6-2 放射線を使う医師・技術者の知識・資格の問題点と厳しい州政府の規制を告訴する電力会社の裁判判決

食品医薬品局(FDA)の放射線医学局による医師・技術者への放射線知識の普及と訓練が不十分で、基準が州によって違うことの問題が浮き彫りになります。また、各州が独自の基準を設けているため、原子力委員会=連邦政府の基準より厳しいと電力会社が告訴し、最高裁が州には決定権はない判決を下したことが紹介されます。訳者解説で述べるように、1970年代後半の判決では、連邦政府=原子力委員会は原発をいかに建設し、運転するかを規制し、州は原発が建設されるべきか否かを規制するという方向に変わり、原発の新設廃止を多くの州が採用します。

マーク・バーネット博士(Mark Barnett):放射線医学局・医学訓練と応用部副部長(Associate Director of the Bureau of Radiological Health’s Division of Training and Medical Applications)

バーネット:バーニー[シーレイン博士の名前バーナードの愛称]が述べた連邦政府レベルの責任の一つは、放射線を発する機械の性能をモニターし、その基準を設定することです。これを補うものとして、これらの機械を使う人びと、医師の診療、放射線技師や歯科で患者にX線を使う人びとの技術や知識を向上させるプログラムも行っています。これは基本的に教育です。たとえば、医学部学生や研修医に対する放射線の学習システムの開発です。これらの人びとに放射線の実践に関する基本原則を教えるものですが、現在アメリカの医科大学のほぼ3分の1で使用されています。

 同じく、X線技術者のための訓練プログラムもあり、この国の1100ほどのX線技術校で使われています。私どもはガイドラインや勧告を設定する責任も担っており、これは連邦官報(Federal Register)に、X線の優良実践として出版され広められているところです。この会議でも話題になっていた遺伝的影響から患者を守るための生殖腺シールド(防護物)の使用も含まれています。

進行中の勧告
・ 妊婦の診断用X線検査による被ばく
・ 医療機関におけるレントゲン写真を患者の被ばくを最低限に抑えたものにする品質保証プログラムの使用
 その他の責任分野
・ 患者や消費者に対する医療用X線防護についての教育
・ 健康保健分野のプロフェッショナルと消費者の教育

 これらの教育は放射線機器の性能、使用実績の基準を作ることと、そのモニタリングを捕捉するものです。

モーガン:お尋ねしたいのですが、放射線医学局はいつになったら、すべての放射線技師がX線機器を使うための教育・訓練・免許を受けていると保証してくれるのですか。また、X線を処方する医師も同じような知識を持ち、医学的資格を得ているという保証はあるのですか。

バーネット:放射線を使う人々の知識に関しては、改善されつつあると感じています。確かに、X線を処方する人にも、患者に使う人にも、教育や資格証明書を与える点で、現在のところ統一した判定基準がないのは事実です。一貫した整合性のある資格基準は多分必要でしょう。

 放射線技師を認可しているいくつかの州では、お互いの規則が一致していないという問題がありますから、この点でも統一性が求められると思います。

モーガン:私はもう何年もこの問題を早くやってほしいと、放射線医学局をせっついてきました。次のスピーカーが放射線医学局の方ですから、多分、進行中だと説明してくれるでしょう。あるいはEPA(環境保護局)がこの仕事に取りかかるのか。

エレット:この問題はあなたの持ち時間で話します。私の持ち時間は使いません。リストにあげられている質問に答えたいと思います。それは「市民を放射線から守る上で、連邦政府と州政府の責任は何か」です。この質問を考えてみましたが、誰が何に責任を持つのかという、あまりにもごちゃまぜの課題です。市民は責任の意味をもっとよく理解すべきだと思います。

 環境保護局(EPA)の責任分野から始めます。EPAは大統領の改編計画で設置された部局で、連邦放射線審議会(FRC, Federal Radiation Council)が担っていた責任を引き継ぎました。連邦放射線審議会の責任はいくぶん誤解されているていると思います。みなさんは連邦放射線審議会の基準に従っているとおっしゃいますが、FRCは基準の設定はしませんでした。FRCはさまざまな政府機関にガイドを提供したのです。一定の線量を超える場合は、その理由を十分に検討すべきだ、検討なしにある線量を超えてはいけないという意味で、線量の定義をして、ガイドとして提供したわけです。

 現在では、奇妙に聞こえるかもしれませんが、このガイドが書かれた1960年のコンテクスト(文脈、状況)では、時代が違うわけですから、当時としては、これが特にお粗末なガイドだったとは思いません。これをアップデート(最新版)すべきか否かについて質問があるかもしれませんが、今日はそれにお答えする用意がありません。

 FRCはまた、すべての被ばくは必ず便益も伴うと勧告しました。そして、すべての被ばくは実行可能な限りコントロールされるべきだと勧告しました。今日行われている放射線基準に関する議論のほとんどは、基本的ガイドは何かとか、基本基準はいかにして制定されたのか(他の政府機関や環境保護局EPAによって)という問題ではないと思います。今日の問題は、これらの基準が求める線量が本当に実現可能な低さなのかという点だと思います。

