4-5 低線量無害派が「すべてが嘘だ」と証拠を否定

低線量無害派の専門家たちが、ペトカウ効果も疫学調査結果も「すべてが嘘だ」と感情的な発言をする場面が増えてきました。現行の放射線許容線量を死守しようとするグループと、高すぎるから低減すべきだというグループとの応酬が激しくなってきました。


リッチモンド博士(Charles Richmond:オークリッジ国立研究所生体医学環境部副部長)
 スターングラス博士のコメントについてお答えしたいと思います。市民がたびたび聞かされるのは、核施設から放出される物質によって、乳幼児の死亡率やがんその他の病気が増加しているという主張です。このような主張はどれも実証されていません。州政府や連邦政府が調査を行ってきましたが、その主張を裏づける証拠はありませんでした。すべてが嘘です。

ボンド:スターングラス博士に申し上げたいのですが、ペトカウ博士のデータについておっしゃいましたが、それは非生物のデータです(注)。人間より低次元の生物から推論することも難しいというのに、非生物のデータなど、もっての他です。(中略)

訳者注:1972年の論文の実験は「生きている細胞の細胞膜に似たリン脂質の人工膜」、1974年にペトカウ博士はチェラックらと、微生物の生きている細胞でペトカウ効果を確かめた。
出典:ラルフ・グロイブ/アーネスト・スターングラス前掲書、pp.129-134.

ロジャー・マットソン博士(Roger Mattson:アメリカ原子力規制委員会安全基準部長)
 議長、議題に戻るべきだと思います。(中略)この公衆衛生問題の最重要課題は市民を守るための放射線基準の設定です。(中略)私の仕事は規制官として、放射線基準によって市民の健康と安全を守ることです。(中略)BEIR委員会が審査するようなレポートや論文を数万本も読んできましたが、低線量の放射線レベルから市民をいかに守るか、科学的コンセンサスをどう得たらいいのでしょうか。

 モーガン博士が冒頭におっしゃったこと、健康被害と低線量との関係を直接示す証拠はないということが問題です。それにもかかわらず、今日の基準は直接的関係があると想定して設定されているのです。

 これがいわゆる直線仮説のすべてです。直線・線量/影響依存性を使っています。つまり、高線量で観察される影響が、一つの線量単位につき、同じ量の被害があるという仮説です。この依存性の研究を続け、がんや発がんの速度論に関する研究に何百万ドルもの額が投入されています。このような研究が進行している一方で、いまだに放射線基準設定のときは、直線関係を想定しているのです。

訳者解説:

ロジャー・マットソン(Roger Mattson)

 この会議の3年後にスリーマイルアイランド原発事故が起きた時、マットソン博士は原子力規制委員会のシステム安全部長として事故対応にあたった。事故の3日目の規制委員会の電話会議によると、住民避難の決定をしぶっている委員長や他の委員に対して、「なぜ住民を避難させないのか? 避難勧告を出せ! ずっとここで言ってきてるのに、この期に及んで何を守ってるのか。住民を避難させるべきだと思う」と強い口調で説得を試みているが、委員長は「避難って、どこまで?」と危機感のない対応をしている。それに対してマットソンは「10マイル(16km)離れた所までなら、あなたが住民を殺すことにならない。人口はそれほど多くないし、住民は2日間も緊張しきって待機しているんだ。情報があまりに少なく、あまりにも遅い」と迫った。結果として住民避難の勧告を知事に出す決断が委員長にも規制委員会トップにもなく、州知事が避難が必要かもしれないと言ったのは4日目だった。その頃には8万から20万の住民が自主避難をしたという。

出典:”Three Mile Island: Special Report: Crisis at Three Mile Island”, Washington Post:
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/national/longterm/tmi/whathappened.htm

 なお、この電話会議は世界中で衝撃を与えたようで、特にマットソンの発言を含めた部分がスウェーデンのテレビ時事報道で、俳優を使って演じられ、1980年に放映されました。

ボンド:1972年にUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)とBEIR委員会が大規模な調査を行いました。この調査のことはよく知られ、すべての科学者から情報を求めたそうです。この2つの機関は同じ証拠を検証したわけですが、ある点では同じ結論に達し、別の点では違う結論に達しました。どちらも遺伝的影響と身体的影響両方を調べ、今日の会議でも話題になったさまざまな影響について考慮しました。

 国連のレポートの方は、放射線ががんなどの長期間の影響をもたらすことを認めています。高線量や線量率域に関して、数量的に推論できると示されています。データが不十分のため、低線量と線量率における影響を推測できなかったと述べられています。

 高線量と高線量率の影響については、このレポート二つとも基本的に同じ結論に達しています。(中略)低線量で何が起こるか、低線量の高い領域で何が起こるか推測するために、いわゆる直線仮説を使ったのです。高線量と線量率の影響と、ゼロ線量でのバックグラウンドの影響を得ようとして、直線仮説を使ったんですよ。このグループでは、あらゆる生物システムで修復が起こること、線量率の要素をリスク計算の中に組み込むべきかなど、BEIR委員会のレポート作成グループではとことん話し合いました。結論として、入れるべきではない、なぜなら、純粋に人間のデータをもとにしたら、決定的な結論を下すことはできない、動物実験がもとになっていれば、そして他のデータと食い違いがなければ、線量率の要素を加えてもいいと思います。そうすれば、BEIRレポートが予想したような影響を下げることができます。

 BEIR委員会の報告書の結果は公表されています。私の考えでは、この報告書は放射能の影響についてベストな概説です。

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