9-1 現行基準値で被ばくする市民と作業員の健康被害(1)

1976年のアメリカにおける許容線量で被ばくした場合、どんな健康被害があるかを論じています。BEIR委員会(イオン化放射線の生体影響に関する諮問委員会)の年間1mSvという基準に対して、アメリカ原子力規制委員会は全人口が年5mSv被ばくする想定で計算をし、わずか5人のがん件数だと主張します。スターングラス博士の計算では、年間3,000人から15,000人のがん死亡者が出ると主張し、議論が続きます。

課題:現在の連邦政府の基準で被ばくする市民と職業被ばくする人々の健康被害

モーガン:次の課題に移った方がいいと思います。残りの課題を5時までに終わらせるためには、課題を選ぶ必要があります。課題の8はもう十分議論したと思います。連邦政府の基準で認められている許容線量で被ばくする一般市民と職業被ばくする人々が、結果的にどんな健康被害があるのか。マットソン博士、この問題について、おっしゃりたいことがありますか?

マットソン(原子力規制委員会安全基準部長)この課題を正しく理解しているとしたら、BEIR委員会(イオン化放射線の生体影響に関する諮問委員会)がすでに述べています。この課題の答えとしての数値はBEIRの分析から直接引いてくるのがいいと思います。そこでは、結論ははっきりとは述べられていませんが、BEIRのモデルを使えば、単純な計算です。

 BEIR委員会は年に0.1レム(1mSv)を基準として使っていると思います。一般市民が職業被ばく限度の線量に被ばくするという想定で行われた計算は、私は持っていません。我々は500ミリレム(5mSv 訳者による強調)で計算してみました。これは、アメリカ合衆国の人間すべてがこのレベルに被ばくしたと想定した計算です。これは本当に大きな数値です。

 この数値を使うと、がんの増加率は2.2%から10.8%になります。これはBEIRレポートの絶対リスク・モデルを使うか、相対リスク・モデルを使うかで違ってくるのです。アメリカ合衆国の全人口が様々な線源から500ミリレム(5mSv)被ばくするというのは、ちょっと、めちゃくちゃだと思います。

 特定の線源に被ばくすると想定した、もっと適切な別の計算もしてみました。この計算は軽水炉の放出量に関して、我々の規制委員会の設計目標を使ったものです。アメリカ合衆国のすべての人が軽水炉を2機備えている原子力発電所の半径62マイル(99km)の住民だと想定した計算です。このような原子力発電所は我々の規制に沿って設計され、運転されています。この62マイル(99km)の範囲内に、我々が想定したのは、現在運転中の原子力発電所で一般的な人口分布です。

 このような原発の運転の設計目標書にある、補遺1から10 CFR, 第5部を使って、30年の操業寿命の間に、5人程度の超過死があると計算しました。これが受け入れられるとしたらですが、ある[人々の]グループには受け入れられない数でしょう。多分、このグループには受け入れられると思いますが。5人の死です。1974年にアメリカでがん死亡の普通の件数が年に35万人というのと比較してですよ。

 あ、すみません。これは死亡者件数ではなく、がんの延べ数でした。結論として、我々が計算したのは、その他の原因による10,500,000人と比べて5人ということです。

 この数字を得ることが課題の目的だったのかわかりませんが、おわかりのように、これは一種の数字ゲームです。BEIR委員会の数字から始められますが、これは線形仮説(linear hypothesis)に基づき、基準の上限値を使っています。次にその基準値内で動き、人口のすべてが上限値を被ばくするわけではないと言えるわけです。ですから、人口の被ばくという点で、ある特定の数字を想定しなければならないということです。

 私が申し上げた数字にはかなり保守的な要素があります。たとえば、原発の62マイル(99km)圏内に全人口が住んでいるという想定ですが、これは事実と違います。これはアメリカの全人口の平均化で、線形仮説を使った数学的には正確な計算法です。しかし、結果は多分意味のない数字なのです。わずかな割合から、かなりの割合まで幅があるのです。

モーガン:私の算術が正しければ、あなたの言う平均線量は1000分の1レム(1ミリレム [0.01mSv])ということですか。

マットソン:我々が想定しているのは、ホールボディー線量が原子炉立地の62マイル(99km)圏内に住んでいる人口の平均です。時間を下されば、この数字を試してみます。年間15ミリレム(0.15mSv)が最高被ばく量です。平均は1ミリレム(0.01mSv)になります。この数字には依然として保守的な要素が存在します。

モーガン:私はそう思いません。

マットソン:すみません、あなたの質問は何ですか?

モーガン:暗算だけでも、あらゆるタイプの悪性腫瘍に関するBEIRのデータを使って、あなたが年間1ミリレム(0.01mSv)を想定しているとわかります。

マットソン:お言葉ですが、出て来た数字は違います。

スターングラス(ピッツバーグ大学放射線学部教授)3月10日のEPA(環境保護局)のヒヤリングの関係で、現在提案されている25ミリレム(0.25mSv)を最高値とする新基準値が採用されたら何が起こるか推計を準備しているところです。この最高値は核燃料サイクルの許容線量として妥当だと提案されているものです。

 私が行ったことは次のことです。BEIRレポートの数字を使って、30年間で5レム(50mSv)、年間167ミリレム(1.67mSv)に相当しますが、この線量を被ばくしたら、年間3,000人から15,000人のがん死亡者ということです。この条件のもとで、年間被ばく量として法的に認められる25ミリレムでは、この数字の約15%、つまりアメリカで年間449から2,245人のがん死者が出るという結果になります。30年間では、原子力発電だけで13,470人から67,365人にまで追加がん死が出ることになります。これは核実験によるフォールアウトやウラン鉱採掘や、核の産業使用などの人工放射線による全人口の被ばくを除外しての数で、25ミリレム基準というのは、これらの人工放射線を含んでいないのです。

 もう1点付け加えなければなりません。これは線形仮説に基づいた計算で、線形仮説というのは高線量率のデータに基づいたものです。膜効果(membrane effect)というのが本当に重要なら、そして、最近の動物実験が低線量率における低線量のリスクを示しているように、リスクは10倍から100倍、あるいはそれ以上に増えるかもしれません。数十万という数字にまでいくかもしれないのです。だからこそ、こんな重要な決定をする時に、低線量率効果とそのリスク数をよく検討もしないことに、私は非常に大きな懸念を持っているのです。

モーガン:シーレイン博士、何かコメントはありますか?

シーレイン(FDAアメリカ食品医薬品局放射線医学局)別にありません。ただ、我々、保健教育福祉省(Department of Health, Education and Welfare, HEW)はBEIR委員会の共同開催者でしたから、その結果を承認し、結論を使ってもいます。同時に同じ問題を評価した他のグループがいることも承知しています。NCRP(米国放射線防護委員会)などのグループの意見はBEIR委員会の結論とは全く違っています。少なくとも低い方の許容限度値についての見解は違います。これ以外、付け加えることはありません。

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