 EPAの責任に戻りますが、EPAが設立される時の計画では責任分野は以下のものでした。

・ 放射能レベル(量と濃度)と一般の環境の放射線量の設定

 原子力エネルギー法で与えられた権限で[訳者注:1954年に商業用原発を認可するよう改正され、1974年のエネルギー再編成法も反映していると考えられる]、この法律で扱われる物質のみに適用されます。この権限がどこから与えられているのか(法的根拠)は、連邦政府機関がすることについて非常に重要な点だと思います。

・ 特殊な場合の飲料水の基準の設定:この権限は議会によって与えられます。

 しかし、一般的には、EPAは放射線基準を設定したことはありません。他の連邦政府機関にガイダンスを提供しています。放射線基準は他の機関が設定しています。たとえば、原子力規制委員会(NRC)は、原子力エネルギー法で決められた物質を作る原子力発電所などによる認可物質の基準を提供しています。

 エネルギー研究開発局(ERDA)は基準を設定する機関ではないと考えられていますが、他のどの機関と同じくらいたくさんの基準を作っていると私は推測しています。あそこは全ての請負業者用の基準を作っています。それが基本的にはエネルギー研究開発局の取り決めの一部なのです。あそこには放射線基準のマニュアル本として知られている規則集があります。これが職業被ばくの大部分をコントロールしています。これらの基準は連邦放射線審議会(FRC)のガイドに内在しています。

 州政府については、州の状況はあまりはっきりしていません。まるで州が放射能の被ばく基準レベルを設定する責任を持っているように見えますが、ミネソタ州の最高裁判決(ノーザン・ステーツ電力会社対ミネソタ州裁判 Northern States Power Co. v. Minnesota: 1971, 72年)の解釈は、原子力エネルギー法[1954年]で守られている物質の放射線被害について州は何も言えないというものです。

 自然放射能のコントロールは州政府の責任です。過去には、自然放射能の危険性を検証することを連邦政府は多分乗り気ではありませんでした。連邦政府が出した唯一のガイダンスは地下ウラン鉱の作業員のラドン被ばくについてだけですから。

訳者解説:

ノーザン・ステーツ電力会社対ミネソタ州裁判(1971, 72年)

 ミネソタ州が原発から放出される放射性気体の量を規制する厳しい法律を制定したところ、電力会社(ノーザン・ステーツ)が法令に異議を唱えた裁判である。放射性廃棄物をめぐって、州政府と連邦政府のいずれに権限があるかという点で、画期的な判決とされた。1971年の判決では、州の放射性廃棄物規制を否定し、1972年のミネソタ州対ノーザン・ステーツ電力会社裁判の最高裁判決もこの決定を確認して、国の機関である原子力委員会(AEC)が原発から出る放射性廃棄物の規制について絶対的権限を持つとした(注1)

1972年〜現在まで
 後に続く他州の裁判でも、この判例に従う判決が多かったが、放射性廃棄物処理が全米で問題視されて、州政府や市民団体による訴訟が続き、権限は連邦政府か州政府かという点について、裁判判決で「原子力エネルギー法」の解釈が変わってきた。ミズーリ州の市民が起こした訴訟で裁判所は「連邦政府[=原子力委員会]は原発をいかに建設し、運転するかを規制し、ミズーリ州は原発が建設されるべきか否かを規制する」[1978年裁判]とした。そして州政府と連邦政府の衝突を避けるために「最も重要なことは、原子力委員会が認可するのは原子力発電所を建設する許可書であり、連邦政府の建設命令ではない」と裁判所が言及した。したがって、州が電力会社に対し、原発の建設/運転差し止めを命じることは連邦政府の権限の侵害にあたらないとしたのである(注1)

 1983年の裁判では、連邦政府が放射性廃棄物処理の問題を解決するまで、カリフォルニア州は原発建設を認めない「モラトリアム」を設けることを最高裁が認め、多くの州で同じような法律が制定された(注2)。しかし、30年後には新たな原発が建設され、「2005年エネルギー政策法」(2005Energy Policy Act)によって、新型原子炉に対する税金の融資が決まり(注3)、オバマ政権が2014年に建設済みの原子炉に対して追加融資を決定したことが問題にされた(注4)

注1: Susan L. Satter “Congressional Recognition of State Authority over Nuclear Power and Waste Disposal”, 58 Chi.-Kent. L. Rev. 813 (1982).
http://scholarship.kentlaw.iit.edu/cklawreview/vol58/iss3/6/

注2:Richard S. Harper (2011) “Pacific Gas & electric Revisited: Federal Preemption of State Nuclear Moratoria”, Journal of energy & environmental Law, Summer 2011:
https://gwujeel.files.wordpress.com/2013/07/2-2-harper.pdf

注3: 日本エネルギー経済研究所(2005)「Energy Policy Act of 2005の構成と内容」:
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1150.pdf

注4: Steven Mufson, “Why is the Obama administration using taxpayer money to back a nuclear plant that’s already being built?” (なぜオバマ政権は建設済みの原発を支援するために税金を使うのか?), 『ワシントン・ポスト』, 2014年2月21日
http://www.washingtonpost.com/blogs/wonkblog/wp/2014/02/21/why-is-the-obama-administration-using-taxpayer-money-to-back-a-nuclear-plant-thats-already-being-built/

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