モーガン:労働組合を代表していらしているコリンズ博士にステートメントをお願いしたい。
コリンズ:我々は費用対効果(cost benefit)について、さんざん聞かされてきました。放射線業務従事者の基準は一般人の線量よりずっと高いのです。今日、ここで上限が年5レム(50mSv)と聞いて、不安になりました。石油・化学・原子力労働者組合のメンバーの多くは核燃料サイクルの作業員ですが、彼らも不安に感じて、今日それをはっきり示してくれました。
国立資源防衛審議会(National Resources Defense Council)[ママ:訳者注 速記者が天然資源保護協議会Natural Resources Defense Councilと間違えたと思われる]が去年9月に請願書を提出したのですが、職業被ばく限度を10倍下げて、45歳以下の作業員は年0.5レム(5mSv)にすべきだというものです。その時、われわれの組合はこの請願書を支持しました。
現在、われわれ組合の請願書を繰り返しますが、ホールボディー放射線限度を年0.5レム、どの年でも[訳者注:たとえば、5年間で25mSvとして、1年に5mSvを超過しても5年間で調整するということはあってはならないという意味]、3ヶ月で0.3レム(3mSv)、これもどの3ヶ月でも、そして、長期間蓄積線量限度は(年齢−18)×0.5レムに、原子力規制委員会(NRC)が設定すべきという請願です。
国立放射線防護委員会(National Council for Radiological Protection:ママ)は、妊婦の放射線感受性が非常に高いことに言及して、妊婦には年0.5レム、どの年にもですが、この限度線量を勧告しました。もちろん、現行の基準では、自分が妊娠しているとわかる前にはかなりの量の被ばくをすることも十分あり得ます。その時は、NRCの妊婦に対する勧告を拡大する提案に対して、NRC側が妊婦に対して特別措置をするのは好ましくないと表明しました。彼らの理由は、性差別になる、プライバシーの権利と妊婦の働く権利を奪うことになるというものでした。
われわれの提案というのは、妊婦に対する基準をすべての労働者に拡大してほしいというものでした。原発や核施設を管理する点からは、労働者の中である特定のグループだけに特例を設けるのは非常に難しいというNRCの論に組合として賛成しました。しかし、放射線被ばく量をすべての人に対して下げるべきです。
われわれ組合は内部被ばくの問題についても非常に憂慮しています。アルファ線の飛距離が短いというそのこと自体が体内に入ると非常に危険になるわけです。アルファ線の生物学的効果比(RBE:生物効果の効率)が10で、その短い射程距離のために、放出体の近くの体細胞の放射線が大量になるのです。純粋なアルファ線の放射体は体の外から計るのは非常に難しい。バイオアッセイ(生物検定)モニタリングの不正確性は、私が読んだ限り、どの論文でも認めています。
大気中の放射線の基準を厳しくする必要があります。われわれの組合では今すぐに提出する提案はありませんが、確定的な新基準を勧告するべく、大気中の放射線の危険性について研究しているところです。
議事録記載の参考文献
1. Archer, V.E., Gillam, J.D., and J.K. Wagoner. Respiratory Disease Mortality among Uranium Miners. Annals of the New York Academy of Sciences, v.271. 1976: 280-293.
2. Mogliss, A.A. and M.W. Carter. Public Health Implications of Radio-Luminous Materials. Bureau of Radiological Health. Food and Drug Administration. Rockville, Maryland. July 1975. (DHEW-FDA-76-8001).
3. Committee on the Biological Effects of Ionizing Radiation, National Academy of Sciences. The Effects on Populations of Low Levels of Ionizing Radiation. Washington, D.C. N.A.S. November, 1972. P.132.
4. Terpilak, Michael S., and B.L. Jorgensen, Environmental Radiation Effects of nuclear facilities in New York State: v.15, no.7, Radiation Data and Reports. EPA, July 1974: 375-400.
Morgan, Martel関係
LeRoy Moore, “Democracy and Public Health at Rocky Flats: the Examples of Edward a. Martell and Carl J. Johnson”, in Dianne Quigley et al., Tortured Science: Health Studies, Ethics and Nuclear Weapons, Baywood Publishing Company, Inc., NY, 2011
http://www.rockyflatsnuclearguardianship.org/wp-content/uploads/2011/03/Dem-Public-Health-at-RF-12-26-10.pdf
訳者解説:放射線業務従事者への被ばく限度基準
労働組合のコリンズ博士が放射線業務従事者の被ばく限度「年50mSv」に危機感を表明し、他の科学者も高過ぎると警告しているが、この1年後にノーベル医学・生理学賞受賞者のジョシュア・レダーバーグ(JoshuaLederberg: 1925—2008)博士が原子力規制委員会の基準開発課長宛に「年1レム(10mSv)か、望ましいのは、それ以下」という要請書を送っている。この手紙は、コリンズ博士の組合が支持した天然資源保護協議会の請願書「職業被ばくの放射線基準の再検討の要請」(1975年9月)を支持するために書かれた。この請願書の理論的根拠はタンプリン・コックラン両博士の添付論文だった。
レダーバーグ博士の手紙:
http://profiles.nlm.nih.gov/ps/access/BBGFWL.pdf
職業被ばくの線量限度基準の変遷が保健物理学会(Health Physics Society)の文書に記されている。1年間の外部被ばく全身許容量である。
・ 1950年代中頃: 年15レム(150mSv)
・ 1960年:年12レム(120mSv) 注:生涯被ばく量が記録されない場合は、年平均5レム(50mSv)を超えないこと。
・ 1994年:年5レム(50mSv) 注:放射線に対する感受性の強い臓器への許容被ばく線量は、50年間続けて内部被ばくした場合、年15レム(150mSv)を超えないこと。
1994年からは新システムが採用されたというが、臓器への被曝許容量が高いことなど、素人には非常にわかりにくい。しかも、その正当性を以下のように述べているのは更に理解に苦しむ。この論が現在の日本の「原子力ムラ」の論と重なっているようだ。
今日でも[2000年]遺伝的影響は動物実験でしか確認されておらず、発がんのケースは日本の原爆の生存者などのように、高線量を高率で被ばくしたグループにしか見られない。(中略)米国や他の国の放射線従業者の数多くのグループ(コホート)が放射線の職業被ばくに関する病気をみつけるために研究された。今日まで、放射線従事者が受けた低線量による被ばくの影響に関する最も信頼できる研究は、約10レム(100mSv)以上の高線量以外の[低線量]被ばくでは、健康への悪影響は見つからなかった(p.5)。
モーガン博士が保健物理学のパイオニアと称され、学会長を創設の1955年から57年まで務め、その後は1961年まで理事として、61年から69年まで学会誌の編集長として務めている。99年に亡くなっているが、もし生きていたら、この2000年の学会見解に対して、どう対応しただろか。
出典:「放射線労働安全基準と規制は適正—保健物理学会の見解—」(”Occupational Radiation-Safety Standards and Regulations are Sound: Positions Statement of the Health Physics Society”, Health Physics Society, Adopted March 200, Reaffirmed March 2001)
http://hps.org/documents/occupational.pdf