6-5 作業員の病気を記録・調査すべき

バーテル博士が現行の規則の不備を追及し、作業員の病気は慢性疾患も晩発性疾患も記録し調査すべきだと主張します。それに対し規制機関の専門家の答えは、法律の報告義務が適用されるのは作業中の事故だけで、病気は放射線との関係が証明されないというものです。


バー:私はエネルギー研究開発局(ERDA)のバー博士です。ERDAの役割についてはすでに触れられたので、手短かに述べます。

 ERDAは請負契約者に対する責任を持っています。ERDAが契約する作業に関する環境モニタリングの予算は年間約600万ドルです。この額にはERDAの人間と請負作業の人間を含めて450人の人件費が含まれています。

 データが集められ、評価されて出版されます。バー博士は最近の環境モニタリングの情報一式を持っていますから、この委員会にお預けします。

モーガン:ラベル右のテキストバー博士、ありがとうございました。資料はいただきます。次に、アーチャー博士から国立労働安全衛生研究所(National Institute of Occupational Safety and Health, NIOSH)について伺います。

アーチャー:ラベル右のテキスト放射線を扱う政府機関の主な所からはお話を聞いたわけですが、他に3つ問題のある所があります。1つ目は鉱山施行安全局(Mine Enforcement and Safety Administration, MESA 訳者注)で、あとの2つは労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act)のもとにできた双子の機関、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)と職業安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration, OSHA)です。

訳者解説:
MESAは1977年の「連邦鉱山安全衛生法」(Federal Mine Safety and Health Act)成立後に鉱山安全保健管理局(Mine Safety and Health Administration(MSHA)になり、現在にいたっている。

出典:All Govホームページ “Mine Safety and Health Administration”
http://www.allgov.com/departments/department-of-labor/mine-safety-and-health-administration?agencyid=7436

 鉱山施行安全局(MESA)は特殊金属鉱山法(Special Metal Mine Act)によって鉱山操業におけるすべての被害を管理監督する権限を与えられています。この機関の関心事は鉱山です。基本的にすべての鉱山操業における放射性物質の濃度を計測するための非常に活発なプログラムを持っています。地下鉱山におけるラドン娘核種に焦点をあてています。

訳者解説:ラドン娘核種というのは、ラドン崩壊で、鉱山などの密閉された空間でラドンガスがたまり、崩壊によってアルファ線やベータ線を発する危険な元素になって、半減期の短いものは鉱夫に影響し、長いものは地表、地下水を通して人体に影響を与えるとされる。

出典:NPOカナダ連合核の責任(CCNR)ホームページ:
http://www.ccnr.org/radon_chart.html

 このNIOSHとOSHAを設置した法律はこの2機関に対して非常に広い範囲の権限を与えています。国立労働安全衛生研究所(NIOSH)には問題を調査する権限を、職業安全衛生局(OSHA)には基準を遵守させる権限を与えています。2つとも職業上の危険を調査し、管理する非常に幅広い権限を持っています。しかし、この法律は例外条項もあって、権限が他の機関に任せる状況を例外としています。この場合、放射線防護の権限ほぼすべては他の機関に任されています。

 放射線防護に関して、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)も職業安全衛生局(OSHA)も、ほとんど権限がありません。国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が維持している唯一の研究分野はウラン鉱夫の研究です。歴史的経緯から、われわれがこの分野を維持しているのです。公衆衛生局(Public Health Service)が他の機関がどこも興味を示さなかった時に、この研究を始めたのです。ありがとうございました。

バーテル:私たちはここで公衆の健康を守ることについて話し合っているのだと思います。公衆の健康を守るということを考える場合、第一に疑問に思うのは、人々の健康度がどのくらいかという点です。

 職業安全衛生局(OSHA)の報告/記録で、雇用者が記入しなければいけないものを思い出します。職業に関係する病気になった場合、少なくともバーモント州では、72時間以内に報告しなければなりません。50ラド(500mSv)以下の被ばくで、すぐに放射線で具合が悪くなったのでない限り、つまり、72時間以内に具合が悪くなったのでない限り、放射線に関係する病気について報告する義務はありません。

 ラシター博士(Dr Lassiter)の報告を読みました。職業安全衛生局(OSHA)の方で、1975年3月のニューヨーク科学アカデミー(New York Academy of Sciences)の会議でこの報告をなさいました。雇用者が記入しなければいけない職業安全衛生局の報告書/記録は、職業に関係する病気で、医者が診断したものは2%だという報告/記録です。2%ですよ。これでは人々の健康を注意していることになりません。職業上で人々に起こることを見ているとは言えません。

 産業界の記録はたった5年間保管することになっています。これも、あなたがたが大量の病気を削除してきたということです。労働者が移動する場合に持って行ける記録の蓄積もありませんね。労働者が職場を変えた場合、ゼロから始めなければならないのです。

