訳者解説:2013年に疫学調査の分析で、低線量でも有害と判明

アーチャー博士が1976年に強調した「バックグラウンド放射線の低線量問題への答は疫学調査でしかわからない」という主張が、2013年に証明されました。

訳者解説:
1976年:バックグラウンド放射線の低線量問題への答は、疫学調査でしかわかりません
2013年:たとえ低レベル放射能でも有害

 アーチャー博士の主張を証明したのが、37年後の2013年に発表された論文「バックグラウンド放射線の人間、動物、その他の有機体への影響」(Møller, A.P. & Mousseau, T.A. (2013) The effects of natural variation in background radioactivity on humans, animals and other organisms, Biological Reviews, 88: 226-254)である。サウスカロライナ大学のムソー教授とパリ11大学のメラー教授がバックグラウンド放射線の影響に関する5,000以上の論文を検証し、量的比較をするために46論文を選んで精査した。いずれの論文も被ばくした人々と、していない人々の対照群を比較した。植物や動物への影響も含まれるが、大半は人間への影響で、DNA損傷、ダウン症、出生児の性比などを検証した。どの項目でも統計処理を行った結果、免疫、生理機能、突然変異、疾病発症率などの点でマイナス影響があることが判明した。すべての項目でマイナス影響の発生は偶然の確率を超えていた。

 「これらの地域の影響が目に見えるほどではないとか、地域的に限定されているとか、率が小さいとかの理由で、低線量被ばくの影響はないと思う人が多いですが、この調査ではっきりと、影響があるとわかる筈です」とムソー教授は言う。この調査結果が被ばく影響の「しきい値なし直線モデル」と合致しているので、被ばくリスクに関する論争に今までよりいい情報を提供できると期待している。「過去2-30年間に広く言われてきた理論は、これ以下の被ばくでは影響はないという、しきい値があるというものですが、今回の調査で、しきい値はないということ、現在の統計学で見れば、どんなに低くても、被ばく影響は計れることがはっきりわかりました。チェルノブイリやフクシマの事故、その他の事故の結果、原子力産業界は市民が被ばくしている放射線の線量を過小評価しようとしてきました。彼らの論は、事故による被ばくが自然バックグラウンド線量レベルのせいぜい1倍か2倍にすぎないとしてますが、彼らの誤りは自然バックグラウンドレベルが問題ないと思っている点です。事実は、この低線量レベルの影響を見ると、被ばくの規制を考え直さなければいけない、特に原発から放出される放射線、医療被ばく、飛行場のX線についても考えを改めなければいけないことを示しています」。

出典:サウスカロライナ大学ニュース “Even Low-Level Radioactivity Is Damaging(たとえ低レベル放射能でも有害)http://www.newswise.ecom/articles/even-low-level-radioactivity-is-damaging

訳者注:議事録の各章の最後に、参考文献が付記されています。

参考文献

  1. Stewart, A., Webb, J. and D. Hewitt. Survey of Childhood Malignancies [小児悪性腫瘍調査]. British Medical Journal. v.1. 1958: 1495-1508.
  2. Gibson, R.Q., Graham, S., Lilienfeld, A.M., Bross, I. et al. Leukemia in Children Exposed to Multiple Risk Factors [複数リスク要因に暴露した小児白血病]. New England Journal of Medicine. v.279. Oct. 1968: 906-909.
  3. Bross, I. and N. Natarajah. Leukemia from Low-Level Radiation; Identification of Susceptible Children. [低線量放射線による白血病:感受性の強い子どもの識別] New England Journal of Medicine. v.287. July 1972: 107-110.
  4. Beebe, Kato, and Land. Study of A-bomb survivors [原爆生存者の研究]. Radiation Research, 1971: 613-649. (The fourth report in a series.)
  5. Diamond, E.L., Schmerler, H., and A.M. Lilienfeld. The Relationship of Intro-Uterine Radiation to Subsequent Mortality and Development of Leukemia in Children [小児白血病の発生とその後の死亡率と子宮内放射線の関係]. American Journal of Epidemiology. V.97. May 1973: 283-313.
  6. Wesley, J.P. Background Radiation as the Cause of Fatal Congenital Malformations [死をもたらす先天性形成異常の原因としてのバックグラウンド放射線]. International Journal of Radiation Biology. V.2. 1960:97-118.

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