6-8 市民との質疑応答(1)

市民が次々と核心をついた質問を浴びせ、政府機関の専門家たちが必死に弁明する様子が伝わってきます。放射能の影響について、なぜ専門家もメディアも黙っているのか、調査をしてほしい、放射線基準をなぜ既成事実として認める必要があるのか、放射線が危険だとわかっているなら原発なしに生きる決断をすべきではないか、原子力規制機関は放射線リスクを過小評価している等々です。


モーガン:聴衆のみなさんに、コメントや質問を受け付けるとお約束しているので、質疑応答に入りましょう。

ブラックマン(女性):セルマ・ブラックマンと申します。アメリカの60ほどの平和団体のコーディネーター(調整役)をやっています。これらの団体の連合名は「国際平和協力連合」(Coalition for International Cooperation and Peace)です。

 昨年来、私たちは平和投票というのを呼びかけて、2つの提案をし、それを主要候補者全員に送りました。その一人がアメリカは海洋汚染と環境汚染を防止する厳しい法律を制定すべきだと言いました。もう一人は、原子力でないエネルギー、たとえばソーラーとか地熱エネルギーの開発に公的資金を大量に投入すべきだ、そしてできる限り外国とも協力して行うべきだと言いました。

 今朝、ここであがっている問題は、州政府が連邦政府に比べてどの程度の権限を持つべきかということですね。バーモント州の別の連合のコーディネーターとして申し上げますが、バーモント州はアメリカの中で初めて、新たな原子力発電所の設置場所の許可や制限を与えた連邦政府に対し拒否権を保有すると連邦政府に対して言った州なのです。私は何年も夏はあそこで過ごしてきましたから、バーモントをよく知っています。ヤンキー・バーモント原発は数えきれない事故(注1)を起こしています。

 今日ここで行われている上から目線の話、そこに座っている何人かの男の方達が言っていることを私たちは認めません。でも、あなた方や私たちが認めなくても、起こってしまったのです。原発から放出された過剰放射能が、原発周辺に住んでいる人たちや作業員に、10年後、20年後、30年後、40年後にどんな影響をもたらすかわかりません。このことは新聞には一切出ていません。

 いいかげん、放射能の影響についての調査をするべき時だと思いますよ。まさにこれが本当の問題なのに、放射能問題が起こっても、ある時点以降は何もできないということ、その影響について今日ここで誰も触れていないじゃないですか。私たちは誰一人として全能の神じゃないっていうことを認識すべきです。

グッドマン:実は、この原発の申請が最初に提出された時、私はバーモント州知事に頼まれて、原発についてアドバイスしたんです。私の考えでは、この原発の設置場所も設置時期も、原発の種類も間違っていると知事に申し上げました。この原発の建設を進めるために、セントラル・バーモント(電力会社)が債権を売ることができるという条例を可決したのはバーモント州なのです。ですから、はっきり申し上げますが、責任は連邦政府だけにあるわけではありません。

レイトナー(男性):私はスコット・レイトナーと申します。放射線の影響について、特に、低線量放射線の線量や線量率について、ほとんどわからないというステートメントが増えているようですが、事実を知れば知るほど、因果関係の種類が増えているように思います。

 そこで質問なのですが、モーガン博士が非常によく指摘されていたと思います。問題は、線源が何であれ、最低限の放射線被ばくは認めるべきだということのようです。人間が作った放射線の影響という点から考えると、なぜ私たちはいつも原子力発電所を与えられた/決められたものとみなすのでしょうか。放射能の危険性を認めるのであれば、私たちが原発なしに生きる決断をするとは、なぜ考えられないのでしょう。原子力規制委員会や関連機関はなぜいつも原発や放射能が決められたものとして受け入れているのですか。医療分野でも、電力分野でも。そして、なぜ、いつも費用便益比(cost-benefit-ratio)のバランスをとろうとするのですか。

モーガン:この問題は、マットソン博士がもう答えた、または、公開されている文献でたびたび回答していると感じているのではないかと推察しますが、マットソン博士、何かコメントありますか。

マットソン:原子力規制委員会にそんな思い上がり(assumption)があるという意見に挑戦したいと思います。NRCは独立した規制機関で、特殊核物質や、核原料、その副産物の使用を認可する権限を与えられています。もし原子力産業が存在しなければ、我々は何も認可しません。もし市民が施設を提案し、それが安全であれば、我々は認可します。

サルツマン(女性):ローナ・サルツマンと申します。私は「地球の友」(Friends of the Earth 注2)の中部大西洋岸州(米国東部)代表です。2点質問があります。

 最初の質問は、放射線基準を設定する過程で、作業員は市民の一部ではないという仮定(assumption)がなぜ作り上げられたのでしょうか。作業員用の放射線被ばくの基準は公衆の被ばく基準とは違いますよね。

 作業員は非作業員との間に子どもを作ると思います。そうなれば、この人たちに対する放射線による遺伝のリスクは、やがては人口全体に影響してきます。連邦政府の基準はこの点で矛盾しているようですから、説明を求めます。

 2番目の質問は、あなた方が言うようにリスクが最小だというなら、環境保護局(EPA)の新しい基準では、なぜ作業員の許容量が公衆の許容量よりずっと高くなっているのですか。