 医療被ばくをした人々に非常に関心があると言いましたが、私たちは医師、放射線の医師に関する大規模な調査研究を何回かしました。ウィルマ・ハント博士(Dr Vilma Hunt 訳者解説)は、女性のX線技師に関する研究はされたことがないと指摘しています。(中略)

 人々を見て「病気か?」と言わないようなモニタリング・プログラムには根本的な間違いがあると思います。ウラン鉱の鉱夫に関する報告書を読んだところですが、25人のグループに肺がんの例は一つもないと報告しています。この人々については他に何も報告していないのです。病気なのか、何か問題があるのか、死亡原因は何なのか。これらの書類すべての中で、重要な問題が見失われていると思います。

モーガン:ありがとうございました。これは記録に残しておくべき非常に重要な点です。確かに私たちの多くはこの出訴期限法というものに気づかされています。これは適切な防護をもたらすものではありません。

訳者解説:

ウィルマ・ハント博士(Dr Vilma Hunt: 1926-2012)

 オーストラリ生まれで、第二次世界大戦中、オーストラリア空軍女性補助部隊に徴兵され、終戦後シドニー大学歯科学部を卒業して、ニュージーランドで歯科医になる。その後、ハーバード大学の奨学金を得て、1952年にハーバード大学人類学教授のエドワード・ハントと結婚し、彼女自身は1958年に人類学修士号を取得する。

 60年代後半にウラン鉱山の歴史に興味を持ち、75年に発表した論文「妊婦の職業上の健康問題」(Occupational health problems of pregnant women)が働く女性たちに焦点をあてた点でも、大きな反響をよぶ。ハーバード大学の訃報記事には「科学者、放射線専門家、フェミニスト」と記されている。

出典:J.M. Lawrence “Vilma Hunt; pioneered research into smoking, worksites”(ウィルマ・ハント——喫煙と職場の研究のパイオニア——),ボストングローブ紙、2013年1月17日
http://www.bostonglobe.com/metro/obituaries/2013/01/17/vilma-hunt-gloucester-researched-dangers-smoking-and-environmental-hazards/PrjklLL0B2rKFMKNWu9YjJ/story.html

Karen Feldscher “In Memoriam; Vilma Hung, former HSPH scientist, radiation expert, feminist”, Harvard School of Public Health(ハーバード大学公衆衛生学部), 2013年1月24日 http://www.hsph.harvard.edu/news/features/in-memorium-vilma-hunt/

リッチモンド:最後のコメントについてお答えしたいと思います。あなたがおっしゃったのはウラン鉱労働者ではなくて、プルトニウム労働者だと思いますが。

バーテル:そうです。

リッチモンド:少なくとも3カ所の施設がその情報を出版しました。公開された論文も含まれています。死因についての詳細もあります。

 もう1点申し上げますが、そのグループは1944年からずっと調査されてきています。最初の原爆が開発された戦時中も続いていました。この人々は現在も調査されています。記録しておいていただきたいのですが、この調査結果は科学的に審査された論文です。手に入る証拠ですから、お読みになることをお勧めします。

バーテル:その論文の詳細を教えていただけますか。

リッチモンド:今そのコピーを持っていますから、差し上げます。

バーテル:ありがとうございます。

モーガン:このセミナーの記録用にも提供してもらえますか。

リッチモンド:喜んで。(6章の最後に掲載する文献リスト参照)

マットソン:バーテル博士がおっしゃったことについて簡単にコメントしてもよろしいでしょうか。記録のためにはっきりさせておくべきことは、職業被ばくした人々は放射線量を測る機器でモニターされています。労働者が病気だと[自発的に]会社に報告することに頼っているわけではありません。法律によって、彼らは被ばくを報告する義務があるのです。他の機関でも同じだと思います。2パーセントというのは放射能に適用されているのではありません。

バーテル:失礼ですが、病気と被ばく量との関係を見るためには、どのくらいの被ばくかを報告するのと、その後どんな病気になったかを報告するのとは違いがあります。この2つは違う問題です。

アーチャー:この報告の件で、もう少しはっきりさせられると思います。

 いくつかの州では職業に関する法律には、職業に関係した病気を報告する規定があります。ほとんどの州では同じような法律があります。しかし、原則として、この法律のもとに報告される唯一のケースは事故です。なぜなら、事故は明らかに仕事に関係しているからです。時には作業中に起こる急性疾患も報告されます。

 慢性疾患や遅く現れる病気はほとんど報告されません。その主な理由は、それが職業に関係した病気だと誰も認識しないからです。たとえ医者がある慢性疾患が職業に関係していると思っても、確信は持てないのです。
 
その病気の病因を本当に確かめられる唯一の方法は疫学調査です。慢性疾患や遅れて起こる病気を職業病として報告する方法はうまくいかないと思います。

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