注:中川保雄(2011)『増補 放射線被曝の歴史』、明石書店、PP.168-175.
バーテル:今まで発表された放射線関係の論文の多くも、放射線による疾患に脳血管疾患を入れています。(中略)スターングラス博士が今おっしゃった論文は医療従事者や放射線技師が医療被ばくした結果起こることを示しています。がんや心血管腎症、その他の病気を合わせた死亡率は、被ばく率が高い国で増加しているのです。全体的な現象です。広島・長崎でも起きていますが、主として低線量で起きており、高線量ではないのです。
ジャブロン:中枢神経の血管病変による死亡、いわゆる、脳卒中による死亡に関していえば、あなたが言う低線量が何を意味するかわかりませんが、最低の線量と言う場合、我々が把握しているのは、ゼロから9ラド(90mSv)です。その線量で、広島の死亡率は日本標準の74%でしたし、長崎は95%でした。つまり、両方とも日本全体の率より低いということです。
この病気による死亡率に関しては、広島でも長崎でも、どの放射線グループも、その他のいかなるグループと、大きな違いはないのです。長崎における循環系の病気も、大きな違いはありません。放射線がゼロから9ラド(90mSv)被ばくしたグループの死亡率は日本標準の93%ですし、10から49ラド(100〜490mSv)被ばくしたグループの死亡率は日本人全体の率の113%でした。これは少し多いですが、統計的に有意な増加ではありません。
広島でも同じです。ゼロから9ラド(90mSv)では85%, 10ラド(100mSv)から49ラド(490mSv)では80%, 50ラド(500mSv)から99ラド(990mSv)では100%、というように日本全体の率より低いか同じという結果です。呼吸器系疾患への影響があるというデータには一切証拠がありません。
バーテル:私が引用した研究論文はビーブ・加藤・ランドの論文です。アレルギー疾患、内分泌系、代謝、栄養疾患などによる死です。それに、広島の男性には糖尿病による53件の死亡、1962年から66年の全件で49の死亡例があり、この論文ではこれらについていろいろ論じています。直線傾向についても触れていますが、これらの病気は高線量では起こらないという理由で、 直線傾向を除外しているのです。これらの死亡は主に、被ばく当時40歳から59歳だったグループに生じています。糖尿病、脳血管疾患、心臓病による死亡リスクの増加には驚くべきものがあります。
ジャブロン:あなたも統計学的誤謬(statistical fallacy)というのをご存知でしょう。つまり、確立が低い出来事が起こると仮定して、結局は現実に起こるのだという誤った推論です。(中略)
時たま、矛盾を見つけることもあるでしょうが、それが合理的なことか検証しなければなりません。都市別、性別、線量別でも、一貫して起こるのか検証しない限り、位置が[放射線の影響かどうか]わからないじゃないですか
バーテル:まさに、その時たま見つける矛盾というのが、驚くべきことなのです。広島のケースは私たちが白血病3州データで見つけたことと一致するのです。他の研究とも一致しています。(後略)
ブロス:議論が抽象的になってきて、永遠に続く方向にそれてきたと思いますから、この会議の主旨である公衆衛生のテーマに戻るべきだと思います。
人間が低線量被ばくした証拠はないという主張がなされましたが、我々の診断用X線データは、低線量あるいはそれより低いレベルに基づいています。最初に強調しておきたいのですが、非常に高い線量の影響から低線量の影響を推測するのではないということです。私たちが扱うのは、実際に被ばくした人間のデータです。この点を明確にした上で、このデータについてお話ししたいと思います。
白血病3州データですが、これは3つの州の1300万人のデータです。白血病を抱えているほぼ全部の世帯を3年にわたって調査しました。同時に同じ地区から無作為抽出された世帯も調査しました。
この研究は13匹のネズミではなく、1300万人間の調査研究です。この調査についてはBEIRレポートでも言及されましたが、その後無視されました。このデータから、低線量被ばくの害がはっきりと見られます。12本ほど論文が評価の高いジャーナルに出版されましたから、読んでいただければわかります。
訳者解説:ビーブ・加藤・ランドの論文
1971年発表の論文で日本の厚生省とABCCが行った研究に基づいていると明記されている:Gilbert W. Beebe, Hiroo Kato, Charles E. Land, “Studies of the Mortality of A-bomb Survivors 4. Mortality and Radiation Dose, 1950-1966”, Radiation Research 48, 613-649.現在デジタル化されアクセス可:http:www.jstor.org/stable/3573346.
議論の中でバーテル博士が論文のページ数まで言及しているので、この論文を引用していることは確かだが、議事録の文献目録には誤記がある(論文題名の誤記)。バーテル博士が指摘しているように、「1950-1954年と1959-1960年にかけて、原爆当時1.4km圏内にいた人びとの死亡率のうち、あらゆる病因によるものが男性の場合、予想より25%、女性の場合は50%高かった。白血病以外のがんも予想より上だった」(p.614)と述べられ、数値としては、最も死亡率が高かったのが脳血管系疾患(2,458例)、次に「白血病以外のがん(2,051例)」、結核(868例)、トラウマ(760例)、動脈硬化系心臓病(342例)、腎炎、ネフローゼ(274例)の順になっている(p.617)。
現在(2014年5月)、放射線影響研究所HPに掲載されている同著者たちの論文要約では、「がん以外の原因による死亡は放射線と関係がない」「がん以外の自然死が14,405件あるが、検証の結果、がん以外の病気は[被ばくの]後発的影響だという説には何ら根拠がない」と明言されている(注)。しかし、被ばくの影響ではないとどう証明したのか明らかにされていない。
注:英文HP: http://www.rerf.or.jp/library/scidata/lssrepor_e/tr01-77.htm