金を出して、研究を始めなければなりません。また、30年以上稼働している原子力発電所近くに住んでいる人びとについても同じような調査をする必要があります。ある場合には、残念ながら、非常に心配な発見になるでしょうが、それも受け止めなければなりません。事実に向き合う覚悟で放射性降下物の研究をしなければ、将来、遺伝的影響や人体への被害を膨大に増やすタイプのエネルギー[=原子力]に社会を向かわせることになるのです。
モーガン:マットソン博士、何かコメントがありますか。
マットソン:前にも申し上げたと思いますが、エネルギー研究開発局(ERDA)の放射線影響に関する研究プログラムについてよく知っています。このプログラムは3千万から5千万ドル、年によって変動しますが、もう何年もだいたいこの額です。1976年度は4千500万ドルだと思います。これが放射線被害に関する研究分野のすべてです。
これらの研究プログラムはあなたがおっしゃったことを目指していると思います。研究の重要分野について、提案なさった広範囲のカテゴリーは全体的に同意できると思います。NRC(原子力規制庁)に関する限り、現時点では健康被害自体の研究はしていません。つまり、人間が放射線被ばくを受けた時に、その結果として何が起こるかを判断する直接的な研究はないということです。でも、もっと広いコンテキストでは、環境や人間の体の中で放射線核種がどう動くのかという研究は、かなりなされています。また、これらについて、計算方法や分析方法を発展させる努力はしています。たとえば、汚染水流出をコントロールする技術や、作業員を防護するコントロール技術など、施設内の放射線核種をコントロールすることです。
われわれはモニタリングの技術に関する研究も少しですが、がんばっています。というのは、近年われわれがとった規制措置がモニタリングに関する現在の技術に少し圧力をかけたというか、押し進めたからです。我々が要求している低レベルを本当にモニターできるか証明する確証的研究をする必要性に迫られたのです。
その上で申し上げますが、連邦政府の研究プログラムというのは、だいたいにおいて、正しい方向性にあり、この問題であなたがあげられた点に対する答えを出すと思います。
シーレイン:この場をお借りしてお知らせしたいのですが、放射線医学局医務局(訳者注:発言ではBureauとしか言っていないが、シーレイン博士の所属部署Office of Medical Affairs of the Bureau of Radiological Healthを指すと思われる)と環境保護庁(EPA)が現在携わっている生体効果/影響に関するプロジェクトがあります。
全般的に今の議論に関係していると思います。1つは人間の女の胎児、つまり、妊婦の放射線被ばくのF-2[二代目]効果です。2つ目は、低線量X線に伴う甲状腺の腫瘍形成のリスクを測定する研究です。コロラド州立大学研究はビーグル犬を使った長期間の研究ですが、ビーグルの発育の各段階で放射線を与え、その影響を調べる研究です。
良性疾患でどの程度の医療用放射線を使用するかの評価について、国立科学アカデミーと契約を結んでいます。放射線医学局医務局としても、独自に、外部被ばくとヨウ素131の相関的発がん性に関する研究を実施中です。
バーネット(放射医学局医学応用訓練部副部長):
医療放射線の分野で私たちが必要とする情報に関してですが、その効き目と、超音波のようなX線に代わる可能性のあるものについて、もっと知りたいと思います。また、伝統的なX線検査に関しても、一定の臨床状況におけるX線の効能についての情報も知りたいです。そうすれば、医者たちにX線検査をすべきか否かについて、もっと具体的な助言ができると思います。
バーテル:適切なモニタリングのシステムという点で、人間をモニタリングする適切なシステムについて話し合うことが必要です。放射線問題に関して意見が大きく異なる原因の一つが、環境公害について必要な情報という点で、人口動態統計が十分かどうかです。人口動態統計を再設計するつもりがなければ、この[意見の違いが生じたままの]状況は、続きます。再設計すれば、私たちが必要とする情報が得られるのです。これは特殊な問題ではなく、私たちが方法を知っていて、やろうと思えばできることなのです。
職業被ばくした人たちの情報を提供する国全体のデータバンクがない限り、私たちのモニタリングは不十分です。GE、ウエスティングハウス、そして政府機関が縦割りのうちは、つまり、[原発]作業員の情報収集の方法が統一され、作業員の子どもたちの情報も全国統一方法で収集され、情報処理も統一化されて、人口動態統計に関する質問も更新されない限り、モニタリングは不十分なのです。
ボンド(ブルックへイヴン国立研究所生命科学副部長):
私は自分の価値観抜きにコメントしたいと思います。いかなる環境要因のモニタリングは、どの時代でも、資金とマンパワーというリソースを必要とします。必要性とリソースにみあった程度のモニタリングに誰も反対する人はいませんが、環境には多くの有毒なものが存在します。これらをモニターするには資金とリソースが必要です。モニタリングの程度という全体的問題で、このリスク・バランス等式は指摘されなければなりません。この点で、放射線だけ切り離して考えるわけにはいきません。
バーテル:あらゆる環境問題に注目するというのは大賛成です。資金が必要なら、増殖炉に関する無駄な研究に使われている資金を使ってはどうでしょうか。
(フロアーから拍手)