課題:低線量被ばくの健康への影響は何が知られ、予想されているか、その影響はいつ現れるか?
モーガン:私の答は、現在の医学技術では低線量被ばくの影響をすぐに発見するのは難しい。低線量被ばくの結果、被ばくした年齢、性別、線量の程度、放射線の種類、被ばくの部位等々によりますが、悪性腫瘍になるリスクが高くなると言えます。悪性腫瘍は1,2年で現れるか、50年とか80年後に現れるかもしれない。ほとんどの場合、被ばくによる悪性腫瘍と、他の原因から起こる悪性腫瘍との見分けは難しい。
放射線被ばくによって、早期老化、または寿命が短くなると信じている科学者もいます。(中略)寿命70歳の人の場合、1レム(10mSv)全身被ばくする毎に2.5日寿命が縮むと予測しています。
このことからも、低線量被ばくの影響を示すためには、この低線量放射線に長年被ばくする非常に多くの人びとの疫学調査を行わなければならないことがわかると思います。たとえば、BEIRの仮説では、1,000人が30年間にわたって年5レム(50mSv)を体全体に被ばくしたとしたら、その結果、わずか15人が被ばくの影響でがんになるという。また、平均的な寿命短縮の年数は1年をわずかに超える程度だといいます。
バーテル:BEIRの仮説の背後に隠されている結果について指摘したいと思います。(中略)寿命短縮という意味は、老化に伴う病気に、年若くしてかかりやすくなるということです。ですから、放射線影響を考える時には、糖尿病、心血管疾患、脳卒中、高血圧、自殺や白内障までも、従来老化と関係あるとされていたあらゆる病気も含めたいと思います。
ブロス:この数字[NCRPの1971年勧告]は時代遅れだと思います。現実は、研究すればするほど、影響が大きいとわかってきたのです。何年も前にアリス・スチュアート(Alice Stewart: 1906-2002)が発見した事実は、妊娠中にレントゲンを受けた母親の子どもに白血病の増加が50〜100%見られるということです。私たちがデータとして使っている「白血病3州調査」を最初に分析したところ、50%の増加がみられました。これはスチュアートらの先行研究結果を実証するに足る大きなデータですが、放射線専門家は以前同様、認めません。
ところが、1970年にロスウェル研究所の生物統計学部が、病歴から放射線に敏感だとされる子どもたちをより精密に検査した結果、このグループの子どもたちの病気には、ぜん息、じんましん、湿疹、アレルギー、肺炎、赤痢、リウマチ熱などがあることがわかりました。(中略)
このデータの今までの分析では、問題を明らかにしきれなかったと思います。ですから、この問題は再考の必要があります。放射線によって引き起こされる遺伝的損傷の蓄積に関する科学的証拠は、現行の許容線量を大幅に下げる必要性を示していると思います。
カルディコット:将来世代の遺伝的影響についてコメントしたいと思います。動物実験から推定することはできますが、人間が放射線に最も敏感だということも事実です。人為的放射線がまき散らされて50年になります。何世紀もの間、自然放射線が適者生存で生き延びた私たちをつくり出し、その中で、よい突然変異が生き延び、悪い突然変異が死に絶えたわけです。現在起きている突然変異のほとんどは有害な悪い変異で、病気を引き起こすこともわかっています。まだわかっていないのは、低線量被ばくが新しい世代をつくり出す生殖腺、精巣と卵巣にどんな影響を及ぼすかです。損傷を知ることができるのは何世代もたってからで、その時には手遅れです。
突然変異、または、遺伝子損傷、卵子と精子の損傷には2種類あって、一つは優性突然変異で、次世代に現れるものです。もう一つは劣性突然変異で、嚢胞性繊維症のように、20人に1人が持つ遺伝子で、私たちは何世代にもわたって、このような遺伝子を伝えていくのです。この病気は子ども時代に普通に見られる致死的な病気です。私たちはこのような有害な劣性突然変異を何百も抱えているのです。
放射線の長期にわたる被ばくの影響について、ほとんど知られていません。証拠を見つけるには、何百年も待たなければなりません。