モーガン:リッチモンド博士、回答なさいますか。

リッチモンド:なぜ議長が私にこの質問をふったのか、わけがわかりません。

サルツマン:私が間違っているのかもしれません。私はあなたが作業員のリスクを軽視していると思ったんです。

エレット:環境保護局に関する質問にお答えしたいと思います。

リッチモンド:やっぱり、私が答えます。

モーガン:簡単に答えてもらえますか。

リッチモンド:ええ、非常に簡単に答えます。特に最初の質問に関してですが、規制と基準には、作業員と一般公衆の間に差をつけるという、意図的に組み込まれた違いがあります。なぜなら、他のどんな活動でもそうですが、職業にはそれぞれ関係するリスクは多少あります。これはよく知られている事実です。

 生物学的原則があるわけです。ただのランチなんてものはありません。みなさんがすること全てにリスクが伴います。おっしゃっている仮定(assumption)というのは、職業に伴う放射線量は、一般市民が予想するものより相対的に高いということです。また、一般市民に対する基準を年齢その他の違いに応じて10倍下げることの統計学的議論もあります。なぜなら、職業にしている人は、一般的に健康状態がよく、健康診断も与えられるからです。ですから、明らかに理由が存在するのです。

 私が放射線リスクを過小評価していると思われたのではないことを願っています。

サルツマン:過小評価していると思いました。

リッチモンド:私たちは非常に運がいいというのが私の感じ方です。実際に、今世紀初めには、時計の針をラジウムで塗装した若い女性たちのようなケースがあったことを私たちは知っています。この悪影響は1920年代中葉には報告されました。プルトニウムとアクチノイドが発見される何十年も前です。

 これは私の前の時代のことですが、今では放射性物質に伴う深刻な影響があることを私たちは十分に認識しています。この危険性に関する初期の認識は、記録を非常によく取るということでした。なぜなら、プルトニウムの職業被ばくに伴う病気の証拠は残っていないからです(注3:この部分は論理的でないので、原文を参照のこと)

サルツマン:核産業の労働者と非労働者の間に遺伝子流動(gene flow)があると思いますか。

リッチモンド:その質問に答える必要はないと思います。

モーガン:エレット博士、回答があるとおっしゃってましたね。

エレット:質問を言い換えてもらえますか。あなたは物事をさかさまにしていると思います。環境保護局が提案する規制についてですが、職業被ばくより低いのです。

サルツマン:再処理工場用では違っています。75ミリレム(0.75mSv)だと思いますよ。これが再処理工場の作業員の線量ですか。

エレット:私が知っている限り、環境保護局は職業被ばくに関する規制は提案していません。再処理工場を含むウラン燃料サイクルのような核施設の付近の住民の線量限度を提案しています。この限度値は年500ミリレム(5mSv)よりずっと少ないです。今まで我々が使ってきた市民に対する限度値は年170ミリレム(1.7mSv)です。

 低い理由はこの制限値が現実的だというコスト研究をもとにしているからです。環境保護局の制限値が高いという印象を持たれたくありません。今まで提案された制限値の中で最も低いものです。指摘しておきたいのは、この制限値は提案であって、連邦政府の基準ではないということです。

(注1)バーモント・ヤンキー原子力発電所は1972年に運転開始し、認可は2032年までだったが、2013年に閉鎖が発表された。
NHK BS1スペシャル「ヤンキー原発 閉鎖〜米・バーモント州 5年の記録〜」(2014年6月1日)が詳しく報じているが、ネットで視聴可のインタビュー映像が参考になる。Democracy Now!「バーモント・ヤンキー原発が廃炉へ 老朽化する原発のゆくえ」(2013年8月28日放映):
http://democracynow.jp/video/20130828-2

 1976年に市民が指摘した事故は、運転開始の1年弱後(1973年1月)に、チューブのひびから許容量の10倍の放射性物質が漏れたり、制御棒をさかさまに入れたり、圧力容器のふたを外したまま運転したりしていた。1973年にはその他にも原因不明の放射能漏れや、トラブルが5件も報告されている。1975年には300,000リットルの汚染水が原発から川に流された。Project of the Nuclear Age Peace Foundationサイト:
http://www.nuclearfiles.org/menu/key-issues/nuclear-weapons/issues/accidents/accidents-1970’s.htm

(注2)Friends of Earth International (FoE)は1971年にフランス・スウェーデン・イギリス・アメリカの団体によって設立された国際環境NGO団体で、2008年現在で合計200万人以上の会員を擁する環境団体である。
ホームページより:http://www.foei.org/

FoE Japanは1980年に設立され、放射能問題を含めた活動を積極的にしている。
http://www.foejapan.org/

(注3)Dr Richmond: I think that early perception of the danger has been one of the things that has kept the record extremely good because there is no documented evidence of any plutonium occupationally associated disease. (p.64)

訳者解説:

アメリカ型市民に開かれた会議 vs 日本型市民に閉ざされた会議

 アメリカ議会セミナーでは傍聴者である市民からの拍手も、市民との質疑応答も自由に活発に行われている様子がわかるが、原発過酷事故が継続中の日本では傍聴者からの賛同を示す拍手に座長の長瀧氏から不快の声があったことは6—4の訳者解説で紹介した通りだ。これが「住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」という名称の「住民のため」に何がベストかを話し合う会議の筈なのに、住民排除の意識が座長に濃厚なことが判明した。

 この会議の次の会議「第9回住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(2014年8月5日開催)では、露骨な住民排除と住民監視が行われた。環境省が傍聴希望者を排除したこと、わずかに傍聴を「許可」された傍聴者の間を、職員が見回り、拍手や質問が起きないように監視した様子が映されているので、OurPlanet-TVに掲載されている会議の映像をご覧いただきたい。子どもの健康を心配する母親や市民団体などが、長瀧座長解任の要望書を会議冒頭に環境省に提出した。
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1820

印刷ページへ(別ウィンドウが開きます)