スターングラス 次に、低線量と線量率の影響が考えられていたよりずっと大きいという最近の動物実験の結果をお見せします(図3省略)。これはJ.B.リトルらの論文(章末文献3)で、ハムスターにポロニウム210を被ばくさせて肺がんになる線量を実験したものですが、非常に低い線量では最小線量から急激に上昇しているのがわかります。そして高線量では上昇が止まっています。これは細胞膜への影響と全く同じです。(中略)
過去の研究やBEIRレポートがしてきたように、高線量から推測して、低線量に向かって真っすぐな線を引いたら、ゼロに近い低線量で起こる影響を大きく過小評価することになります。これはいくつかの動物実験から最近わかったことです。たとえば図4のサンダース博士の研究からもわかります。
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図4 ネズミに与えたプルトニウム238で発症したがん
縦軸:腫瘍発生率(%) 横軸:線量 100ラド(1000mSv) 〜 400ラド(4000mSv)
上部曲線:全がん、点線の曲線:肺腫瘍
出典:Sanders CL Jr., Carcinogenicity of Inhaled Plutonium-238 in the Rat., Radiat Res. 1973 Dec; 56 (3): 540-53. [議事録文献に記載されていませんが、掲載雑誌の詳細から、この論文だと思われます]
人間にも同じ現象が見られることは、1920年から1970年にかけて日本のがん率の変化が示しています。図5では、1920年から1950年の間、産業と化学物質による公害が急上昇した時期にもかかわらず、がんの死亡率は上がっていません。がん死は広島原爆の3,4年後から上昇しています。そして、それはシベリアの大規模な核実験で日本にフォールアウトが降下した時期にも当たります。
図5 年齢調節がん死亡率—米国と日本の男性(全年齢、全部位、人口10万人対)
縦軸:がん死亡率(人口10万人対)、横軸:年、右上部縦軸:1920−40年に比較した増加率%
下から:1st Nevada Tests第1回ネヴァダ核実験、2nd Nevada Tests第2回ネヴァダ核実験、
1st USSR A—TESTS (Low altitude Pacific and Siberia) 第1回ソ連水爆実験(太平洋シベリア低空)、1st A—Bombs (Small, Low Altitude) 第1回原爆実験(小規模、低空)、2nd H—Bomb Series (High Altitude) 第2回水爆実験シリーズ(高空)、Test Moratorium 核実験モラトリアム
出典:瀬木三雄ほか、日本対がん協会、1972年11月
http://fujiwaratoshikazu.com/2011disaster/
さらに、上の線が示しているのは、アメリカの非白人系人口に何が起こったかです。この人口にはもちろん、この国の日系、中国系、インド系、アフリカ系の人口も含まれています。この線が示しているのは、フォールアウトが降り始めて2,3年後に始まる急激なものすごい上昇です。その線量は年20〜50ミリレム(0.2〜0.5mSv)以上では絶対ないものでした。そして、核実験モラトリアム(一時停止)の4,5年後にがん死は短期間ですが減少し、2回目の核実験のフォールアウトの後に、また上昇しています。