第5章:特別グループの防護
課題4: 一般市民の他、ウラン鉱の鉱夫・原発作業員・核燃料再処理工場作業員など、放射線被ばくが要注意のサブグループとは誰か?
モーガン:課題4にいきましょう。一般公衆の他に、被ばくに関して特別に注意しなければいけないのは、どのようなグループの人たちか、たとえば、ウラン鉱の鉱夫や原子力発電所や核燃料再処理工場の作業員などですが。
カルディコット:小児科医として指摘したいのですが、コミュニティーの中には、放射線に対して他の人よりずっと敏感な人たちがいますから、この人たちに直線仮説を当てはめるわけにはいきません。乳幼児は成人よりも11倍も放射線に対して感受性が強いのです。年上の子どもたちは4倍敏感です。
1歳から4歳までの子どもで、ぜん息を持っている子は放射線によって白血病を発症するリスクが3.7倍高まります。アレルギー性の病気を抱えている子や、X線で子宮内被ばくをした子どもは、24.6倍も白血病になる危険性があります。
子どもと胎児が放射線に対してこんなにも感受性が強い理由は、細胞が急速に分裂しているからで、これらの急速に分裂中の細胞は放射線に敏感なのです。このことから推論すると、胎児は最初の3ヶ月までは、人間のライフ・サイクルの中で放射線に最も敏感な組織体です。人間の全器官が最初の3ヶ月で形作られるからです。
この期間に放射線の影響で起こることがいくつかあります。生成過程の器官に損傷を与えること、先天性心臓疾患やいろいろな先天性変形などです。これは体細胞突然変異や、ある器官の発達過程の細胞の変異によって起きます。
胎児はその生殖腺、精巣や卵巣の中の突然変異で損傷を受け、その結果、将来世代にその変異を伝えていくのです。他の観点からも損傷があり得ます。発がんという観点から、細胞の一つが損傷を受けて、細胞分裂の率をコントロールする調節遺伝子が損傷を受け、その細胞が分裂するのです。このように、胎児は放射線に対して極度に敏感なのです。
ボンド:おっしゃったことは賛成です。そのことはもう何年も前から認められています。BEIR委員会のレポートでも非常に広範囲にわたって考慮されていて、基準設定に関係したグループも考慮しました。医者もその他の人たちも、胎児に対する放射線被ばくは最小限度にするよう注意勧告されています。事実、放射線業務従事者の女性が妊娠している場合は、胎児への被ばく基準は成人よりも制限されています。
エレット博士(William Ellett:環境保護庁基準局、放射線プログラム部)
それ本当ですか? 本当じゃないと思ってましたが。
ボンド:放射線防護委員会(NCRP)のはっきりとした勧告ですよ。
エレット:NCRPは勧告を変えませんでした。
モーガン:マイクに向かって発言してください。
ボンド:申し上げますが、勧告の基準は胎児に適用され、もちろん当然、母親に適用されています。
モーガン:エレット博士、コメントをご希望ですか?
エレット:はい、後でも話題になると思いますが、今はっきりさせておいた方がいいと思います。我々が基準と言うとき、何を意味するか注意する必要があります。ボンド博士はNCRPの勧告についておっしゃいましたが、これは勧告であって、基準ではありません。私が知っている限り、この件は、基準設定機関がまだ履行していません。
今日は素人の聴衆相手ですから、注意しなければなりません。NCRPの勧告について言及するときは、「勧告」と言いましょう。「基準」と言うときは、法律について言及しているのです。法的拘束力のあるものです。今日の会議はある意味、政府の公聴会で、議会によってこの情報がどう使われるか判断するための会議です。ですから、存在しないものが存在しているかのような誤った印象を持たれたくないのです。
マットソン:モーガン博士、ちょっとコメントさせてください。エレット博士がおっしゃったことは適切です。ICRPもNCRPも胎児への被ばくは放射線業務従事者の成人への被ばく量より低い線量を勧告しています。今日、私たちが話し合っていること、子どもの放射線感受性が高いことは、数年前から放射線生物学者には十分受け入れられています。現在の連邦政府の放射線基準には、そのような規定は含まれていません。その規定は1975年1月に原子力委員会によって勧告されました。その時、パブリック・コメントに供されました。
この勧告に従うに際して、私が勤めている部署では、原子力産業の女性従業員に対する指針を発行しました。我々が認可を出す相手ですが、この人たちに、妊娠した場合に胎児の高い放射線感受性について知らせ、法律で認められている措置について勧告しました。もし異なる放射線基準が存在したら、この国には、別の利害関係があることは、みなさんも十分、想像おできになると思います。つまり、雇用における女性差別に関して、プライバシーの侵害に関してです。この分野で非常に強く作用する法律の論点がいくつかあります。一つは中絶に関する最高裁判決、もう一つは1964年連邦公民権法第7編です。ありがとうございました。
「中絶に関する最高裁判判決」
マットソン博士はこの時点で、原子力規制委員会安全基準部長なので、「勧告」を適用するにあたって、2点法律問題があると注意喚起している。「中絶に関する最高裁判決」は1973年の判決を指していると思われる。中絶が禁止されていたアメリカでは1960年代から中絶の自由を求める裁判が起こり、1972年には既婚者、未婚者共に避妊の自由が承認される判決が出た。子どもを生むかどうかの自己決定権が承認されたこととされた。中絶が禁止されていたテキサス州を提訴する集合代表訴訟が起こり、1973年に連邦最高裁がテキサス州法を違憲と判断し、中絶の自由を「基本的権利」として承認した。
出典:巻美矢紀(2006)「自己決定権の論点—アメリカにおける議論を手がかりとして―」国立国会図書館『リファレンス』No.664, 2006年5月(政治議会課憲法室委託論文)
国会図書館ホームページからアクセス可:
http://www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/refer/200605_664/066406.pdf
「1964年連邦公民権法第7編」
雇用差別の禁止を規程した連邦の基本法で、人種、宗教、出身国などに並んで「性」による雇用差別を禁止している。1972年の改正で「雇用機会均等法」が成立した。
出典:「諸外国における政策・方針決定過程への女性の参画に関する調査」第5章アメリカ合衆国」(2009年3月)、内閣府男女共同参画局ホームページ「調査研究等 年次調査 平成20年度」:
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/sekkyoku/h20shogaikoku.html